ジャーナリスト大塚智彦氏を偲ぶ

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

Japan In-depthに長年寄稿してくれていたジャーナリストの大塚智彦さんが去年暮れに亡くなった。

ご子息から年明けに連絡があり、愕然とした。つい12月に原稿をもらったばかりだったのだ。

今調べてみると入稿日が12月19日22時55分。お亡くなりになったのが25日なので、わずか6日前までお仕事をされていたことになる。私が原稿を受け取った約30分後、23時23分に「寒くなってきましたのでお身体お気をつけて」と返信したのがメールのやりとりの最後だった。

Japan In-depthは創刊10周年を迎えた。大塚さんは2016年、産経新聞の知り合いから紹介され、連載がスタートした。その時、東南アジアを専門で書いてくれる人はいなかったので、是非にとお願いしたのだ。一度だけ事務所に挨拶に来られたが、その後大塚さんはインドネシアと日本を行ったり来たりの生活だったので、会うことはなかった。それから実に7年4カ月にわたり、ほとんど休まずに253本の記事を送り続けてくれた。

シリーズタイトルを何にしますか?と尋ねたら、「大塚智彦の東南アジア万華鏡」でお願いします、ということだった。最初の記事は、「ASEAN分断図る中国、露骨な金権・恩義外交」(2016年8月1日)。アジアといっても国は多い。大塚さんはインドネシアを中心に、マレーシア、シンガポール、フィリピン、タイ、ミャンマーなどの国で起きている政治経済社会の森羅万象を、実にビビッドにリポートしてくれた。

東アジアに位置しながら、欧米しか向かない日本のメディアとは一線を画し、アジアの今を伝えてくれる貴重な存在だった。

特に日増しに強まる中国の影響については、常に危機感を持っていた。アジア各国の中国に対する強い警戒感と葛藤を日本の読者に伝えたかったのだと思う。

最後の原稿は、Japan In-depth恒例の年末年始特集で、「シンガポール、インドネシアで政権交代へ 変革と混乱【2024年を占う!】国際:東南アジア」だった。最後に大塚さんはこう締めくくっている。「東南アジアにとって2024年は変革と混乱の年になるだろう」。

生涯一記者としてまだまだアジアを取材したかったに違いない。無念だっただろう。大塚さん、読者のみなさんに記事を改めて読んでもらおうとおもい、Japan In-depthのメールマガジンで紹介するつもりです。

これまで本当にありがとうございました。どうかゆっくりとお休み下さい。またどこかでお会いしましょう。

合掌

大塚さんは、1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、フリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動をつづけていた。著書に東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」などがある。

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