「ストローク」よりも大事なこと/石川遼 パットの教室 Vol.1

石川遼がパッティングについて語る(撮影/村上航)

石川遼の一番の武器は?間違いなく誰もが「パッティング」と答えるだろう。その技術の高さはツアープロの間でも群を抜き、数多くの名シーンを演出してきた。グリーン上でどんなことを考え、どうやってその繊細なタッチを作ってきたのか。今まで語ることの少なかった頭の中のロジックを、特別に話してくれた。(取材・構成/服部謙二郎)

ストロークはあまり考えないでほしい

インタビューの冒頭、「あの、ひとついいですか」と申し訳なさそうに口を開いた石川。「ストローク(打ち方)に関しては、あまり考えてほしくないんですよね」とのっけから衝撃発言。「練習器具を使ってヘッド軌道の線をなぞったり、ヘッドを真っすぐ動かすことを極めたりしてストロークを磨いても実はスコアに直結しないんですよ。そんなことよりパッティングには難しいことがいっぱいある」ときっぱり。打ち方より難しいモノとは何か?

「いちばん難しいのは『ラインを読む』こと。試合だと一回も打ってないラインを毎回打つわけじゃないですか。20年以上ゴルフをやっていますけど、毎回ラインをバッチリ読み当てるっていうのはまず難しくて、『今のは読めなかったな』というラインが年間でいっぱいあるんです」

パッティングの優先順位を考える石川(撮影/村上航)

石川が考えるパッティングの「難しさの順位(=優先順位)」はこうだ。

1.ライン読み
2.タッチ
3.フェース向き(アドレス)&出球
4.ストローク

上から順に、石川が正解を見つけるのが難しいと考えている。つまりそれらはグリーン上で取り組まなければいけない優先順位に直結する。「1メートルを1000回打ったら、ストロークの差が出るかもしれないですけど、ミドルパットやロングパットはストロークが良いから入るということはない。曲がるラインになった瞬間に、ラインを読む力、強さを合わせる力(タッチ)、それと思ったとこに打つ力(フェース向きと出球)が求められる。ですからストロークって、パットにはほぼ関与してないんですよね」

上から順に石川のプライオリティが高い(撮影/村上航)

石川は続ける。「ストロークは毎回違って当たり前ぐらいに捉えています。それよりも、ストロークが違った瞬間にとんでもない方向に球が出るのだけは避けたい。つまりストロークが違っても、毎回思ったところに球が出ればいいんです」

思ったところに球を出すために重要なのが、難しさの3番手にあるフェース向きと出球の管理。「めちゃくちゃトウ側に当たろうが、ヒールに当たろうが、両方とも思ったところに出ていればOK。逆に100点満点のストロークをしたのに、フェースの向きが1度左を向いていたら、1度左に出るわけですから、それの方がミスパットです」

石川遼直伝 スマホを使ったアドレス練習

自分のスマホを使ってやってみよう(撮影/村上航)

では、球を思った方向にフェースを向けるためにはどうすればいいのか?まずは「アドレスの事前準備が大切」と石川は言う。「足や肩の向きなどはどうなっていてもいい。唯一、気にしてほしいのはフェース向き」と、出球方向にフェースを向けて構えられない人が多いと指摘する。

「家のパターマットで“百発百中”入るほど練習している知人がいて、彼はコースのグリーンに行くとアドレスがすごくブレる。フックラインの時に、僕がラインを読んで『カップの右端狙いましょう』と言っても、右端を向けない。右端のつもりが、カップ1つぶん右を向いたりする。そうなると、うまく打てたとしてもカップの右側を通り抜けるじゃないですか。それに対して彼は『プッシュアウトした』と言って、ストロークのせいにしちゃうんです。入らなかった原因が、アドレスの向きのせいなのか、ストロークのせいなのかを間違えると、結構ドツボにはまっちゃうんですよね」

だからこその“正しいアドレスのフェース向き”であり、「その方が遠回りしない」と石川は言うのだ。

スマホを合わせるときは真剣に(撮影/村上航)

石川はストロークの練習をしないというが、代わりにフェース向きを合わせる練習はよくしている。「フェースの向きって毎日ズレる。だから定期的にチェックして、毎回角度を変えて違う場所からもチェックするんです。2、3回同じところから続けると、やっぱり目が慣れてくるので、いろんな角度からチェックした方がいいんですよ」

このアドレス練習は、「家でもできますよ」と石川。「ペットボトルなどの目標物を1メートル先に置いて、そこにフェース面を合わせるドリルです。ヘッドをいきなり目標に合わせるのではなく、スマホなどを目標に向かって真っすぐになるように置き、そのスマホにヘッドを合わせてください」と、構える場所のすぐそばに“真っすぐの既成事実”を作るのがコツだという。

「スマホの真っすぐがズレたら意味がないので、スマホはめっちゃ真剣に、真っすぐ合わせてください(笑)」と言って、石川は目標に対してスマートフォンをセットし、パターのフェースにピタッと合わせた。確かにこれなら我々もできそうだ。

スマホは角ばっているので合わせやすいと石川(撮影/村上航)

ただヘッドを合わせただけでは終わらず、「構えた状態で目標を見ることが大事」と石川。「スマホの向きとフェース向き、そしてターゲットの位置関係をちゃんと見てください。そのあと一度構えを解いて、また構える。それで再び目標を5秒ぐらいジーっと見た後に、パっとヘッドの辺りに目線を戻す。その時にフェース向きに違和感が出たら、それはまだフェースがズレている証拠です」。何度やっていても、違和感が出るときは出る。「フェースの向きがカップの幅に収まれば合格。1メートルの距離ですが、ズレるときは左右5㎝ずつの幅(カップの大きさ)に収まらない人は意外と多い」

構えた状態で必ず目標を見ること(撮影/村上航)

「試合になったら、『アドレスは大丈夫かな?』などと考えずに、ラインとターゲットに集中して、『向けている』と信じて打つだけ。出球に集中して、パッと構えて、ポンって打つ。そのシンプルな思考で試合はやりたいんで、だからこそ練習では思ったところに構えられるように、集中して取り組んでいるんです」

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