彼氏から「自立した人が好き」と言われた女性が最終的に“別れ”を選んだ深いワケ

恋人関係であっても、お互いの事情はそれぞれが責任を持って向き合うのが自立した状態。

その考え方は間違ってはいないかもしれませんが、「自立すること」ばかり意識が向いてしまうと優しさや配慮の入らない関わり方が生まれることもあります。

「精神的に成熟した女性がいい」と口にする彼氏を信頼していたけれど、その「自立」は恋愛で大切な何かを捨ててはいないか、と気がついた女性は、最終的に別れを選びました。

彼女に何があったのか、彼氏の姿に何を見たのか、お伝えします。

「依存はふたりをダメにする」という共通の認識

楓さんは31歳、勤務するガス会社では営業として飛び回り、しっかりと売上も上げているといいます。

付き合って一年になる彼氏は、業種は違えど同じ営業職で、普段から悩みを相談したりミスの改善を提案してもらったり「頼れる人」でした。

「知り合ったのは合コンで、彼のほうから告白されてお付き合いすることになりました。

過去の恋愛の話で、自分がしっかりしているせいか依存してくる女性が多く、『心が自立していない女性は自分に責任を持たないから付き合うのが大変』と漏らしていたのは覚えています」

自分の不安をこちらに解消させようとしたり、本音を言わないのにこちらが汲まないとふてくされたり、そんな人の「扱いづらさ」は自分の恋愛でも経験したと話す楓さんは、「自分のことは自分で解決する」のが大人の自立だと思っていました。

そのうえで好きな人に何も負わせないのが当たり前と考えており、その価値観が「精神的に成熟した女性がいい」と口にする男性には「自分と相性がいい」と映り、好意が生まれたのではと想像しています。

「依存は、自分だけじゃなくて相手もダメにするよね」とふたりはよく話し、実際に交際が始まってからも、自分の問題を相手に押し付けない姿勢を大切にしていたと楓さんは思っていました。

きっぱりと引かれた線

「寂しいな、と最初に思ったのは、私が軽く風邪を引いたときでした。

出社はしたけど午前中で熱が上がってしまい、早退して部屋で横になっているって彼に伝えたら、『俺は今日残業だから看病に行けない。自分で何とかして』って返ってきて。

もちろん体調を心配する言葉もあったのですが、私は一言も助けてなんて言ってないし、一晩ゆっくり休んだら回復する程度だと思っていました。

自分で何とかしてって、突き放されたように感じてしまって……」

「体調管理も仕事のうちだよね」と話したことを思い出し、そのときは寂しいけれど「風邪を引いたのは自分が不甲斐ないせいだから」と彼に返信して終わります。

その夜、彼氏は電話をかけてきて、食欲があり熱も下がってきた楓さんの状態を聞いて「気をつけないとね」と言ったそうです。

そんな彼氏のほうは、体調が悪くなってもそれをわざわざ楓さんに伝えることがなく、後になって「この間は頭痛がひどかったのだけど、◯◯って鎮痛剤がよく効いてくれて助かった」と打ち明けられて「言ってくれたらよかったのに」と思うこともあったといいます。

お互いに自分のことに責任を持つ、それが自立なのだと理解してはいるけれど、具合が悪いときまで頼ることをよしとしないような彼氏の姿は、どこかきっぱりとした線を引かれているような感覚がありました。

それでも、楓さんはそれを「この人の強さなのだ」と思い、普段から規則正しい生活をしていることや自分に対して常に誠実であろうとしてくれることを信じていたといいます。

自分への「関心のなさ」

交際は順調で、割り勘が基本だけどお互いに無理のない出費でできるお出かけを決め、楓さんの手料理を楽しむお泊りデートもあって、ときには自分について真面目な話もできる対等なお付き合いだったそうです。

「仕事でも何でも弱音を吐きづらい」ところが楓さんにはネックで、自分も彼氏と同じように体調の悪さを伝えなくなったことや、精神的に疲れたから甘えたいなと思っても「依存されていると受け取られたらどうしよう」と不安になってわがままも言えないことが、寂しさを深くしていました。

残業続きで「ゆっくり寝ていたいから」とデートを断られたある週末、「そんなときは私にもある」と思った楓さんは「何かほしいものがあったら持っていくね」と彼氏の体調を気遣ったつもりでメッセージを送ったら、

「自分で何とかするから大丈夫だよ。今日も明日も会えないから、楓もひとりの時間を楽しんでね」と返信があり、また落ち込みます。

「ゆっくり寝たいから私の相手ができないことを伝えるのはいいけれど、『ひとりの時間を楽しんでね』は余計なお世話だなと感じました。

私なら『この週末はどう過ごすの?』って尋ねます。気になるので。会いたくなったら誘うかもしれないじゃないですか。

そういう気持ちがいっさいない、自分は会わないと決めたからそっちもひとりで楽しんでねって、何ていうか私に関心がないのではと感じてしまって」

この「無関心」は以前から湧いていた不安で、「データの入力が終わらないから今日も残業」と彼氏にメッセージを送ったら、「がんばってね。俺は今から同期とあの◯◯で飯を食ってくる」と自分の楽しい状況を当然に伝えてくる姿など、「自分ならこれは言わない」を見せられることに好かれている実感が薄くなっていくのでした。

寝ていたいから彼女の存在はずっと不要。会いたいと思う可能性もなくて彼女がどう過ごすかは気にもしない。

これが楓さんから見た彼氏の状態で、そう受け止める自分がおかしいのか、寂しいと感じるのは「求めてほしい」という彼氏への依存なのか、苦しかったといいます。

それは「自立」ではない

彼氏の気持ちに立って考えると、「ひとりの時間を楽しんでね」は楓さんへの気遣いかもしれず、寝ている自分のことは気にしないで、というメッセージの可能性もあります。

残業で大変そうな彼女の状況を知っても、自分は同期と楽しく食事してくることを伝えるのも、悪気はなくただ「送っただけ」かもしれません。

それでも、楓さんが「無関心では」感じてしまうのは「その自分を見せられるこちらの気持ちを考えていない」と伝わるからです。

これが彼氏の言う「自立」に含まれるのであれば、楓さんにとっては「関心を向けられない自分を受け取り続ける」ことになります。

このとき、楓さんは思い切って「私に会いたくはならない?」と彼氏に送信しました。

「会いたくなるかもしれないけど、今はわからないよ。約束はできないかな」

これが彼氏からの返事で、「だからそっちも自由にしてほしい」が言外に見えるのは、楓さんがなぜこう尋ねたかはまったく考えていないことが伝わりました。

「私は会いたいから、もしその気になったら連絡してね」。そう返しながら、ここまで言わないと自分のことを受け入れてもらえない虚しさを楓さんは感じたといいます。

「私を拒否しているとかそういうのはないのですが、とにかくきっぱりと線を引かれるのが私には無理だなと思いました。モヤモヤしちゃって、結局その日の夜に彼氏に不満をぶつけたら喧嘩になって、別れました」

心の距離が近づかない関係

彼氏は「本当は私に関心がないのでは」と楓さんから言われたときに

「そう受け取るのなら仕方がないよ。俺は楓がどうするかまでは責任は持てないし、じゃあ自分を犠牲にして楓の気持ちに付き合えば満足するの?」

と返したそうです。

これが「もう無理」の決定打になり、楓さんのほうから「寂しさばかり感じるから、もう別れよう」と切り出しました。

お付き合いそのものは順調だったけれど、肝心な部分でこちらの気持ちを想像しない彼氏には、「自分がこの人の状態を受け入れていくしか続く道はないのだ」という実感が強く、それは楓さんが求めている交際ではありませんでした。

「別れてから気づいたのですが、あの人には歩み寄るってことがなかったのですね。自分はこうだから、を示してくるばかりで、私の気持ちを確認しないしそれで平気で過ごせるのが、無関心の証拠だなと思いました」

自立は、それぞれの状態に自分が責任を持つ姿勢であって、その在り方は正しいといえます。

ですが、そのせいで相手が心の距離を感じ、愛情を実感できない場面が生まれるのであれば、それは「拒絶」に傾きます。

同じ「自立」でも、自分の在り方だけを見て相手の気持ちを無視することと、相手の気持ちを知ってその差を埋める努力をすることはふたりの関係に大きく影響します。

「心が成熟した人」を欲しながら、相手の状態や気持ちに実際は意識を向けず自分の在り方を受け入れることだけを求めるのは、愛情と呼べるのでしょうか。

「彼のことは信頼できるし大好きでしたが、恋愛のパートナーとしては無理だと思いました。心の距離が近づかない関係って、結局はお互いを理解できないことが増えて、好きでいるのが難しいのでは」

彼氏と別れたショックはないと話す楓さんは、「自立」の意味をもう一度考えているそうです。

心の自立は、相手の姿を正しく受け止めるためにも大切な姿勢ですが、歩み寄る意思がないと相手との違いばかりが浮き彫りになります。

違うことをそのままにして受け入れてもらう側に立つのではなく、一緒に改善していく気持ちが愛情を育てるのではないでしょうか。

自立と無関心は同じではないことを、忘れたくないですね。

(mimot.(ミモット)/ 弘田 香)

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