「凍った地面に腹ばいで…」北朝鮮女性兵士の終わらぬ苦痛

北朝鮮の金正恩総書記は先月27日、朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議の第2日会議で「軍と軍需工業部門、核兵器部門、民防衛部門が戦争準備の完成に一層拍車をかけるための戦闘的課題」を示したという。

これを受け、「民防衛部門」では冬季訓練を格段に強化している。この訓練は従来から、特に女性兵士らにとっては恐怖の対象となっている。社会の様々な部門で暴力や横暴の対象となっている北朝鮮女性だが、この訓練での苦痛も、心身の健康に大きなダメージを与えている。

北朝鮮の正規軍である朝鮮人民軍は兵力約120万人と見られており、さらに数百万の予備役と準軍事組織が控えている。

準軍事組織の中で最も規模が大きいのは、約350万人を擁すると言われる労農赤衛軍だ。その名が示す通り、隊員らは普段、工場や協同農場で働いている。日頃から軍隊生活をしているのではなく、大規模な訓練や工事があるたびに駆り出されるのだ。

労農赤衛軍には、満17~30歳の未婚女性労働者と、別の準軍事組織である教導隊に属さない17~60歳の男性労働者が属している。

一昨年の訓練に参加した両江道(リャンガンド)の女性は米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、訓練の厳しさについて次のように語っている。

「すべての訓練が苦しかったが、いちばんつらかったのは、凍結した地面を腹這いで進む匍匐前進と、何時間もうつ伏せになっていなければならない射撃訓練だった」。これは、正規軍で10年に及ぶ兵役を終えた経験者ですらつらいものだったという。

ちなみに、金正恩氏は出生率の低下による人口減少を懸念を示していると見られるが、そこにはこうした無茶な訓練も悪影響を与えていると見られる。RFAは昨年11月13日付の記事で、北朝鮮では女性兵士らが、兵役時の劣悪な環境下で女性疾患をわずらったり、性暴力にさらされたりしていることが、出生率に影響を与えている可能性を指摘しているのだ。

しかし、冒頭で触れたとおり、金正恩氏は民防衛部門の準備体制のいっそうの強化を注文している。デイリーNKの内部情報筋によれば、先月に行われた労働赤衛軍の訓練はさっそくこの指示に沿って強化され、途中で倒れる人が続出するほどだったという。

金正恩氏は、ロシアとの軍事協力が上手く行っていることで、気持ちが盛り上がっているのかもしれないが、末端兵士らが置かれた劣悪な環境はなにも変わっていない。そんな状況で訓練を強化しても、兵士は疲弊する一方であり、「戦争準備の完成」などとうていおぼつかないだろう。

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