被災地視察

 「総理、もう帰るんですか」-。東日本大震災の発生から42日目の2011年4月21日。福島県内のある避難所を見舞い、次の視察先に向かおうとしていた菅直人首相=当時=が避難者の夫婦からこう詰め寄られる場面があった▲「待っていたんです。ここは素通りですか」「そんなつもりじゃありませんでした」。菅氏は足を止めて、夫婦の訴えに耳を傾けた。「福島のことを考えているつもりだったが、まだまだだった」は日程を終えた後の弁。地元紙の福島民報が伝えていた▲一昨日の日曜日、岸田文雄首相が能登半島地震の被災地を訪れた。発生から14日目。現地では「今さら」「誰が来ても変わらない」と冷ややかな声も聞かれたようだが▲現地入りのタイミングについては受け入れ側との調整も必要で、首相ばかりを責められない面もあろう。自らの目に惨状を刻み、悲鳴に耳を傾けることの重要性は改めて言うまでもあるまい▲ただ、避難所に足を運び、被災者と膝詰めで語る姿も、単なるポーズやパフォーマンスでは何の意味もない。帳面消しやスタンプラリーのような被災地訪問は迷惑なだけだ▲〈首相が指導力を十分に発揮しているとは思わない〉…61%。今のところ、世論調査の数字は厳しい。寄り添う姿勢の真価が試される。皆が見ている。(智)

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