[社説]台湾総統選 中国は結果を尊重せよ

 台湾の人々の「自由と人権」への思いを強く感じた。有権者は米国との連携を重視し、中国との対等な対話を望む蔡英文政権の路線継続を支持した。

 台湾総統選が13日投開票され、与党の民主進歩党(民進党)副総裁、頼清徳氏が初当選を果たした。

 最大野党である国民党の侯友宜氏と、野党第2党の台湾民衆党の柯文哲氏を破った。1996年に総統の直接選挙が実現して以降、同一政党が初めて3期連続で政権を担う。

 中国は頼氏を独立派と見なし、経済圧力や軍事的威嚇でけん制してきた。今年に入り一部台湾製品の関税引き下げ措置を停止。農漁業などの分野への拡大もちらつかせてきた。

 しかし、こうした圧力にも有権者が揺らぐことはなかった。

 民進党は民主化を求めて80年代に台湾で生まれた土着政党だ。かつては台湾独立をうたったが、今は憲法改正などによる独立を求めていない。

 対中融和路線の国民党も中国が求める「一国二制度」による統一を拒否している。

 民衆党も含め3候補とも統一でも独立でもない「現状維持」の立場は一致していた。もはや「台湾アイデンティティー」の定着は疑う余地がない。

 当選後、頼氏は「民主主義と権威主義との間で、われわれは民主主義の側に立つことを決めた」と述べた。

 中国は今後、新政権に対し圧力を強める可能性がある。一方的な主張の押し付けをやめ、民主的に選ばれた結果を尊重すべきだ。

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 今回の選挙は、2期8年続いた民進党政権に対する審判でもあった。

 投票率は71.9%で前回より約3ポイント減少。頼氏の得票率は約40%、侯氏が33%、柯氏は26%だった。民進党は4年前に比べ得票率を大きく減らし、野党2党を合わせた得票率は民進党を上回った。

 同日に行われた立法委員(国会議員)選(議席数113)で民進党が過半数割れした。国民党が第1党の座を奪い、第3党である民衆党も議席を増やした。

 日本の植民地支配や国民党の独裁政権を経験した台湾では長期政権に対する警戒心が根強く、有権者のバランス感覚が働いた形だ。

 民進党は、政権の不祥事や、住宅価格の高騰、賃金の停滞など経済運営の課題に厳しい目が注がれていることを忘れてはならない。 

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 米中の対立の先鋭化を背景に、いわゆる「台湾有事」が言われるようになった。沖縄では、有事を念頭にした軍備強化が進む。

 自民党の麻生太郎副総裁は有事に際し、日本の参戦を前提とするような発言を繰り返し、中国の反発を招いている。

 しかし、頼氏は当選後「台湾海峡の平和と安定」を維持するため、中国に対話を呼びかけた。台湾の人たちが示したのは現状維持と平和を望む声であり、それは沖縄とも重なる。

 日本政府は中台の対話を促す外交に力を注ぐべきだ。

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