【今週のサンモニ】反原発番組の真骨頂を発揮!|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。能登半島地震をめぐる志賀原発に対するイチャモンを大展開!

巧妙なミスリード

2024年1月14日の『サンデーモーニング』は、反原発番組の真骨頂を発揮し、能登半島地震をめぐる志賀原発に対するイチャモンを並べました。

アナウンサー:志賀原発でもトラブルが相次いでいたことが明らかになりました。これは原発内部の様子。床に溜まっているのは油です。非常時に外部から電源を受けるために使う変圧器の配管が壊れたため、流出したとしています。原発は長期間運転停止中で北陸電力は安全性に問題ないとしていますが、再稼働の審査を行っている原子力規制委員会は…

山中伸介委員長(VTR):こういうような地震に対して本当に対応できる発電所かどうかは今後の審査によるところが大きい

アナウンサー:志賀原発では想定を上回る揺れが観測され、敷地に亀裂も見つかりました。一部の変圧器が壊れ、約2万リットルの油が漏れています。原子炉は1号機・2号機の2つあり、長期間停止しているのですが、2号機は再稼働に向けて審査中です。原子力規制委員会は、震源となった断層の調査に年単位の時間がかかる。再稼働の審査はそれ以上の時間がかかるとしています。

故障した変圧器は平常時に外部からの電源を受けるために使われている2台であり、変圧器の機能上必要な絶縁油が配管の破損のために漏出したものです。

『サンデーモーニング』はこの変圧器について「非常時に外部から電源を受けるために使う」としていますが、これは巧妙なミスリードです。

外部電源はあくまでも平常時の電源です。もちろん非常時にも利用可能であれば外部電源を使うことになり、その外部電源を受けるために変圧器を使うことになります。

https://www.nra.go.jp/data/000465120.pdf

ただし、外部電源が全て喪失しても原発の安全性は維持されます。別に非常用電源が用意されているからです。

大地震などの非常時において、山体斜面に存在する送電鉄塔や電線の確保は確実には保証されないので、原発では非常用の電源を多様かつ多重に用意しています。志賀原発の場合には、非常用ディーゼル発電機5台、大容量電源車1台、高圧電源車6台が待機しています(他に点検中の非常用ディーゼル発電機1台と大容量電源車1台)。1号機と2号機で電源の融通も可能です。

ただし今回は、非常用電源を使用するに至りませんでした。志賀原発では、外部電源を5回線から受電しているため、そのうち2回線からの受電が不可能になっても3回線からの受電が可能であるからです。

1000年に1度と言われている今回の大地震で震度7の志賀町は、東日本大震災に匹敵する加速度2825ガルの揺れを観測しましたが、志賀原発の電源は確実に確保されていたのです。

番組制作者の陰湿な悪意

さらに『サンデーモーニング』は、「原発は長期間運転停止中で北陸電力は安全性に問題がないとしていますが」と続けました。これは「もし原発が運転中であったら非常時の電源が失われて惨事を招いていたかもしれない」という誤ったシナリオを一般視聴者に想起させるものです。番組制作者の陰湿な悪意を感じざるを得ません。

加えて、スタジオトークにおける毎日新聞・元村有希子氏のコメントも北陸電力の発表を曲解して、原発の安全性を無理やり貶めるものでした。

元村有希子氏:原発の話をしたい。「想定を超える」という福島の時に何度も聞いたような言葉がたびたび出てきている。しかも、今回北陸電力は発表するたびに被害の程度が大きくなるという情報公開に大変な課題を残している。

何が想定外だったというと、まず揺れだ。一部で想定を超える故が観測されたこと。想定以上に変圧器の故障が悪くて油が流出したこと。さらに避難に直結するが、周辺の放射線量を測るモニタリングポストが一部使えなくなった。こうしたことを「想定外でした」「でも今回は運よく大丈夫でした」というのでは住民は安心できない。

まず揺れについて、地震波には様々な周波数を持った波が含まれています。

原発内の構造物はそれぞれ固有の地震特性(固有周波数)をもち、そのうち特定の周波数帯の波(共振周波数)にのみに応答して共振します。今回の地震はで想定を超えたのは、1号機・2号機ともに東西水平方向で0.47秒の周期であり、その加速度は1号機が918ガルの想定に対して957ガル、2号機は846ガルの想定に対して871ガルでした。

ただし、その周波数帯の波に応答する原発の安全上重要なSクラス施設(原子炉容器・原子炉格納容器・制御棒・非常用発電機など)は存在しませんでした。つまり安全性は確保されていたわけで、安全性と無関係な周波数を含めて想定を超えたとするのは必ずしも公正ではありません。

ちなみにSクラス施設は基準地震動に対して建築基準法の3倍の力に耐えられるように設計して、建設されています。元村氏のコメントは不必要に一般視聴者の不安を煽るものです。

次に変圧器は、発電を行うタービンや発電機などと同様、建築基準法で規定される力に耐えられるように設計されているCクラス施設です。Cクラス施設の被災は原発の安全性を揺るがすものではなく、損傷するのは想定の範囲内です。

モニタリングポストは地震後も正常に機能している

最後にモニタリングポストについてですが、原発周辺のモニタリングポストは地震後も正常に機能しています。仮に放射性物質が原発から漏洩した場合には、これらのモニタリングポストで放射性物質を移動させるプルームの存在を検知できるので避難には支障を来たしません。

モニタリングポストが一時的に機能しなかった箇所は30km圏内なので、原発周辺の同方位のモニタリングポストに反応があれば、事実上一時避難ということになります。

ちなみに、今回の故障は通信トラブルであり、バックフィットで対応すれば済むことです。

志賀原発モニタリングポスト、輪島と穴水で欠測 能登半島地震 | 毎日新聞

また、「公表するたびに被害の程度が大きくなる」というコメントも論点歪曲です。

北陸電力は最初に「推定値」として数値を速報し、その後の精査によって得られたデータを逐次更新しているに過ぎません。国民にとって重要な論点は「外部電源や必要な監視設備、冷却設備等については機能を確保しており、これまでの点検において、安全上問題となる被害は確認されておりません」とした北陸電力の結論の妥当性です。この結論は精査の後も揺るいでいません。

重箱の隅を叩くような揚げ足取りで、原発に対する国民の信頼性を不当に下げるような報道は厳に慎むのが公正です。

元村有希子氏: しかも活断層の存在はわかっていたが、北陸電力は100kmくらいの活断層がありますが大丈夫ですと今まで行ってきた。ただ今回の揺れの幅を見ると、150kmくらいの断層が動いているといわれている。つまり原発を建てる時に想定した以上に地殻変動が激しいかもしれないと言える。そんな中で安全審査を今まで通り進めていいかは疑問に思うし、日本海側には柏崎から島根まで7つの原発がある。それが今までの通り「大丈夫ですよ。稼働して下さい」ということでいいのかということに素朴に疑問を感じている

何か大きな勘違いをしていると考えられますが、30km北に存在する約150kmの断層帯が動いたとされる1000年に1度の大地震でも地震動は想定通りでした。このことは、原発を建てる時の想定が過大であったことを示すものです。このような不合理な元村氏の「お気持ち」が公共の電波を使って拡散されていることには素朴に疑問を感じます。

「報道しない自由」で政府が何もしてないと印象づけ

一方、行政の震災対応については、ほとんど伝えることなく、素直に見れば、行政は被災者に寄り添わずに不作為を続けているかのような印象を受けます。

アナウンサー:避難所には今も2万人以上の方が身を寄せています。過酷な避難生活で持病が悪化するなどして亡くなった災害関連死の疑いがある方は既に13人。厳しい寒さに加えて水や物資などいろいろなものが不足。なかでも特に問題となっているのがトイレです。災害関連死について研究する奥村教授は「手を打たないと関連死は100人を超えてもおかしくない」と指摘しています。

渡部カンコロンゴ清花氏:1月2日から輪島市に支援に入っている医療従事者の友人に話を聞くことができた。被災者の間でも支援者の間でも「全体のビジョンや方向性が見えてこない」と言っていた。特に被災者が今後どこへ行けばいいのか。(中略)安全安心な二次避難の場所があるということを国側から強いメッセージとして伝えていくことが折角つないだ命を守ることになる。

岸田政権は、元旦の地震発生の1分後に危機管理センターに対策室を設置して以来、自治体の要請を待たずに支援メニューに取り組むプッシュ型支援を強力に推し進めてきました。自衛隊が初動対応部隊を発足させたのは地震発生の20分後であり、行政ができることをできる限りのスピードですべてやっていると言えます。

そんな状況のなか、『サンデーモーニング』は、ひたすら報道しない自由を行使し、政府が何も手を打っていないかのような印象を与える放送を行っています。

二次避難については、1月10日に石川県が二次避難所を6000人分確保したことを発表し、1月11日には岸田首相が「自らの命と健康を守るため、積極的な二次避難を検討していただくよう、重ねてお願いを申し上げます」と強いメッセージを発表しました。

さらに1月13日には二次避難に関するデマに対して岸田首相が異例の注意呼びかけを行いました。

これだけ国側が強く発信しているにもかかわらず、国側が強いメッセージを伝えていないかのように誤解させるコメントを公共の電波を使って1月14日にわざわざ拡散するのは極めて悪質であると考えます。

2次避難所、6000人分確保 ホテルや旅館 災害関連死の増加懸念 | 毎日新聞

© 株式会社飛鳥新社