大きな災害に直面した方へのこころのケア~当たり前ではない日常をみつめて~

2024年元日、私は帰省先の石川県で経験したことのない大地震を経験しました。

2分間の強い揺れと死の恐怖

お正月番組を見ながら家族団らんを楽しんでいた午後4時10分。
能登を震源とした震度5強の地震が、次いで震度7の大地震が発生しました。
2分間にもおよぶ強く大きな横揺れが突如と始まったのです。
テレビの緊急地震速報や携帯電話のけたたましいアラートなど、まるで間に合っておらず、意味を成しませんでした。
家族みんなやっとの思いでリビング中央のテーブルの下に隠れたものの、机の柱にしがみつき、体勢を維持することが精一杯でした。
家の柱がしなる音、リビングの大窓が勝手にスライドするさま、姪甥っこたちの泣き叫ぶ声。さらにテレビからは「津波、早く逃げて、一刻も早く逃げること!」と強いアナウンスが流れるも、あまりにも大きな揺れのなかにあっては、どのように行動すべきかの判断力すら奪い去られてしまいました。

そのすべてが今までにない初めての経験で、言葉では簡単に言い表せない「死の恐怖」に襲われたのです。
「死の恐怖」を感じるほどの出来事を、みなさんは体験したことがありますか。

離れていてもできる支援

私は、1955年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災でも大きな揺れを経験したことがありませんでした。
そしてここ数年、能登での地震は多数観測されており、帰省中にも何度も経験していたためか、揺れに慣れてしまい、どこかで「自分たちは大丈夫だろう」と思っていました。
しかし今まで観測された地震とはくらべものにならないほどの被害状況がテレビに映し出され、恐怖は現実のものとなってしまいました。
帰省先の自治体では、液状化による道路の陥没や断水、浸水、家屋倒壊などさまざまな被害があったものの、幸いなことに人的被害はありませんでした。
一方で、被害の大きかった地域には親戚や友人が多数います。
日ごとに増える被害者や安否不明者の数を見るたびに、救助や支援にも行けず、何もできないまま地元を離れることしかできない自分に無力さを感じました。

その後、被災地での企業ボランティアの炊き出しや全国からたくさんの義援金やふるさと納税などの支援の輪が広がっているというニュースも多く目にしました。
このように「離れていてもできる支援」があることを改めて認識し、被災された方や地元のために何かできることをやろう、微力でも力になれることをしようと少しずつ前向きな気持ちを持つことができました。
しかしながら、近しい人を亡くした方や受けた被害の大きさによって、このような気持ちをもつ余裕さえない方がたくさんいるのではないでしょうか。

忘れないで「こころのケア」を

今回の地震のように大変重いストレスにさらされると、誰でも不安や心配などの反応が心や身体に症状として現れます。
これは被災した方々だけでなく、被災地域から離れた場所であってもニュースなどの映像を見て、何らかの反応が現れることがあります。
また、過去に大きな災害を経験した方であれば、被災地の報道を見て、過去の経験が蘇り、やりきれない気持ちを抱えることもあります。
衝撃的な出来事にまつわる報道は、たとえ見ているだけでも知らず知らずのうちにこころに負担をかけている場合があるのです。
報道やSNSなどを見ていて不安を感じたり、つらい気持ちになったりした場合は、一度テレビやスマートフォンから離れてみてください。
たとえば眠れない、過敏になるなどの症状が2週間以上続き、仕事や日常生活に大きな支障をきたしているような場合は、身近な方や周囲の方、こころの専門家や各相談機関などにご相談ください。
厚生労働省「こころの耳」では、被災者やその家族、支援者の方などに対して、「自然災害又は大規模な事故等による災害被災者のための心と健康の相談ダイヤル」を開設しています。

厚生労働省「こころの耳」

当たり前ではない日常をみつめて

人生には、経験できること、経験することよりも、経験できないこと、経験しないことの方が無数にあります。
経験しなければわからないこともたくさんありますが、経験によって身につけられることも無数にあります。
今、不自由なく生活できていることは、当たり前ではないということ。
命の大切さ、助け合うことのできる人の温かさは、日常では当たり前の存在になってしまっていること。
私は今回、命の危険を感じる経験をし、ふるさとが甚大な被害を受けたことで、これらの大切さについて改めて考えることができました。
命があり、生活できていること全てに感謝して。
精一杯できることを行い、生きていきたいと思います。

末筆ながら、被災された皆様が一日も早く心穏やかに過ごせますようお祈り申し上げます。

<出典>
・ 厚生労働省こころの耳「被災者に対するこころのケア(被災者やその家族、支援者などの方へ)」
・ 一般社団法人日本トラウマティック・ストレス学会「惨事報道の視聴とメンタルヘルス」

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