「いわき市民原発訴訟」原告団が最高裁判所に要請行動、「福島の現状と課題」を訴える

小野寺利孝弁護団団長(左から二人目)と伊東達也原告団長(中央)(1月15日都内 /弁護士JP編集部)

1月15日、東京電力福島第一原発事故で「自主避難」を余儀なくされた福島県いわき市の市民が精神的苦痛に対する慰謝料などの損害賠償を国に求める「いわき市民訴訟」の原告団は、最高裁判所第三小法廷に公平な審理を求めるための要請行動をおこなった。

「いわき市民訴訟」の背景

「いわき市民訴訟」(「ノーモア・フクシマいわき市民訴訟」)は、2011年(平成23年)3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故によって福島県いわき市から「自主避難」を余儀なくされた市民約1340人が、精神的苦痛に対する慰謝料など約13億5千万円の損害賠償を東京電力株式会社(現東京電力ホールディングス株式会社)と国に請求するため、2013年(平成25年)3月11日に福島地方裁判所に提起した訴訟。

2023年(令和5年)3月10日に仙台高裁で控訴審判決が出され、東電に対して計3億2660万円の支払いが命じられた一方で国の責任が認められなかったことから、原告団は同年3月22日に最高裁へ上告した。

第一原発事故の自主避難者などが東電と国の責任を求める訴訟は、全国各地で起こされている。だが、2022年(令和4年)6月17日には、4件の集団訴訟(生業訴訟、群馬訴訟、千葉訴訟、愛媛訴訟)について、福島原発事故に関する国の責任を認めないとする最高裁判決が出された。

最高裁は2002年(平成14年)に文部科学省を事務局とする政府の地震調査研究推進本部か発表した「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」の信頼性や予見可能性について明確な判断を避けていたが、いわき市民訴訟の控訴審では、仙台高裁は長期評価の信頼性を認めて、巨大津波は予見可能であり国が東電に津波対策を命じれば「重大事故が起きなかった可能性は相当高い」として、国が規制権限を行使しなかった不作為は「極めて重大な義務違反であることは明らか」と判断した。

しかし、仙台高裁は、津波対策が講じられたとしても「必ず重大事故を防げたとは断定できない」として、国が規制権限の行使を怠ったことで違法に損害を与えたとはいえないと判断。結果的には最高裁判決に倣い、一審判決では認められていた国の責任が否定されることになった。

「福島の現状と課題」

要請行動の後に開かれた記者会見にて、伊東達也原告団長は、最高裁に提出した資料「東電福島第一原発事故から13年目ー福島の現状と課題」の内容について説明した。

一つ目の課題は「ふる里に戻れる環境・インフラ整備を、戻れない人には支援策を」。資料によると、避難したまま事故後(震災後)にも故郷(住民票に記載の住所)に戻れていない人は少なく見積もっても約5万人であり、事故後に亡くなった人や住民票を異動した人を含めば約8万人に上る。また、富岡町や浪江町を含む福島県内の一部町村では小中学生の数が事故前の2010年(平成22年)の10分の1以下にまで減少していること、全住民が避難した町村は農業や工業などの産業の復帰率が現在もきわめて低いままであること、福島県全体の農林業や漁業などの産出額も震災前の水準にまで回復できていないことを指摘して、県内全域が「事故による損傷」を受けておりその修復の支援策が必要であると訴えた。

二つ目の課題は「廃炉問題について県民との共有を図る場の設置を」。福島第一原発発電所の一号機から三号機のデブリ(溶けて固まった燃料)を取り出す見通しはまだ立っていないことや取り出しに成功した場合にも原発の敷地内に留め置かれる可能性が高いことを指摘。また低レベル放射性廃棄物も敷地に置かれる可能性が高いという問題を指摘して、廃炉問題について政府・東電だけで決めるのではなく福島県民と共有を行う場を設けるべきと訴えた。

さらに、「最高裁判所の不当判決を覆すことが、大きな課題となっています」として、原発事故に関して国の責任を認めなかった最高裁判決(2022年6月)について「とんでもない不当判決」と批判。この判決後に行われる、いわき市民訴訟を含む7件の集団訴訟について最高裁判所前の行動などに取り組んでおり、また昨年11月に「ノーモア原発公害市民連」が新たに結成されたことを表明した。

最後に、「アルプス(ALPS)処理汚染水の海洋放出を注視させることが差し迫った課題となっています」として、昨年8月に政府と東電が処理水の海洋放出を行ったことは「関係者の理解なしには如何なる処分も行わない」とした文書による約束を破るものだと強く批判。

デブリに触れた後の処理水にはさまざまな放射性物質が混ざっており、長期間にわたる放出によって太平洋の生態系などにどのような影響が生じるのか不明であることから、「予防原則」(人の健康や環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも規制すべきである、とする原則)を適用すべきと主張した。

個人署名の合計は2万6816筆

小野寺利孝弁護団長は、「一昨年の(最高裁)判決はまともではない、というのが原発国賠訴訟を闘っている全国の弁護団の共通認識」として、仙台高裁が「国は科学的な知見に基づいてとるべき対応をとらなかった」と判断したにもかかわらず国の責任を認めなかったことについて「結論だけは最高裁判決にひれ伏した」と分析。また、その後の千葉高裁や東京高裁の判決については最高裁判決の「コピペ(コピー&ペースト)」になっていると強く批判した。

いわき市民訴訟団による最高裁への要請行動は最高裁判決への抗議として毎月行われており、今回で6回目。最高裁への申し入れは30分にわたった。また、今回は176団体による団体署名と1万1242筆の個人署名が提出され、これまでの合計はそれぞれ5470団体および2万6816筆となる。署名は最高裁判所第三小法廷の裁判官5名に直接届けられた。

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