[三ない運動問題] 熊本県立矢部高校の取り組み#3【高校年代から安全意識を醸成】

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モビリティの運用について、学校教育現場はどう考えるべきなのか。長年バイク通学を許可し、学内で原付免許が交付され、バイクの部活「二輪車競技部」があることでも知られる熊本県立矢部高等学校の緒方宏樹校長に尋ねた(第3回)。(※以降、敬称略)

●文:ヤングマシン編集部(田中淳磨)

【熊本県立矢部高等学校校長:緒方宏樹さん】1965年生まれ。担当教科は農業で、矢部高校は初任以来2度目の勤務となる。高校生の時に原付免許を取得し、年末年始は郵便局で年賀状集配のアルバイトをしていた。また、若い頃にはマウンテンバイクにものめり込み、2輪に親しんだ。

交通社会を考えると、早くから乗せて指導した方がよい。指導法や環境面などで課題も

――バイクを含めた通学でのリスクについて、教育者としてどのようにお考えでしょうか?

緒方:先生によって考えが違うと思います。熊本市街にいると事故の話はよく聞きますし、これまで勤務した学校では、バイク事故で命を落とした生徒もいました。そういう経験があると、より慎重になりますよね。「あの時、あの校長先生が許可を出したからこうなった」となりますから。

ただ、交通社会を考えると「本当は早くから乗せて指導したが良いんだろうな」と皆さんご理解はされていると思います。矢部高校ではその実践ができているので、安心して「乗せて指導する」と言えますが、他の高校でそこを1人で打ち出していくのは難しいと思います。

――矢部高校が生徒に指導する上での課題を教えてください。

緒方:生徒に教える立場にもなる二輪車競技部については、指導者と練習場所です。職員は異動があるので、地元の指導者や複数の顧問をつけることで活動が維持できるようにとは考えていますが、教え方などには個人差があります。また、生徒達が満足できる指導のためには、練習スペースが必要です。やはり広い場所で指導しないと教えるにも教えにくい部分が出てくるので。

あと、競技部も含めての話ですが、学校としての情報発信強化も課題です。県内で2〜3番目に高齢化が進んでいる町なので、若い人が少なく、働く場もどんどん減っています。学校がある山都町からはさまざまな支援を受けており、実業系高校として、林業や農業、さらには自治体を支える人材を育てたいです。地元に定住する卒業生が増えてほしいですし、大津町が道の駅をバイクの聖地にしたように、山都町に来るライダーと生徒の交流が生まれたら面白いとも思います。注目され、見られていると感じれば、部活動もより一生懸命するし、より安全運転を心がけてくれると思います。そこは我々大人がしっかりすべきですね。

――保護者/PTA/地域住民の方の声はどうですか?

緒方:昔から地域の方々にはバイクに乗っていることについてご理解はいただいていますが「危険な運転をしている生徒を見かけたよ」という通報はたまにあります。ただ「ちゃんと教えてあげてね」と愛情を持って通報していただける雰囲気はあります。

PTAの方には、各学期に1回ある登校指導に参加協力をいただいて、バイクで通学する生徒の様子を見てもらっており、良い関係性が築けています。

――二輪車競技部の意義や今後の期待について教えてください。

緒方:山の中の学校ですが、いろいろなところとつながって活動できるというのは、子どもたちにとって成長の場にもなっています。部活動が普段の生活とつながっているという、他にない特色を活かしながら人間教育ができるというのは、二輪車競技部の良さだと思います。

二輪車競技部で活動することで、高校生の年代から交通安全への意識が高くなりますし、自分なりの考えをみんなに発表しないといけないし、もし他の高校に指導する機会があれば、誰かに教えるという経験も得られます。そういうところでもっと生徒たちが伸びてくれることを期待しています。

――ありがとうございました。

3年生で二輪車競技部長のDさん。2023年二輪車安全運転熊本県大会・一般Aクラスで見事優勝した。矢部高校からは他に2名がクラス優勝を果たした。

矢部高校でのバイク通学の様子。原付スクーター/フルフェイスヘルメット/指定のジャンパー/ナンバープレート部の表示などに規定がある。※写真は2016年撮影

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