問題長期化28年… 名護市民に生まれた「分断」とは 地元紙記者が歩く辺野古

土砂の搬出を遅らせるため、ダンプの前をゆっくりと横断する女性=10日、名護市安和

 政府が10日、軟弱地盤のある沖縄県名護市辺野古の大浦湾側で工事に着手し、米軍の新基地建設は新たな局面を迎えました。地元紙の記者が、28年にわたって新基地計画に翻弄されてきた名護市内を歩き、人々の声を聴きました。同じ名護市内でも、東海岸と西海岸の住民の間にある、心の距離と分断とはー。

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 名護市西海岸、安和の国道449号。土砂を積んだダンプカーがひっきりなしに行き交い、粉じんが舞う。琉球セメントの工場から国道を挟んで名護湾に細く延びる桟橋では、辺野古新基地建設用の土砂が搬出されている。沖には何隻もの運搬船が浮かぶ。

 大浦湾の工事が始まった10日正午過ぎ、南城市から来た市民4人が桟橋に向かうダンプカーの前を「牛歩」で行き来していた。

 「土砂の供給を少しでも遅らせたい」。プラカードを掲げる70代女性は語った。

■「人ごとかと言われれば…」

 ほぼ同時刻、近くに住む60代女性は部屋の中でくつろいでいた。「(ダンプ往来による)砂ぼこりで洗濯物が汚れるから長年、室内干し」と、淡々と語る。新基地のことや完成後の影響を尋ねると「人ごとと言われれば正直否定はできない。でも彼らだって軍用地料をもらっているんでしょう。申し訳ない気持ちもあるけど」と返した。そして続けた。「国が決めたことだし、仕方が無い」。

 名護市街地で沖縄そば屋を経営する60代女性は名護に住んで10年以上たつが、「辺野古周辺には一度も行ったことがない。用事もない」という。「新基地の話はピンとこないわね」。もし市街地に面した名護湾に米軍基地ができるとしたらどうか。「それは大騒ぎになるでしょうね」と気まずそうにした。

東海岸にあたる名護市豊原区のシーグラスビーチ。区民がバーベキューをするなど憩いの場所となっている

 合併するまで久志村だった名護市東海岸の住民は西海岸を「名護」と呼ぶ。キャンプ・シュワブに接する久辺3区(辺野古、豊原、久志)の若者たちは「名護の人はたぶん人ごとに思っている」とみる。

 辺野古区の30代男性は飲食店を経営していたが、コロナ禍で厳しくなり、現在は新基地建設の作業船で働く。「(西海岸の)高校に通っていた頃、同級生から『久辺中ってどこ?』と聞かれた」と苦笑する。当時10代とはいえ同じ名護市民に認知されていないことに軽いショックを覚えた。

■市民の虚無感を生んだのは

 ただ、こうした名護市の東西海岸の住民が感じる「距離」の心象は、28年にわたって新基地計画に翻弄されてきた住民の虚無と分断ではなかったか。2022年1月の名護市長選の時、これまで反対を訴えてきた一定数の名護市民が「国に反対しても仕方が無い」と諦め、口を閉ざしがちになっていた。

 久辺3区在住の30代男性は「僕らは同じ名護市民でも遠い場所ですから」と屈折した笑みを浮かべた。「今更、基地による振興策で辺野古周辺が栄えるとは思わないけど、騒音対策の二重窓とクーラー代補助くらいはやってほしい」と国に求める。かつては世帯あたり億単位の個別補償を求めていた時期もあった。

■地元3区が「最も欲しいもの」

 辺野古ではさまざまな施設が整備されてきた。漁港の隣では今、再編交付金事業で約8億4千万円かけて広大な多目的グラウンドの整備が進む。だが、個人商店とコンビニしかない久辺3区地域が今最も求めているのは、「スーパー」だと若い世代は口をそろえた。(社会部・城間陽介)

土砂の搬出を遅らせるため、ダンプの前をゆっくりと横断する女性=10日、名護市安和

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