2023年「人手不足」関連倒産 過去最多の158件 賃上げムードのなか、「人件費高騰」が8.4倍に急増

2023年「人手不足」関連倒産の状況

2023年の「人手不足」関連倒産は、158件(前年比154.8%増)で、前年の2.5倍に急増した。これまで最多だった2019年の156件を上回り、調査を開始した2013年以降で最多を記録した。
要因別では、「人件費高騰」が59件(前年比742.8%増)で、前年(7件)の8.4倍と大幅に増加した。また、「求人難」は58件(同114.8%増)で、2.1倍に増加した。人材確保のための採用だけでなく、従業員退職を阻止するには賃上げが不可欠になっている。ただ、コロナ禍からの業績回復が遅れ、資金余力が乏しい企業ほど資金繰りへの影響は大きく、背伸びした賃上げの難しさを示している。

産業別では、最多がサービス業他の55件(前年比129.1%増)。次いで、運輸業の38件(同533.3%増)、建設業の29件(同107.1%増)と続き、労働集約型の産業を中心に、人手不足が深刻さを増している。
東京商工リサーチが実施したアンケート調査では、2024年に賃上げを実施予定と回答した企業は8割(構成比82.9%)に達した。だが、賃上げ幅が「2023年を超えそう」との回答は、1割(11.6%)にとどまった。物価上昇が企業収益を圧迫しているなかで、更なる賃上げに二の足を踏む企業も多い。
コロナ禍からの業績回復が遅れ、人材確保ができずに受注機会を喪失し、業績がさらに悪化するなど悪循環に陥っている企業は少なくない。こうした企業を中心に、人手不足を一因にしたケースが倒産を押し上げることが懸念される。

※本調査は、2023年の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。(注・後継者難は対象から除く)


「人手不足」関連倒産は過去最多の158件

2023年の「人手不足」関連倒産は、158件(前年比154.8%増)で、2年連続で前年を上回った。前年の62件から2.5倍増と大幅に増え、これまで最多の2019年の156件を超えて最多を更新した。
アフターコロナに向け経済活動の本格化すると同時に、人手不足が表面化した。「人手不足」関連倒産の内訳は、「人件費高騰」が59件(前年比742.8%増)と最も多く、次いで、「求人難」の58件(同114.8%増)、「従業員退職」が41件(同46.4%増)と続く。
「人件費高騰」は前年の8.4倍、「求人難」は同2.1倍に急増した。人材確保のための賃上げにとどまらず、健全な就労関係の維持などにも関わり、経営上の大きな課題に浮上している。
コロナ禍前の2019年の人手不足は深刻で、「人手不足」関連倒産は3年連続で前年を上回った。だが、新型コロナ感染拡大で経済活動が停滞し、需要が消失したことで一時的に人手不足が緩和され、2021年は56件まで減少した。コロナ禍が次第に落ち着いた2022年は62件と微増に転じ、2023年は2月以降、月間10件以上の発生が続き、12カ月すべて前年を上回った。

【要因別】人件費高騰が前年の8.4倍に急増

要因別では、「人件費高騰」が59件(前年比742.8%増)で、4年ぶりに前年を上回り、前年の8.4倍に急増した。「求人難」も58件(同114.8%増)と前年の2.1倍に増加した。
「従業員退職」は41件(同46.4%増)で、2年連続で前年を上回った。
コロナ禍から停滞していた経済活動が本格的に再開し、人手不足が深刻さを増している。
人材確保のための賃上げを避けられず、資金繰りに余裕がない企業は人件費上昇などのコストアップが資金繰りを圧迫している。一方で、賃上げが難しい企業は事業維持・発展のための人材採用が進まず、受注機会の喪失から業績拡大が進まない悪循環に陥っている。

【産業別】10産業のうち、7産業で前年を上回る

産業別では、10産業のうち、農・林・漁・鉱業と金融・保険業、不動産業を除く7産業で前年を上回った。
最多は、サービス業他の55件(前年比129.1%増、前年24件)。このうち、飲食業(5→16件)、生活関連サービス業,娯楽業(1→12件)などで前年を上回った。
次いで、2024年問題が間近に迫る運輸業が38件(同533.3%増、前年6件)、コロナ禍前から慢性的な人手不足に陥っていた建設業が29件(同107.1%増、同14件)で続く。労働集約型の産業を中心に、人手不足が深刻になっている。
このほか、製造業が14件(同75.0%増)で2年連続、卸売業5件(同25.0%増)と小売業9件(同200.0%増)、情報通信業7件(同600.0%増)が4年ぶりに、それぞれ前年を上回った。
また、不動産業は前年と同件数の1件だった。
農・林・漁・鉱業は2年ぶり、金融・保険業は3年連続で、それぞれ発生がなかった。

業種別では、最多が一般貨物自動車運送業の30件(前年比500.0%増、前年5件)と、唯一、2ケタと突出。このほか、訪問介護事業が7件(前年1件)、土木工事業(同4件)、受託開発ソフトウェア業(同1件)、酒場,ビヤホール(同ゼロ)が各5件、建築リフォーム工事業(同ゼロ)、とび工事業(同ゼロ)、配達飲食サービス業(同1件)、エステティック業(同ゼロ)が各4件。また、内装工事業(同1件)、各種食料品小売業(同ゼロ)、ラーメン店(同ゼロ)、普通洗濯業(同ゼロ)、労働者派遣業(同ゼロ)が各3件などで、それぞれ前年を上回った。

【形態別】9割超が消滅型の破産

形態別は、最多が「破産」の151件(前年比147.5%増)で、2年連続で前年を上回った。構成比は95.5%(前年98.3%)で、「人手不足」関連倒産の大半を占めた。
一方、再建型の「民事再生法」は前年と同件数の1件だった。このほか、特別清算が2件で2年ぶり、取引停止処分が4件で3年ぶりに、それぞれ発生した。
業績が厳しい企業ほど、人手不足に直面しやすい。人材確保への投資対応が乏しく、人的なリソースの確保も難しい問題を抱え、先行き見通しが立たない企業が破産を選択するケースが多い。

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