能登半島地震、被災地の口腔ケアへ「水のいらない歯磨き剤」を!宇宙飛行士も使用 大阪府歯科医師会から

最大震度7を観測した能登半島地震では甚大な被害が出ており、いまだその全容が明らかになっていません。そんななか、被災地へは様々な物資が届けられており、善意の輪が広がっています。今回「大阪府歯科医師会」では水がなくても使える歯磨剤(歯磨き粉)や環境に優しい歯ブラシの提供を決めました。実は歯科業界ではこれまでにも自然災害が発生した際に様々な貢献をしてきたそう。大阪・吹田市にある「めいゆう矯正歯科」院長の陳明裕さんに聞いてみました。

―大阪府歯科医師会から被災地域に様々な物資を送り届けると聞きました。

「はい。歯科医師会で備蓄していた水を、もう既に現地にお送りしたそうです。あと、断水などで水が不足している被災地でも口腔ケアができるようにと、水がなくても使える歯磨剤と、廃棄したとき、環境にやさしい歯ブラシを送ると聞いています」

―水がなくても使える歯磨剤って、あまり聞いたことがありません。一体、どんなものなんですか?

「宇宙飛行士とかも使ってるものなんですよ。JAXAのホームページによりますと、無重力でも普通に歯を磨くことはできますが、問題は口をゆすいだ後に吐き出した水なんだそうです。球状になって空中を漂った水が宇宙船内の機械回路とかに入ると、ショートして機械が壊れるリスクが生じます。

そこで、口腔内に残っているハミガキなどをペーパータオル等に吐き出すか、そのまま飲み込むそうです。だからNASAでは、泡がたたず水でゆすがずに、そのまま食べられる歯磨剤を開発しているそうです」

―歯磨剤で歯を磨いて、そのまま飲み込むという解釈でいいんですか。

「普通の歯磨剤でも少量を飲み込む分には特に問題は生じません。フッ素入り歯磨剤の場合は、むしろあまりゆすぎすぎない方が口腔内のフッ素濃度を高く保てます。歯磨剤の主成分である水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどの清掃剤は、胃粘膜保護薬にも同様の成分が含まれているくらいですので、少量飲んだところで問題はありません。

ただし、一般のペーストタイプの歯磨剤だと水でうがいをしないで歯磨きするのは難しいので、タブレットタイプの歯磨剤も販売されています」

―タブレットタイプですか。

「はい。錠剤型だと噛むことで自身の唾液の分泌を促進する作用も期待できます。水の使用が限られる被災地や宇宙での使用以外にアウトドア、抗がん剤の口内炎や知的障害でうがいや水の吐き出しが困難な人などにも使えると思います」

―環境に優しい歯ブラシも届けるとか。

「もちろん、人命救助や食料支援が先決なんでしょうが、被災地では被災ごみの処理が問題になります。そこで普通のプラスチック製ではなく、植物由来のバイオプラスチックで作られた歯ブラシを送る予定だそうです」

―緊急時ですが、環境への配慮も忘れていないんですね。

「ちりも積もればです。ちなみに日本では1年間におよそ4~4.5億本もの歯ブラシが廃棄されていて、そのほとんどがプラスチックゴミになり、それを食べた魚を、私たちが食べてるんです。歯ブラシもたかが1本、されど1本なんです。しかもこれだと、被災者の中に化学物質過敏症の方がいらっしゃっても使えますし、バイオプラスチックは生分解性を有しますので、微生物が分解してくれますから環境負荷が少ないです」

―矯正歯科医院を開業したときと阪神淡路大震災が重なったとか。

「今回の能登の地震も人ごととは思えませんでした。買ったばかりのレントゲン装置はひっくり返り、床や壁紙を張り替えたりして。歯科医師会をはじめ、様々な方々のサポートを受けましたから」

―東日本大震災の際にはボランティア登録したそうですね。

「歯科医師会からボランティア歯科医師の募集があり、応募しましたが、1週間足らずで千名を超す応募者が集まったそうで、僕は選から漏れました。その後、災害時の歯科医師の対応能力向上のための講習があり、僕も受講しました」

―被災地での歯科医の任務とは。

「大規模災害時となれば、怪我の手当てなどがすぐに必要で歯科医が必要になるのは一段落ついた後と思われがちですが、むしろ、その逆です。ご遺体の身元確認。命が助からなかった人のために派遣されています。東日本大震災のときのご遺体の9割近くは身体的特徴や所持品で身元確認できましたが、所持品がない場合に限ると歯科情報による特定率は約7割。これはDNAや指紋・掌紋より圧倒的に多かったんです。

あらためて、行方不明になっている方の一刻も早い発見と被災地域の復興を祈ります」

(よろず~ニュース特約・チコ山本)

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