自衛隊の災害派遣経費は自腹でいいのか?|小笠原理恵 「休暇中に帰省するのは許可するけど、何かあったときは自腹で帰ってきてねというスタンスです」と自衛隊幹部。被災地で活躍する自衛隊に多くの国民が感謝しているが、自衛隊では災害派遣活動中でも自腹負担が多数みられる――。(サムネイルは「陸上自衛隊 中部方面隊」Xより)

災害派遣で自衛隊員が抱える事情

1月1日16時10分、マグニチュード7.6の直下型地震が発生、石川県志賀町では震度7を計測。その後も最大震度5弱以上の地震が発生し、津波による被害も報告されている。

この能登半島地震で能越自動車道やのと里山海道などで、道路の損壊や土砂崩れが発生した。損壊で通れない道があれば、使える道に車両は集中する。発災直後に石川県の馳浩知事は岸田総理らに連絡を取り、首相官邸に移動、自衛隊への災害派遣要請を行った。

1月5日時点で自衛隊は予備自衛官100人を含む5000人態勢で、人命救助活動や道路の啓開作業、被災者の食事や入浴支援、輸送艦を使っての重機輸送などを行っている。

被災地であらゆる状況に対応できる自衛隊は救援活動・救難物資輸送の要だ。ライフラインが途絶し、孤立した集落にも燃料や食料等、救援物資を徒歩搬送で届けることができる。

被災地で活躍する自衛隊に多くの国民が感謝している。しかし、それとは裏腹に自衛隊の募集は低迷し、中途退職者が増加、深刻な人材不足が問題となっている。なぜ自衛隊から人が離れていくのか。この要因はいくつもある。

今回は、災害派遣で自衛隊員が抱える事情を考えていきたい。

非常呼集時の帰隊費用の苦悩

自衛隊の任務は多岐にわたる。日々の訓練や警戒行動だけでなく地域からの要請にも出動する。要請は災害派遣以外にも、ワクチン接種、鳥インフルエンザへの防疫処置、城壁やため池の清掃等、多様な地域の要請を受けている。若年隊員が不足し高齢化が進む一方で任務が増加しているのが現状だ。

そういった不測の事態に備える自衛隊の休暇は貴重だ。正月休みやお盆休みは家族と過ごせる特別な休暇期間である。その貴重な元日であっても非常呼集があれば、休みを切り上げて航空機や深夜バス、時にはタクシーを使って慌てて帰隊する。

この交通費は隊員の個人負担だ。JRや航空機の往復券を買っていた隊員は多額の負担を強いられることとなった。SNS上には苦しい胸の内を明かす隊員や家族がいる。

《そう、帰っていきました。3日なので、普段の2倍のバス代。4日なら、半額だったのに!》

《ギリギリまで勤務して、北海道に帰省した次の日(1/2)に飛行機で職場に帰った子の旅費が出ないことが、本当に不憫なのでこの問題は本当にどうにかなって欲しい》

自衛隊では実家の帰省は個人の都合で帰っているだけで、自衛隊としては、「休暇中に帰省するのは許可するけど、何かあったときは自腹で帰ってきてねというスタンスです」と自衛隊幹部は言う。

仕事の都合で呼び戻されるのだから職場が経費を負担するのが当たり前ではないか? と一般の人は考える。だが、自衛隊では災害派遣活動中でも自腹負担が多数みられる。隊員に負担を強いる組織の冷たさが、中途退職者が増加し続ける要因のひとつではないかと思う。

ヘッドライトはポケットマネー?

防衛省は能登半島地震の活動報告をXに投稿している。大きく損壊した建物や被災者の情報を収集する自衛隊員の写真を見ると、ヘルメットにヘッドライトを取り付けている自衛隊員の姿が散見される。いくつかの写真を見比べると自衛隊員の取り付けているヘッドライトの種類が違うことに気づくはずだ。なぜか。自衛隊員が自費で購入しているからである。

(自衛隊の官給品)

自衛隊にも官給品懐中電灯がある。この写真のようなL字型の豆電球タイプの官給品がわずかに配備されているが、全員分はない。豆電球は消費電力が多く、薄暗い。現在の主流は長寿命で発光効率が良いLEDタイプの懐中電灯だ。

能登半島に限らず、被災地では電気の供給が途絶える。あたりは漆黒の闇だ。瓦礫の中に被災者を探すような作業には光が欠かせない。

だが、官給品の懐中電灯は手に持たないといけない。両手がふさがれては作業にならないため、自衛隊員たちは仕方なく自分でヘッドライトを買って装備する。私物に使う電池代はその持ち主である個人の負担になる。毎日のように夜通しこのヘッドライトを使うため、その負担は大きい。

皆さんは自衛隊員のポケットマネーを使って助けてもらっていることを知っていただろうか。

東日本大震災時に話題になった破れた手袋

自衛隊の手袋も問題だ。東日本大震災時に破れた手袋のまま作業をしている自衛隊員の写真が話題になった。

震災救援で予備自衛官を招集 防衛省

自衛隊員が隊員に配る物品は官給品という。手袋は官給品でも貸与扱いなので、返却しなくてはならない。作業中で貸与された手袋が破損や紛失するとルール上は、報告書を書いて物品が来るまで待つ必要がある。

破損や紛失が故意や重大な過失の場合は、減価償却された貸与品分を賠償することになっている。重大過失による賠償事例は多くはないが、手袋ひとつでも規則にがんじがらめだ。官給品の手袋は破れやすく、破損した時の手続きが面倒臭い。だから自腹で私物購入する隊員が後を絶たない。

自衛隊の官給品手袋は滑りやすく破れやすい。被災現場は瓦礫の散乱する危険な場所だ。折れた木材や金属片があり簡単に手袋は破れてしまう。自腹で購入した私物のほうが、負傷リスクが減り面倒もないと諦めてしまう。

(自衛隊の官給品の手袋 裏表)

待遇改善も防衛力強化のひとつ

この事実を知って「災害派遣現場での手袋を消耗品と考えて、破れたらすぐ交換できないのか?」と自衛隊員の待遇改善に熱心な和田政宗参議院議員に相談したところ、「能登半島地震について、手袋は十分な量を確保、投入しており、破れた場合はすぐに交換する。 防寒対策についてもしっかりやるよう現場に伝達する」と防衛省関係者から回答を得た。

和田政宗議員は言う。
「東日本大震災の自衛隊を見ていますから、防寒対策は特に重要と考えています。現場で凍えたりする自衛隊がいてはなりません」

自衛隊が報われるようにと考える国会議員は僅かながら存在する。自衛隊員に敬意を払ってくれる保守系の議員の数が増えてほしいと願う。

自衛隊災害時の手当は自衛隊の場合、日額で1620円、作業が著しく困難な場合は日額3240円。これは国家公務員の災害派遣手当が日額1080円、作業が著しく危険な場合は日額2160円と比べて少し金額が多いが、自衛隊はそもそも残業手当も休日手当もない。

河野太郎元防衛大臣が2019年11月12日のブログで「自衛隊の災害派遣等手当は他と比べて遜色ありません」と書いてあるが、残業手当等も含めて比較すると、少ないように思う。自衛隊員には国家公務員の残業や休日手当に当たる部分も補填する職責に見合った災害派遣手当を出してほしいと言わざるを得ない。

組織から大切に扱われていないと感じると人は離れていく。自衛隊の待遇改善も防衛力強化のひとつだ。

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小笠原理恵

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