なでしこジャパンに新風吹き込む18歳コンビが描く未来図。6歳の時に抱いた世界一への思い

日本女子サッカー界から、若き才能が海外に羽ばたく。昨年、現役高校生でなでしこジャパンに初招集された谷川萌々子と古賀塔子が、卒業後にヨーロッパ挑戦を表明。U-20世代で突出したポテンシャルを示してきた2人のキャリアの原点と未来図について話を聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=アフロスポーツ)

選手層の厚さを象徴する18歳コンビ

パリ五輪が行われる2024年は、日本女子サッカー界にとって「勝負の年」だ。

国内リーグのプロ化とともに、海外のトップレベルで活躍する選手が増加。女子代表選手の待遇向上の機運が世界的に高まる中、なでしこジャパンを取り巻く環境も改善され、昨年のワールドカップはベスト8に進出した。

その後もチームは進化の歩みを止めることなくパリ五輪アジア2次予選を突破し、今年2月の最終予選では北朝鮮との一騎打ちに挑む。メンバー入りをめぐるサバイバルは激しく、選考に頭を悩ませる池田太監督のうれしい悲鳴が聞こえてきそうだ。

中でも、昨年末のブラジル遠征で初招集となった18歳の谷川萌々子と古賀塔子は、なでしこの選手層の厚さを象徴する存在だろう。

谷川は左右差のないキック、切れ味鋭いドリブル、得点力を併せ持つ大型ボランチ。関係者の間では、澤穂希、宮間あや、阪口夢穂ら、日本女子サッカー界で傑出した結果を残してきたレジェンドたちに匹敵するポテンシャルを秘めているとも言われる。

古賀は、173cmの長身ながらスピードとテクニックを兼ね備えたセンターバックで、“女性版・冨安健洋”とも称される大器だ。昨年10月のアジア競技大会では守備の軸となって優勝に貢献し、17歳で代表初キャップも記録した。

2人は昨夏のワールドカップにトレーニングパートナーとして帯同して以降、急速にステップアップを遂げてきた。そして、今年1月にはともにヨーロッパ挑戦を表明。「目標は世界で活躍すること」と話す2人の原点と、代表への思いを聞いた。

「止める・蹴る」を徹底してやってきた

――2人は昨年末のブラジル遠征で、現役高校生でなでしこジャパンでデビューしてインパクトを与えました。まずはそれぞれの武器と、お互いのプレーの魅力を教えてください。

谷川:自分の強みは、左右差のないキックの精度と展開力です。そこまで足の速い選手ではないので、頭を使ってプレーするシンキングスピードは強みだと思っています。(古賀)塔子は、最終ラインで身体能力の高さを活かした守備が強みですし、ビルドアップの時には、いつもすごくいいパスをもらえます。

古賀:自分の強みは、身体能力を活かして最後まで体を張ってゴールを守ることです。萌々子は、両足でいろいろなボールを蹴れるところもそうですけど、(JFAアカデミー福島で)6年間一緒にやってきて、「萌々子にボールを当てておけばなんとかなる」と思える安心感があります。

――谷川選手は168cm、古賀選手は173cmで、海外の選手と並んでも引けを取らない迫力があります。中学・高校でフィジカルの強さはどのように積み上げてきたんですか?

谷川:(JFAアカデミー福島の)フィジカルコーチのおかげで今の自分たちがあると思います。コーチの知識量が豊富なので、トレーニングのやり方を具体的に教わって、そのメニューを細部にこだわりながらこなしてきました。プラス、個人的には体幹を中心に鍛えてきました。

古賀:自分は小さい頃から寝ることが好きだったので、身長が大きくなったと思います(笑)。ただ、まだまだ体が細いので、上半身は練習後に重点的に鍛えています。海外で戦うために、もっとフィジカルは鍛えていかないといけないと思っています。

――古賀選手はプレースタイルが冨安選手に例えられることもありますが、そのあたりってちょっと意識したりしますか?

古賀:はい。冨安選手を少し意識してます(笑)。

――意識しつつ、伸びしろを感じながら鍛えているんですね。2人はポジショニングや相手との駆け引きなど、サッカーIQやスキルの高さも特徴だと思いますが、練習の中でどんなことを意識して取り組んできたんですか?

谷川:相手を見ながら判断することも大切ですが、(JFAアカデミー福島の)山口隆文監督からは、「止める・蹴る」を繊細にやることをずっと言われてきました。パス&コントロールを当たり前のようにやることが大事だと教えてもらったので、そこは意識しながら6年間やってきました。

古賀:そうですね。「止める・蹴る」を正確にやることは自分も意識していますし、センターバックからのインターセプトは常に狙っています。

ターニングポイントは2022年のU-17ワールドカップ

――これまでのキャリアの中で、ターニングポイントになったと思う大会や試合はありましたか?

古賀:2022年の(10月にインドで行われた)U-17ワールドカップですね。自分より身体能力や技術も高い選手と対面して世界との差を感じたので、そこで「海外でプレーしたい」と思うようになりました。

谷川:自分もあの大会に出場して初めて、海外にはこれだけたくさんうまい選手がいて、その選手たちが海外のトップクラブでプレーしていると知ったので、「ここで負けていられない」と思ったし、それから海外挑戦への思いが強くなりました。

――あの大会では、グループステージでタンザニアとカナダとフランスを3連勝無失点と圧倒したものの、スペインとの準々決勝に1-2で敗れたんですよね。谷川選手のゴールで先制しましたが、終盤に立て続けに失点しました。

谷川:あのスペイン戦は、これまでで一番悔しい敗戦でしたね。ラストで2失点して逆転負けだったので、自分たちの甘さが出たと感じました。かなわない相手ではなかったのでなおさら悔しかったですし、気持ち的にもしばらく引きずりました。

――その中でも、谷川選手は4試合連続ゴールと強烈なインパクトを残しました。スペイン戦で決めた30m近いスーパーゴールは観客や大会関係者を驚嘆させました。両足のシュートレンジの広さが外国人選手に近いですよね。

谷川:ありがとうございます。小さい頃から両足を使った練習を継続してきて、試合では常にゴールを狙うようにしています。

――古賀選手はU-17ワールドカップでは一つ下の代ながら、4試合にフル出場して守備を支えました。どんなことが記憶に残っていますか?

古賀:個人的に気持ちの切り替えはいつも早い方なのですが、萌々子が言ったように、あのスペイン戦は本当に悔しかったです。終盤に追いつかれた時にそこでみんなで話し合うなど、チームとしてもっとできることがあったんじゃないかなと。

なでしこジャパンが世界一になったのは5歳と6歳の時

――2011年のドイツワールドカップでなでしこジャパンが優勝した時は、谷川選手が6歳、古賀選手は5歳でしたが、覚えていますか?

古賀:幼稚園の頃にテレビで見て、すごいなぁと思っていたのを覚えています。

谷川:覚えています。なでしこジャパンの先輩方がワールドカップトロフィーを掲げる姿を見て、「私も世界一になりたい」と思いました。あの大会で活躍した澤穂希選手は小さい頃から憧れの存在です。

――サッカーを始めたのは谷川選手が4歳、古賀選手が小学校1年生の時だそうですが、最初になでしこジャパンを意識したのはいつ頃だったんですか?

谷川:常に目標としてきた場所なんですが、昨年夏のワールドカップに帯同した時から明確に意識するようになりましたね。藤野あおばさんや浜野まいかさんや石川璃音さんなど、年代が近い選手たちが活躍する姿を見て学ぶこともありましたし、選ばれるために自分自身「まだまだ足りなかったな」という悔しい思いもありました。

古賀:なでしこジャパンは小学校でサッカーを始めた時からの目標でしたが、具体的に「何歳までに入りたい」っていうのはなかったです。ただ、昨年のワールドカップにトレーニングパートナーとして参加したときに、世界のトップレベルの戦いを間近で見て、「ここに立ちたい」という思いが強くなりました。

――「出られなくて悔しい」という思いがあったんですね。ピッチ上ではやはり、2人とも負けず嫌いですか?

谷川:はい、かなり(笑)。

古賀:自主練で萌々子と1対1すると、2人とも負けず嫌いなので全然終わらないんですよ。お互いに勝つまでやり続けますから(笑)。

――それは熾烈ですね(笑)。トップレベルの戦いを間近に見て、どんなことを感じました?

谷川:世界との差など、間近で見て感じることはたくさんあったんですけど、実際にピッチに立ってプレーできなかったので、やっぱり立ってみないとわからないことがあると思いました。ただ、オフザピッチでは池田太監督をはじめ、選手たちが「トレーニングパートナーの2人も一緒に戦うんだ」といつも声をかけてくれていたので、チームのために何ができるかを考えて行動していました。

古賀:そうですね。本当に、出ていない選手も出ている選手と同じぐらいの気持ちで戦っている印象で、すごくチームの雰囲気が良かったです。オフの日には、しっかりと自分の体と向き合ってケアして次の試合に臨んでいる部分が印象的でした。

アジア競技大会で優勝、現役高校生で代表初招集

――昨年9月には、なでしこジャパンとは別編成の日本女子代表チームでアジア競技大会に出場し、ともに全試合に出場。6試合39得点4失点と攻撃的なサッカーを展開し、谷川選手は準決勝の中国戦(◯4-3)と決勝の北朝鮮戦(◯4-1)のゴールを含む4得点、古賀選手もセンターバックで堅守の原動力になりました。大会を通じてどのような手応えがありましたか?

古賀:初めてアンダーカテゴリーではない大会に出ることができて、「優勝したい」という思いが強く、最後まで体を張って守り切るという部分では自分の良さを出せたと思います。タイトルを取れてすごく嬉しかったですね。

谷川:「アジアの戦いはワールドカップとは違う」と周りの選手から話を聞いていましたが、特に決勝の北朝鮮戦は試合前から相手の圧を感じましたし、球際もそれまで経験したことのない強さがあって、これから先のサッカー人生に絶対に活きてくると思いました。金メダルが本当に重かったので、表彰台で「これが優勝の価値なんだな」と思っていました。

――収穫の多い大会だったんですね。その後、11月から12月にかけてのブラジル遠征では現役高校生で2人同時になでしこジャパンに初招集されました。長距離移動で中2日の連戦というハードスケジュールでしたが、試合に出てみてどうでした?

谷川:(JFAアカデミー福島の)山口監督から「なでしこジャパンに呼ばれた」と聞いた時は本当に嬉しかったです。タフな試合をしながら中2日でやっていくことは、メンタル的にも体的にもすごく負荷のかかることで大変でしたが、しっかりケアをして次の試合に備えることが大切だと実感しました。

古賀:なでしこジャパンに選ばれた時は素直に嬉しかったし、最初に試合に出ると聞いた時は緊張しましたけど、皆さんが助けてくれたので思い切ってプレイできたかなと思います。アジア競技大会の時に中1日っていうのがあったので、その時よりは楽でしたね(苦笑)。

――周りの先輩たちが、のびのびプレーさせてくれた感じですか?

谷川・古賀:はい。

――声が揃いましたね(笑)。

古賀:試合に出る前に、(石川)璃音さんが「自信を持ってやっていいよ」と言ってくれて、緊張がほぐれました。最終ラインで組んだ(清水)梨紗さんや(南)萌華さん、(遠藤)純さんたちも思い切ってやっていいって言ってくれたので、やりやすかったです。

谷川:私はブラジル戦の初戦で、後半の途中から(熊谷)紗希さんと交代で出場したんですが、その時に紗希さんから「思い切ってやってこい!」って言われたのが印象的でした。

――2月末には、パリ五輪アジア最終予選で北朝鮮とホームアンドアウェーで対戦します。2人はアジア競技大会で北朝鮮と対戦経験がありますが、勝つためにどんなことが大切になると思いますか?

谷川:球際で勢いよくくる相手なので、それをうまくかわすことができれば日本が主導権を握れると思いますし、なでしこジャパンはテクニックのある選手がたくさんいるので、そういったところをうまく出せれば難しい試合にはならないかなと思います。

古賀:萌々子と同じように思いますし、最終ラインは、どんなことがあっても冷静に対応することが大切だと思います。

【後編はこちら】なでしこJの18歳コンビ・谷川萌々子と古賀塔子がドイツとオランダの名門クラブへ。前例少ない10代での海外挑戦の背景とは?

<了>

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[PROFILE]
谷川萌々子(たにかわ・ももこ) 2005年5月7日生まれ。愛知県出身。女子サッカーのスウェーデン1部・FCローゼンゴード所属。ポジションはMF。4歳でサッカーを始め、中学入学時にJFAアカデミー福島に進学。2022年のFIFA U-17女子ワールドカップで4試合に出場し4ゴール。2023年FIFA 女子ワールドカップにトレーニングパートナーとして帯同し、10月のアジア競技大会では優勝に貢献。11月のブラジル遠征で高校生としてなでしこジャパンに初招集された。今年1月にドイツ1部のバイエルン・ミュンヘンに移籍し、1年間の期限付移籍でFCローゼンゴードに加入。武器は168cmの恵まれた体格と視野の広さ、両足の正確なキック。

[PROFILE]
古賀塔子(こが・とうこ) 2006年1月6日生まれ。大阪府出身。女子サッカーのオランダ1部・フェイエノールト所属。ポジションはDF。小学校1年生の時にサッカーを始め、中学入学時にJFAアカデミー福島に進学。2022年のFIFA U-17女子ワールドカップベスト16。173cmの長身と対人の強さを武器に頭角を現し、2023年FIFA 女子ワールドカップにトレーニングパートナーとして帯同し、10月のアジア競技大会では優勝に貢献。11月のブラジル遠征で高校生としてなでしこジャパンに初招集された。今年1月に海外挑戦を表明し、フェイエノールトに移籍した。身体能力の高さを生かした1対1の強さが魅力。

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