〈1.1大震災~連載ルポ〉疲労色濃く、海は一変 門前・七浦地区

避難所の前で火をたいて暖を取る住民=輪島市門前町矢徳

 輪島市西北部にある門前町七浦(しつら)地区で、1日から続いていた通行止めがようやく解除された。14日、地区の中心である皆月とその周辺を訪ねると、2週間の孤立で住民は色濃い疲労を抱え、地震で一変した海の景色に戸惑いを見せていた。

 強い北西風が吹き付ける湾の海岸線に張り付くように、皆月の集落は延びる。一見、倒壊建物は少ない。だが「家屋の被害?いっぱいや」と区長の伏見孝一さん(74)は言う。口ぶりに疲れがにじむ。

 「1日、地震があって海岸に出たら、水がダーっと引いてた。『津波だー』と叫んで高台へ逃げた。翌朝、海を見たら、これや」

 六郎木(ろくろぎ)正さん(65)が指さす先に、だだっ広い岩場が広がる。地殻変動で数メートルも隆起し、海面上に現れたのだ。「ここらの漁業はどうなるんやろ」と六郎木さんが腕組みする。

 もちろん、毎年1月2日に行ってきた「アマメハギ」も中止となった。巨大な地震の力は、地域の景色や伝統を変えてしまう。

 皆月から山手に上り、矢徳(やとく)の集落を訪ねた。集会所前の火の周りに、住民が集まっている。身を寄せるのは矢徳と隣の吉浦の住民28人。区長の高嶋幸雄さん(78)によると、最初は50人いたが、金沢の子どもが迎えに来るなどして減った。

 「とにかく風呂に入りたい。1日から入ってない。後は電気。燃料もやね」と髙嶋さんがため息をついた。孤立は解消されたが、ライフラインは依然戻らず、厳しい生活が続く。

 香ばしい匂いが漂うテントをのぞくと、夕食のコロッケを作っていた。「温かいものを食べて、元気でいないと。ここではまだ、感染症の人は出てないんです」。竹田みどりさん(49)がまめまめしく手を動かしながら、張りのある声で話す。

 疲れはあるが、見せまいとしているのだろう。「どうかお体に気をつけて」と声を掛けるのが精いっぱいだった。(編集委員・坂内良明、写真部・三上聡一)

隆起して海面上に現れた岩場=輪島市門前町五十洲

© 株式会社北國新聞社