「1兆円超えは確実」の声も…馬毛島自衛隊基地着工から1年経っても見えない総事業費

馬毛島に整備される施設

 西之表市馬毛島の自衛隊基地整備は12日、基地本体の着工から1年がたった。真っさらな島を丸ごと買収し基地化する異例の巨大事業は、残り3年程度という工期を区切りながら、買収額や総工費などはまだ示していない。不透明さを積み残したまま、前例のないスピードで進んでいる。

 防衛省は2023年1月、環境影響評価(アセスメント)の最終まとめとなる「評価書」を公告し、基地本体に即日着工した。評価書によると、着工2年目(24年)は工事資材搬入の「ゲート」となる仮設桟橋が3月ごろ、2本の滑走路は9月ごろにも工事完了の工程を示している。

 基地完成後は、米軍が求める空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)の恒常的な訓練地となるほか、陸海空の自衛隊部隊も頻繁に活動する。中国軍が進出を強める地域でプレゼンス(存在感)を高める狙いもあり、政府が「かつてない防衛力強化」にかじを切る中で、機能強化を懸念する声は根強い。

 西之表市馬毛島の基地にかかる総工費について、防衛省は「離島という極めて特殊な条件の大規模工事。現時点で答えるのは困難」とする。これまで積み上げた予算(契約ベース)は調査段階だった2012年度から24年度当初まで計8821億円に達する。

 沖縄の米軍普天間飛行場の辺野古移設計画で見込む総工費約9300億円に既に迫っている。人手不足や物価高が進む中、工事関係者には「馬毛島も1兆超えは確実」との見方が強い。

 予算の不透明さもたびたび取り沙汰されてきた。防衛省は19年11月、島の大半を持つ地権者と売買に合意。買収額は160億円とされるが、国は「適切な時期に説明する」として発表していない。そもそも買収額は当初予算に計上せず、辺野古移設の工事費から流用。基地の設計費なども地元に説明しないまま、同様に流用の形を取っていた。

 本体工事でも入札を経ず大幅に増額する契約変更が相次ぐ。22年度に随意契約した港湾や滑走路、仮設桟橋の工事では当初の計1680億円から3500億円以上に倍増した。防衛省は「予算の範囲内」とするが、「増額があまりに巨額。透明性に欠ける」「不正の温床になりかねない」との指摘も出ている。

■人口急増

 工事関係者は種子島2000人、馬毛島4000人の最大6000人規模とされ、最新の昨年12月22日時点では約2800人。5月に防衛省が示した「推移の見通し」と比較すると6割強にとどまり、2月とみていたピークはずれ込む可能性がある。

 馬毛島に滞在する関係者は、見通しの4割の約千人。「離島の離島」だけに海況が大きく影響している状況がうかがえる。「種子島の負担軽減」を目的とした3000室超の馬毛島の仮設宿舎整備も、約千室と3分の1しか進んでいない。

 工事関係者の大量流入に伴う生活ごみの急増も懸念されている。西之表市、中種子町のごみ処理を担う種子島清掃センター(同市)で処分できる可燃ごみは1日22トン。種子島地区広域事務組合によると、現状の処理量は着工前後でほぼ変わらず、約95%で推移する。

 人口の自然減に加え、同省が馬毛島に焼却炉を設置するなどして、影響が最小限にとどまった格好だ。ただ馬毛島で発生した焼却灰をどこで処理するかなど、検討課題は残されている。

■重い環境負担

 馬毛島周辺は種子島特産の貝「トコブシ(ナガラメ)」の主要漁場。現時点で、27年11月末まで東側の海域約1100ヘクタールには漁業制限がかかり、うち約100ヘクタールは港湾施設周辺で漁業権は消滅する。アセスでは桟橋や港湾工事周辺で水の濁りが発生すると予測。今月8日に上空から海面を見ると、基礎石(捨て石)などを投入する大型船が並び、白い帯のような濁りが確認できた。

 防衛省は藻場やサンゴが一部消失するとみているが、濁りは「局地的で一時的な影響」とする。だが、漁業者や観光業者からは周辺への影響を懸念する声が根強い。環境省レッドリストで絶滅の恐れがあると分類されたマゲシカ、天然記念物のオカヤドカリ、ウミガメなどの生息域も劇的に狭まり、環境への負担は重い。

◇馬毛島基地(仮称)

 「く」の字型の2本の滑走路(主滑走路2450メートル、横風用1830メートル)や管制塔、隊舎のほか、事実上「空母化」する自衛隊最大の護衛艦が入港可能な港湾施設を造る。米軍空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)の恒常的な訓練地となり、陸海空の自衛隊部隊も連続離着陸や機動展開など各種訓練を行う。空自が管理する。現計画では米軍のFCLPは年1、2回。1回あたり10日程度(準備を含め約1カ月)としている。4~6機の計約60機が入れ替わりながら、着陸と離陸を繰り返す「タッチ・アンド・ゴー」を行う。

港湾施設の整備が進む馬毛島東部の沿岸=8日、本社チャーター機から
港湾施設の整備が進む馬毛島東部の沿岸=8日、本社チャーター機から

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