新年早々、川勝知事が「リニア妨害」宣言!|小林一哉 「難航している南アルプスの自然、生態系の保全とリニアとの両立は2037年までに解決すればいい」新年会見で、真っ向からリニア妨害に徹することを宣言した川勝知事。しかも、JR東海側の発表を曲解し……。

意味不明な「部分開業」論

記者たちを煙に巻く川勝知事の会見(静岡県庁、筆者撮影)

静岡県の川勝平太知事は1月4日の新年会見で、「難航している南アルプスの自然、生態系の保全とリニアとの両立は2037年までに解決すればいい」などと、真っ向からリニア妨害に徹することを宣言した。

県政トップによるとんでもない発言を静岡新聞などのメディアがそのまま取り上げたことで、間違った情報に基づく誤解を多くの県民に与えた。

昨年12月14日、JR東海は静岡工区の未着工を理由に、東京・品川、名古屋間の開業を「2027年以降」に変更することを発表した。

2027年に開業できない理由を「静岡県の対応にあること」を明確にして、リニア建設促進期成同盟会副会長で、早期の建設推進を担うはずの川勝知事へ強い「抗議」の姿勢をはっきりと示したことになる。

このJR東海の発表に対して、川勝知事は「2037年の全線開通を一刻も早く実現するために、できるところから開通していくべきである」と珍妙な「部分開業」論を唱えた。

さらに、そのコメントには「静岡工区を理由に、工事完了の予定時期を変更するとしているが、静岡工区のみならず全工区の進捗状況や工事計画を明らかにしてほしい」とつけ加え、「静岡工区の未着工」をやり玉に挙げたことに不満を露わにした。

その不満をかたちにしたのが、昨年12月26日の会見である。

川勝知事は「丹羽(俊介)社長、事業主体のJR東海は、名古屋まで2027年までにつくるといっていた。全線は大阪までだから、名古屋までの開通は部分開業ではないか」と、あたかもJR東海が「部分開業」を唱えたかのような発言をした。

その上で、「(JR東海は)その部分開業をしないと言っている、(名古屋までは)2027年以降とされた。もう1つ、それ以上伸ばしてはいけない期限がある。全線開通について、2037年とリニア建設促進期成同盟会に加入する際、わたしもそれに賛同して入会したので、2037年、全線開通まで部分開業はしない、とふうに取っている」などと一般の人には理解できない、わけのわからないことをまくしたてた。

つまり、JR東海の発表を曲解して、勝手な「部分開業」論を唱えたのだ。

理解力は小学生以下?

まず間違った情報の1点目は、JR東海は東京・品川、名古屋間の開業を「部分開業」などとひと言も言ったことはないことだ。

昨年12月県議会で、記者会見での静岡県のリニア問題の解決策を持っているとの不用意な発言が追及され、最終的に、川勝知事は「『部分開業』がリニア問題の解決策である」と答弁して、逃げた。

その苦し紛れのごまかしから、「部分開業」論を持ち出して、それを引っ込めるわけにいかなくなっただけである。

2点目は、「大阪まで2037年開業」があたかもJR東海の事業計画かのような真っ赤な嘘を並べ立て、記者たちを煙に巻いたことだ。

JR東海は全国新幹線鉄道整備法に基づいて、名古屋までの2027年開業を実施計画として国の認可を受けている。昨年12月、「2027年以降」の開業変更を申請して、国は12月28日に認めた。

JR東海は「大阪まで2037年開業」を目標としてきたが、名古屋以西について、その完成年を含めて事業計画を作成しているわけではない。

JR東海は「第一段階として名古屋開業後、経営体力を回復して速やかに大阪開業に取り組む」としている。

これを読めば、どう考えても、「第一段階」の名古屋開業が遅れれば、当然、大阪開業も遅れることくらい、小学生でもわかる。

そんな小学生でもわかることが川勝知事には理解できないようだ。

自分勝手な理屈を並べたてて、「リニア開業で2037年は伸ばしてはいけない期限」としてしまい、ことし1月4日の会見で、「静岡のリニア問題は、2037年までに解決すればいい」とするとんでもない結論を導き出した。

当然、事務方はちゃんと承知していたはずだ。

JR東海の金子慎社長(当時)が2020年8月5日の会見で、大阪までの開業は、目標とする「2037年は難しい」とはっきりと述べているからだ。

それも2037年の大阪開業が遅れる理由が、「静岡工区の未着工だ」と、その時点でも金子社長は指摘していた。

リニア問題解決の兆しゼロ

JR東海の金子社長が2020年6月、静岡県庁で川勝知事と対談したが、不発に終わった。この時点で、2027年名古屋、2037年大阪の開業が絶望的となった(筆者撮影)

その際、大阪までの区間着工は、東京、名古屋の開業によって、リニアによる収入が生まれるようになってからだと説明した。

当然、「名古屋開業の前に、前倒しで大阪の工事を着工することは経営面で難しい」ともつけ加えた。

大阪府の吉村洋文知事に、「2037年開業が難しい」を伝えたことも明らかにした。

また丹羽社長は昨年8月3日の大阪市での会見で、「2037年開業は難しい」との認識をあらためて示している。

一方、川勝知事は1月4日の会見でも、「リニア中央新幹線建設促進同盟会に静岡県が入会する条件として、2027年名古屋まで開通、2037年大阪まで全線開通、この方針を受けてわたしは入会した。

しかし、2027年という数字が実質消えて、2037年までに東京から大阪まで全線開通という、これが残された最後の期限ということになる。従って、そのときまでに、環境保全とリニアとの両立という件は、2037年までに解決すればいいとわたしは受けとめている」と述べた。

このあと、記者が「リニアを巡る問題について、昨年10月の定例会見で、山にたとえると1合目より少し進んだと言っていたが、ことし1年で何合目まで進めたいのか」と尋ねた。

川勝知事は「南アルプスが守られたって意味では、1回下山した、登らないで下山したってこと」と答えた。

もともと解決する姿勢のない知事に、「何合目か」を聞くほうも聞くほうだが、これで、2024年も静岡県のリニア問題は解決の兆しさえないことだけがわかった。

川勝知事の欺瞞の正体を暴くことが、本当にリニア計画を推進することにつながっているのかどうか、筆者には見えない部分が多い。

何よりも、リニアに対する国民の関心の低さが、川勝知事の勝手気ままな主張を許しているからだ。

だから、リニア計画を一方的に批判する側は、川勝知事を熱烈に支持する構図となっている。

国は、水問題、自然環境での有識者会議の結論が出たのだから、川勝知事を含めたシンポジウムを開催したらどうか?

その席で、いったい何が正しいのか、間違っているのか、はっきりとさせたほうがいい。このままでは、リニア計画そのものが危ういものになってしまうかもしれない。

新年を迎え、高浜虚子の名句が、昨年からの難題にことしも直面していることを教える。

去年今年(こぞことし=新年の季語)貫く棒の如きもの

購入→http://amzn.to/3Jr21AJ

小林一哉(こばやし・かずや)

© 株式会社飛鳥新社