ユニバーサルツーリズムあ~だこ~だ vol.7「結婚式への参加をあきらめさせない長野県諏訪地域」

「諏訪しかないかもしれません」

2023年度に観光庁が実施する「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」の応募に向けて、ユニバーサルウェディングを軸として検討していた旅行会社の担当者からの相談を受けました。

ユニバーサルウェディング。全国には式を挙げる2人に障がいがあり結婚式をあきらめたり、出席してほしい親族や友人が高齢や障がいを理由に参加をあきらめたというケースはたくさんあるはずです。その課題に事業を通じて解決したい、その際の実施場所はどこがふさわしいだろうか? という相談に対する私からの回答が冒頭の諏訪でした。

ユニバーサルウェディングを可能にする諏訪の3つの要素

・日本が誇る観光資源「温泉」

・従来の披露宴会場の活用で新たな層にアプローチができる宿泊施設

・式への参加だけではなく、高齢や障がいで車いすを使用していても温泉に入浴できる人的サポート

この3点がしっかりと連携できる環境にあるのは、東京を中心に半径150km圏内では私が知る限り諏訪地域だと思ったからです。

長野県・諏訪地域のユニバーサルツーリズムの取り組み

長野県では、2018年から「信州ユニバーサルツーリズム」として自然豊かなフィールドや温泉を中心に県としてユニバーサルツーリズムの推進が事業化され、セミナーや福祉機器への補助金制度などさまざまな取り組みが行われています。県内でも、諏訪市は2022年に作成した「諏訪市観光グランドデザイン」の中に、誰でも楽しめる場所諏訪としてユニバーサルツーリズムの推進を掲げている積極的な市町村の1つです。

諏訪観光協会では、このようなパンフレットをウェブで発信されていますし、諏訪湖畔に建つ「ホテル紅や」ではウェブサイトの「お体の不自由な方へ」というページで館内のバリアフリー貸切風呂を使用した温泉入浴介助サービスを紹介しています。

ホテル紅や

「お身体の不自由な方へ」専用ページを用意(トップページ右上から)

ユニバーサルツーリズムの推進を掲げる自治体は徐々に増えており、バリアフリー化に取り組む宿泊施設、観光施設も増えつつあります。しかし、観光や温泉入浴をサポートできるソフト面でのサービスと地域や施設が連携できている観光地は全国的にもまだ少ないのが現状です。ユニバーサルウェディング事業においても核となるのは人的サポートを提供できる民間団体「ユニバーサル・サポートすわ」(代表:牛山玲子)です。

ユニバーサル・サポートすわ提供

この春、99才のおじいちゃんの入浴をサポートした際には、なんと親族一同38名が「ホテル紅や」に宿泊されたそうです。ユニバーサルツーリズムに対応して集客につながるのか? いまだに未着手の地域では耳にする言葉ですが、積極的に取り組む施設や地域では、その効果は間違いなく出ています。

そして実現した諏訪大社での式

観光庁への公募事業への提案は審査の結果採択され、夏からは関係者への説明、式の場所の下見など準備がスタートしました。

秋にはモニターも決まり、お2人との打合せも経て12月13日に当日を迎えました。

宿泊した「鷺の湯ホテル」では、朝から車いすでも着用できる白無垢を準備する着付けチーム、介助を担当するチームのお母さん達がそろい、お仕度を終え、諏訪大社下社春宮へ移動。石鳥居から神楽殿に続く石畳の参道は、車いすけん引装置「JINRIKI」を使いました。

神楽殿への階段はサポートチームが付き添い、無事に式を挙げることができました。

〈当日の様子〉

地域の連携で新たな観光コンテンツ・マーケットを創造

今回は、花嫁が車いすを使用する障がい者でしたが、介助が必要なおじいちゃん、おばあちゃんに結婚式に参加してほしいというニーズは全国にあるはずです。個別対応されている式場やホテルはあると思いますが、人的サポートまで含む商品として積極的に販売する地域や施設がなかったため、あきらめている方も多いのが現状です。

観光業が苦手としてきたソフト面でのバリアフリー対応は、地域のバリアフリー観光相談窓口や、高齢者・障がい者向けサービスを提供されている事業者との連携を検討してみてはどうでしょうか。

ユニバーサルツーリズムは必ずしもゼロから構築するものだけではありません。地域の連携によって生まれる既存の観光コンテンツのバリアフリー対応でも新たなプログラムになり、旅をあきらめていた層の需要創出につながります。

オフィス・フチでは全国の様々なユニバーサルツーリズム事業を紹介しています。

寄稿者 渕山知弘(ふちやま・ともひろ)ユニバーサルツーリズム・アドバイザー / オフィス・フチ代表

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