イ・ビョンホン、日本ファンとの時間は感慨深いもの…「コンクリート・ユートピア」狂気的な姿で魅せた存在感

狂気的な姿で魅せた存在感「外見を想像して…」

――本作への出演が決まった時のお気持ちを教えてください。どのようなところに魅力を感じて出演をきめたのでしょうか?

イ・ビョンホン:脚本を読んだ瞬間にこれはすぐに決めなければならないと思いました。それくらい面白かったです。実はこの作品は、あえてジャンルで分けた時に「災害映画と言えるのか」と思うくらい、違う質感を持っています。普通の災害映画では災害が続いて、話の全体を通して災害がメインとなることが多いのですが、この映画では災害が起こった後に人々がどのように耐え、コミュニケーションを取って状況を乗り越えながら苦労して生きていくことになるかを如実に描いています。そういった意味では、むしろヒューマンドラマやブラックコメディ寄りだと思います。このような部分において災害映画とは違うと思って選びました。

――狂気的な本性が露わになったヨンタクの存在感には圧倒されました。演じる際はどのようなことを意識されましたか?

イ・ビョンホン:俳優はただ台本を読むだけでなく、作品の中で生きているキャラクターそのものにならなければならないと思います。まさに俳優の努力が必要な部分です。私は“生きているキャラクター”になるために、監督たちとたくさんの会話をするほうで、オム・テファ監督ともそうでした。ヨンタクの外見についてもたくさんのアイデアを出して、権力を得ていく中でヘアスタイルも微妙に変化していくというディテールを加えました。ヨンタクは災害が起きた後の極端な状況であるため、外見的にも大きく変わった姿で登場します。通常、私は撮影を始める前にキャラクターの外見を作り上げていくのですが、論理的にこうだから「ヘアスタイルがこうでなければならない」と決まったものはありません。ただ、色々な髪型を試していくうちに「ヨンタクはこんな感じだろう」という方向性が見えてきます。

――外見についても事前にしっかり話したんですね。

イ・ビョンホン:外見については、髪が太く伸びていくスタイルを持つ人がいますが、ヨンタクがそうではないかという話から始まり、その姿を表現しようとメイクチームと相談をしました。M字に禿げ始めている姿を想像し、その姿で撮影を始めました。ヨンタクの変化過程に関しては作中で彼が極端な行動や話をする状況が何度かあります。特にある行動を起こした後、吐き気を催して吐いてしまうシーンにおいて、説得力を持って表現するのに時間がかかりました。監督がどうやって私を説得したかというと、理性の糸がすべて切れてしまうほどの悔しさと怒りがあったのだと考えるように言われました。自我を失うほど理性がなくなってしまう状況だから、そのような行動ができて、そのようなことが起こるのだと説得されました。

――ヨンタクが住民の前でカラオケを歌うシーンは、楽しそうでどこか怖いという、特に印象的なシーンでした。

イ・ビョンホン:脚本の時点でも一番気になるシーンでしたが、完成した作品を見ると一番印象的な部分でした。当然、絵コンテの通りに撮影をしました。その日の撮影が終わった時、このシーンがうまく完成すればキーポイントになると思いました。もともと絵コンテがあったのでそのシーンを頭の中で描くことができ、感情的に演じるのに役立ちました。かなり長いテイクで撮ったシーンなのですが、とても盛り上がる曲で、歌っている最中に突然過去にフラッシュバックして再び現実に戻り、私の顔がクローズアップされるのですが、その時の一瞬の感情の変化を監督が求めていたので、歌を歌いながらその撮影に臨みました。

――ヨンタクという人柄について、どう解釈されていますか?

イ・ビョンホン:そして実は初期の脚本では、ヨンタクはかなりストレートな人物として描かれていました。極端な状況に陥った時、この人物がどうなるのか想像してみたのです。キム・ヨンタク? まず、ヨンタクという人物はすべてを失った人として始まります。そんな憂鬱な状況の中で結局、その人の人生そのものは怒りと恨みがベースになっていると思います。予想外の変化によって身分が上昇し、味わうことになる権力欲。ヨンタクのような人たちがその味を知ったらどうなるのか。そこに集中して演じました。

――オム・テファ監督は、イ・ビョンホンさんの演技を「表情で全てを表現してくれた」と絶賛しています。撮影中に監督とは、どのようなやりとりをされたのでしょうか。

イ・ビョンホン:監督は口数が少ない方なので、会話の中で引き出さないと、何の演出もなく演じなければならない時もありました。普段、私は演技をするときにあれこれアイデアを出すのが好きなのですが、オム監督はそれを好んで受け入れてくれました。

パク・ソジュンとの共演「俳優として敏感で繊細」

――ミンソン夫婦を演じたパク・ソジュンさんとパク・ボヨンさんと共演していかがでしたか?

イ・ビョンホン:長い間演技をしてきましたが、初めて会う俳優がまだたくさんいます。パク・ソジュンとパク・ボヨンがそうでした。本当に美男美女で、可愛くてハンサムな人達とばかり思っていました。それでも一緒に長い時間を過ごしてみると、パク・ソジュンは演技をする時に微妙な感情を演じることが出来て、キャラクターの変化を彼なりに計算するのを見て、俳優として敏感で繊細な方だなと感じました。人としても俳優の後輩としても良い人だと思います。同じ事務所に所属しているパク・ボヨンも、あるシーンで「あんな目つきができるのか」と感心して驚いたシーンがありました。撮影が終わってから、どのような心構えだったかについて話をしましたが、本当に演技を真剣に考えている俳優だなと思いました。

――真冬が舞台の本作ですが、撮影は真夏だったとお伺いしています。撮影時に大変だったことは?

イ・ビョンホン:やはり一番大変だったのは、猛暑の中で真冬の服を着て撮影をしなければならなかったことで、体力的に容易ではありませんでした。スタッフと俳優全員が天候に苦労した現場でもありました。冷房が比較的よく効くモニタールームを頻繁に訪れて、より熱心にモニターを見ることもありました(笑)。

――「大鐘賞映画祭」では今作で男女主演賞を受賞されました。今作で大きな賞を受けて、いかがでしたか?

イ・ビョンホン:コロナ禍で劇場に大きな打撃があり、現在もまだ続いていますが、それでも多くの観客の方々が映画に興味を持って「コンクリート・ユートピア」を観覧してくださったことに本当に感謝の気持ちでいっぱいでした。誰もが夢見る主演男優賞をこの作品で受賞できて、さらに光栄でしたし、真夏に一緒に苦労したスタッフたち、熱演を披露してくれた俳優たちに感謝します。周りの人達からも祝福のメッセージがたくさん届き、家族も誰よりも喜んでくれました。2023年は良い作品で受賞の栄誉を享受しましたが、最も重要なのはこれからの作品でもあると思います。

3年ぶりの日本ファンとの交流「感慨深いものがあった」

――2023年はどんな1年でしたか? 6月には3年ぶりに東京でファンミーティングを開催されました。日本ファンとの交流はイ・ビョンホンさんにとってどのような時間でしょうか?

イ・ビョンホン:2023年は本当に久しぶりにファンミーティングを行い、日本のファンの皆さんと近くで顔を合わせて話をすることができた年でした。とても感慨深いものがあり、日常を取り戻したような気がする一方で、感謝の気持ちでいっぱいでした。

――日本では1月5日に公開となり、2024年最初の映画が「コンクリート・ユートピア」になる人も多いと思います。そこで、イ・ビョンホンさんが2024年に挑戦してみたいことを教えてください。

イ・ビョンホン:「コンクリート・ユートピア」の次に皆さんにお届けする作品は、「イカゲーム」のシーズン2になると思います。撮影に一生懸命励む予定で、機会があれば「コンクリート・ユートピア」で日本にも行けたらと思います。

――映画を心待ちにしている日本の皆さんへメッセージをお願いします。

イ・ビョンホン:2024年の年始から日本で公開となりました。2024年も忙しく、作品を作る時間で埋まることになるかと思います。日本で映画が公開される時に舞台挨拶をしたことはあまりないと思いますが、日本での舞台挨拶の機会があれば是非ファンの皆さんと劇場でお会いできたらと思います。

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