被災地の「人災」

 清少納言は「枕草子」で〈人にあなづらるるもの〉(侮られ、軽く見られるもの)を二つ挙げた。〈築土(ついじ)のくづれ〉(土塀の崩れ)、もう一つは〈あまり心よしと、人に知られぬる人〉(あまりにお人よしと知られている人)である、と▲塀が崩れるどころか、家は傾き、倒壊し、屋根瓦も壊れた人々を軽く見る者ならば、現代にもいる。能登半島地震の被災地で、高齢の女性がブルーシートを高値で売りつけられる被害に遭った▲被災した家を男たちが訪れ、「屋根にブルーシートを張らないと雨漏りしますよ」と話を持ちかける。「3、4枚で12万円」と吹っかけられたが、女性は強い勧めを断れない。息子にもらい、しまっておいた現金で買ったという▲苦しむ人々を、言い値に従う“お人よし”扱いし、法外なカネをせしめる。卑劣というほかないが、不届き者はこれに限らず、空き巣や被災者の宿泊先での置引も多発している▲悲しいかな、どさくさ紛れに被災した人を「もうけ口」と見なす者が現れるのは、災害時の常でもある。耐え難い天災に、卑しい“人災”が覆い被さる▲枕草子の〈にくきもの〉では、急用がある時に訪れては長々と話す人などが挙げられる。被災地を二重三重に苦しめる仕業は、それどころではない〈にくきもの〉の極みだろう。(徹)

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