いま「戦争に対峙した人間の葛藤」を描く映画が熱い!ゴールデングローブ賞席巻『オッペンハイマー』が世界最終公開国・日本に上陸

『オッペンハイマー』© Universal Pictures. All Rights Reserved.

世界は今も“戦争の時代”を過ごしている

2023年も全世界で紛争が続いた。ウクライナをめぐる戦争、イスラエルはガザに侵攻し情け容赦のない攻撃を続けている。香港、台湾をめぐる中国の動向、ロケット発射実験を続ける北朝鮮、そしてアフリカや南米の一部地域でも民族間の対立が起こっている。世界は今も戦争の時代を過ごしているのかもしれない。

「時代の空気を映す鏡」とも言われる映画は、2023年も戦争と対峙し葛藤する人間の姿を描いた。

日本映画では、第二次世界大戦敗戦後の日本の5年間を描いた山崎貴監督の『ゴジラ -1.0』が大ヒット。1956年(昭和31年)の日本を舞台にした『ゲゲゲの鬼太郎 ゲゲゲの謎』の主人公も復員兵で、復興途上の時代を生き抜こうとする野心的な人物だ。

そして、黒柳徹子の幼少期を描き2,500万部のベストセラーを映画化した『窓ぎわのトットちゃん』も印象深い。今から約80年前の日本を舞台に、小学二年生のトットちゃんの視点を通して、豊かな日々に忍び寄る戦争の影を描いた。他にも、『沈黙の艦隊』、1945年にタイムスリップした女子高生が特攻隊員に出会う『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』などが続いた。

ゴジラ、鬼太郎、トットちゃん

『ゴジラ -1.0』では、神木隆之介が演じる主人公は軍命を背いたことを抱えて帰還する。荒廃した日本でどう生きていくのかを自問し、苦悩する日々を過ごしていた。そんな時、突如姿を現したゴジラが日本に襲いかかる。ゴジラとの対決を決意した彼は、自分の中の戦争を終わらせるために命懸けの選択をする。主人公と共にゴジラに立ち向かったのは、戦場から戻った元兵士たち。荒廃した“マイナスの日本”の再生と未来を懸けて、ゴジラと対峙する人々の結束する姿が感動を呼んだ。また、フルCGでゴジラを描いた山崎監督の手腕が高く評価され全米でも大ヒットを記録している。

1956年(昭和31年)の日本を舞台にした『ゲゲゲの鬼太郎 ゲゲゲの謎』は、復員した血液銀行員の水木(原作者の名でもある)が、会社の密命と個人的な野心を胸に秘めて龍賀製薬・当主の弔いのために哭倉村へと足を踏み入れる。同じ頃、姿を消した妻を探して幽霊族の男がこの村を訪れていた。日本の政財界をも牛耳る龍賀家では跡目争いが勃発、一族のひとりが惨殺される。水木と幽霊族の男、ふたりの前に龍賀一族の背後にある巨大な闇が立ちはだかる。

思ったことを口にしてしまう、個性的であるが故に問題児とされた小学生時代のトットちゃんを描いたアニメ『窓際のトットちゃん』にも戦争の影が滲む。バイオリン奏者の父、娘思いの母に育てられたトットちゃんは、ユニークな教育で知られる<トモエ学園>に通い始める。だが、豊かな日々は刻一刻と損なわれ、戦争の影が家族の暮らしや学園の日々を変えていく。トットちゃんの想像や悪夢を4つの異なる手法で描きだした描写も心に刻まれる優れた作品である。

ノーラン、リドスコ、スコセッシ

米英の巨匠監督も戦争に関わる優れた作品を仕上げている。1920年代のオクラホマを舞台とするマーティン・スコセッシ監督『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』もそのひとつ。レオナルド・ディカプリオが演じた主人公は、戦地で炊事班を務めていたが体調を崩し復員、仕事を求めてオクラホマの叔父を訪れる。石油が湧き出したその地では、利権を持った先住民たちに対する影なき殺人が続いていく。

イギリスの巨匠リドリー・スコットは、フランス史に燦然と輝く英雄と称されながらも、味方から悪魔と呼ばれて恐れられた『ナポレオン』の実像に迫った。戦略家として数々の戦いを制して皇帝に登り詰めたナポレオンだが、勝利のためならば自軍の犠牲をも厭わない暴君でもあった。その複雑なキャラクターを、生涯愛し続けた妻との愛と葛藤の日々によって浮き彫りにし、新たなナポレオン像を描いている。

他にも、『ヒトラーの死体を奪え!』『ヒトラーのための虐殺会議』『バトル・オブ・サブマリン』など、第2次世界大戦の狼煙をあげたドイツ、ヒトラーをテーマにした作品も多かった。

そんな2023年、戦争に対峙した人間の“葛藤”を描く映画の歴史に新たな1ページを刻む作品が誕生した。クリストファー・ノーラン監督作『オッペンハイマー』である。

本年度賞レース大本命!『オッペンハイマー』

『オッペンハイマー』は、世界の運命を握ると同時に、世界を破滅する危機に直面するという矛盾を抱えた一人の男の知られざる人生を、IMAX撮影による没入感と共に描き出す壮大な実話ドラマだ。クリストファー・ノーランが監督、脚本を務め、主演のキリアン・マーフィーほかエミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.、フローレンス・ピューらが出演。「ノーラン史上最高傑作」と称えられ、各映画賞における最有力候補と目されている。

昨年7月21日より全米公開され、現在世界興行収入9億5千万ドル(1425億円 ※1ドル:150円換算)を超える世界的大ヒットを記録し、実在の人物を描いた伝記映画作品として歴代No.1を獲得している。さらに、この興収は戦争映画の世界興収記録トップのクリント・イーストウッド監督作『アメリカン・スナイパー』(2014年)の約5億4765万ドルを超えて、戦争を描いた作品としても世界No.1となっている。

なぜ、世界の映画観客は『オッペンハイマー』に魅せられたのか? その評価を証明するかのように、2024年1月7日(現地時間/日本時間8日)に発表された第81回ゴールデングローブ賞では、作品賞(ドラマ部門)を筆頭に、クリストファー・ノーランが初の監督賞を受賞。J・ロバート・オッペンハイマーを演じた、ノーラン作品初主演のキリアン・マーフィーが主演男優賞(ドラマ部門)、 アメリカ原子力委員会の委員長ルイス・ストローズを演じたロバート・ダウニー・Jr.が助演男優賞、『TENETテネット』に続きノーラン作品のスコアを担当したルドウィグ・ゴランソンが作曲賞を受賞するなど、最多5部門に輝いた。

「戦争」というテーマに真摯に向き合い、緻密な脚本とIMAXによる圧巻の没入感で描かれる『オッペンハイマー』は2024年、世界最終公開国となる日本で公開される。

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