社説:IRの行方 カジノ頼みは再考すべきだ

 カジノを核とする統合型リゾート施設(IR)の整備を巡り、国は長崎県の計画の不認定を決めた。国土交通省の審査で事業資金の確保や運営の在り方がことごとく否定され、「門前払い」とも言えよう。

 最大3カ所のIR整備が想定されていたが、開業計画が進むのは大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)の大阪IRのみとなった。

 国はIRを「経済の起爆剤」と位置付けるものの、賭博の収益で観光や地域の振興を図る手法はまともな経済政策とは言い難い。いま一度、IRが抱える負の側面を直視し、カジノ頼みの活性化策は再考すべきだ。

 長崎IRは、長崎県佐世保市のリゾート施設「ハウステンボス」の敷地に誘致する予定だった。カジノ施設や国際会議場、タワーホテルなどを整備して2027年秋ごろに開業し、地域経済への波及効果を年間約3300億円と見込んでいた。

 だが、国は事業に必要な4383億円の調達の不透明さに加え、オーストリアの政府系企業を中核株主とする事業者にIRの運営実績が乏しいとして、事業の継続性への懸念も示した。

 IRは治安面など地域への影響が大きく、県が多額の公費で後押しする以上、透明性が欠かせない。妥当な判断だ。

 IRは当初、横浜市など8地域が誘致の検討に名乗りを上げた。だが、市民の理解は得られず、相次いで撤退。応募は2地域にとどまり、大阪府・市は昨年4月に認定されたものの、長崎県は継続審査となっていた。

 世界的にカジノの売り上げは減少しており、コロナ禍やインバウンド(訪日観光客)の落ち込みで採算性や波及効果が疑問視される。自民党衆院議員が絡むIR汚職で「利権の闇」も浮き彫りになった。ギャンブル依存症の増加や生活環境悪化への懸念は根強い。

 大阪IRは唯一認定されたとはいえ、乗り越えるべきハードルは高い。開業は認定段階より1年遅れの30年秋ごろとされ、建設資材高騰などを踏まえ、初期投資額も約1兆2700億円にまで膨らむ。早くも計画のほころびが露呈している。

 事業者の都合によりIRから撤退できる「解除権」も押し切られる形で26年9月末まで延長された。夢洲は液状化や地盤沈下が懸念される。IRは「民設民営」が原則にもかかわらず、大阪市は対策工事に最大約790億円の公費をつぎ込むが、頓挫さえ危ぶまれかねない。

 「負の遺産」とされた夢洲の活用をもくろみ、IRと一体で推進された大阪・関西万博は開幕予定が来春に迫る。並行するIR着工で建設費高騰や人手不足に拍車がかかり、能登半島地震の被災地復旧にも影響を及ぼそう。

 経費が膨らむ万博も併せ、このまま突き進んでは禍根を残す。京都・滋賀からも近く、大阪だけの問題にとどまらない。

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