〈1.1大震災〉「おらの船助からんのか」 輪島港、嘆く漁師

地震による隆起で水深が浅くなり、動かせなくなった漁船の様子を確認する漁師=11日午前11時15分、輪島港

  ●2メートル隆起、何隻も座礁
  ●外浦90キロ、海岸線が前進

 甚大な被害が出た能登半島地震は外浦の景色も一変させた。海岸線は地盤の隆起によって約90キロにわたり沖に前進。石川県内で最も多い約250隻が係留する輪島港は水深が浅くなり、船体が海底につかえ、大きく傾き、いくつもの船が座礁した。「おらの船は助からんのか」。漁師の仕事始めに当たる「起舟祭」が営まれるはずの11日、海の男たちは船上ではなく、丘の上で途方に暮れた。

 漁再開の見通しが立たない中、漁師たちはこの日、岸壁に所狭しと停泊する船の様子を心配そうに見つめた。

 「底についてしまった」。濱谷和善さん(72)は底引き網漁船「大起丸(たいきまる)」に乗り込み、目視できるほど浅くなった海底に目を向けた。

 10代で漁師となった濱谷さんは、33歳の時に今の船を新調、2人の息子と漁に出てきた。

 ただ船体は海底に引っ掛かっている状態で、強い風が吹けば、傷みが激しくなる。新たに船を造るには1億円以上必要になるとし、「漁が再開できるまでに何年かかるか分からないが、船が無事ならまた海に出られる」と希望を捨てていない。

 約3メートルあった輪島港の水深は2メートル超の地盤隆起の影響で1メートルに満たない場所もあり、船を移動させるのは難しい状況だ。

 仮に船を湾に出せたとしても、係留する漁船の数は県内ではダントツで多く、別の係留先を確保するのも苦労する可能性がある。別の港に避難できても、周辺海域の漁業権がないため、漁に出られないという問題も生じる。

 刺し網漁師の上浜政紀さん(60)は「ほかの港の漁師にも生活がある。こんだけの船を受け入れてくれるところは、なかなかないやろう。簡単にはいかん」と漏らした。

 輪島を代表する漁師町である海士(あま)町と輪島崎町では、親子で船に乗る世帯も珍しくなく、20、30代の従事者も比較的多い。漁が再開できない状況が続けば、若者の漁業離れも懸念される。

 底引き網漁師歴三十数年の門木始さん(50)は「この年になってほかの仕事はできん。1、2年かかるかもしれんが、再開まで耐えるしかない」と海を見つめた。

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