離島の離島・馬毛島基地着工1年 国家プロジェクト、対岸の種子島の風景も激変 工事関係者向けプレハブの「仮設団地」、交通渋滞、道路沿いの資材置き場…島民ら困惑

馬毛島を望む西之表港には大型重機船や資材が並ぶ=西之表市

 鹿児島県西之表市馬毛島の自衛隊基地建設は本体工事が始まって12日で1年がたった。インフラが未整備で、本土から直接渡ることが困難な「離島の離島」で進む国家プロジェクト。工事関係者や資材の拠点となった種子島にも大きな変化をもたらしている。

 「仮設団地」と化した地域がある。西之表市街地からやや離れた種子島合同庁舎周辺の下西校区。工事関係者向けにプレハブ仕様の宿舎がいくつも建てられ、小さな空き地には縦5~6メートル、横2メートルほどのコンテナハウスが所狭しと並ぶ。

 中種子町に向かう国道58号の沿線は、港湾施設整備に使うとみられるコンクリートブロックが整然と積み上げられ、重機やコンテナが目立つ。夕日が映える「サンセットロード」は、今や基地整備の面影を抜きにして語れない。

 「まるで被災地。景観が変わり、西海岸に行く気が薄れたといった声も聞く」。市南東部に住む男性(54)は漏らす。毎日車で子どもを市街地まで送迎しているが、大型車両とすれ違うのが怖いという。「道幅確保のために道路脇の草木を伐採するなど、業者には着工前にそういう点にも気を配ってもらいたかった」

 種子島に滞在する工事関係者は昨年12月22日時点で約1800人。交通量の増加は明らかだ。複数のドラッグストアがあり、もともと車の往来が多い下西校区では渋滞も発生する。別の校区では、学校近くの住宅街で馬毛島への通信ケーブルの埋設工事が進む。

 中高生を育てる同市西之表の女性(46)は「通学路に交通誘導員が配置されたのはありがたいが、登下校の心配が増えたのは確かだ」と話す。

 種子島の海の玄関口、西之表港の混雑ぶりは市議会でも取り上げられた。昨年は新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に移行されたこともあり、年末は850台収容の駐車場がほぼ満杯に。空きを探して場内をさまよったり、停車場所や路肩に縦列駐車する車両が相次いだ。

 県熊毛支庁によると、昨年5月の大型連休ごろからレンタカーの利用が増えている。ある男性(69)は「港の利用客が困るようになった。工事関係者は別の場所に駐車させるような工夫が必要ではないか」と指摘した。

■馬毛島基地(仮称)

 在日米軍が硫黄島(東京都)で実施している空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)や、陸海空の自衛隊が各種訓練を実施する空自管理基地。全体の工期は4年程度とされるが、滑走路などは先行して造成し、2025年度にもFCLPが始まる可能性がある。工事関係者は最大6000人規模(馬毛島2000人、種子島4000人)の見込み。中種子町には24年度に約90人規模の空自馬毛島先遣隊(仮称)が配置される予定。隊員宿舎は西之表市の97戸をはじめ、中種子町93戸、南種子町10戸が計画されている。

居住用に整備されたコンテナハウス=西之表市
住宅街で進む通信ケーブルの埋設工事=西之表市

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