震災で実家焼けても…「歌が好き」不屈の慈善コンサート 神戸・垂水で17年、施設に300万円寄付

10月に開かれたチャリティーコンサート。歌手の愛田幾也さんが客席に降りて歌い、会場を大いに盛り上げた=神戸市垂水区日向1、レバンテホール

 神戸市垂水区で17年間続くチャリティーコンサートがある。主催者の女性は、戦後の混乱期に母親を亡くして苦労を重ね、阪神・淡路大震災では火災で実家を失った。「厳しい境遇にも負けず、頑張っている人のために」と寄付を続け、これまでに児童養護施設や福祉施設などへ計約300万円を贈ってきた。(笠原次郎)

 

神野美伽さんや渥美二郎さんも出演「応援したい」

 同区塩屋町の亀井秀子さん(78)。東灘区で生まれ、7歳の時に母を病気で亡くした。6人きょうだいの3番目で、一番上の姉が親代わりとなって世話をしてくれた。勤務先で出会った人との結婚を機に、垂水へ移り住んだ。歌謡曲好きが高じて、41歳の時にカラオケができる居酒屋を山陽須磨駅前に開いた。

 1995年の震災では、自宅と店は無事だったものの、東灘区魚崎北町の実家が近隣の火災に巻き込まれて全焼した。「家があった場所も分からなかったほど、何もかも燃えてしまった。家族のアルバムも思い出の品も、全部」。実家に住んでいた親戚5人は亀井さんの自宅で引き受け、数年間一緒に暮らした。

 振り返れば、つらい時は歌に励まされることが多かった。大好きな歌で誰かを応援できないかと思い立ち、2006年、垂水区社会福祉協議会と協力してチャリティーコンサートを開催。毎年1~3回開き、収益の一部などを区の善意銀行や赤い羽根共同募金に寄付してきた。

 プロ相手の出演交渉などは大変だったが、趣旨に賛同してくれた神野美伽さん、渥美二郎さんや角川博さんら有名な歌手もステージに立ってくれた。昨年10月は松原のぶえさんら7人が出演。詰めかけた地元の演歌ファンを楽しませた。

 乳児院と児童養護施設を運営する社会福祉法人「神戸少年の町」(垂水区塩屋町)は、赤い羽根共同募金の支援先の一つ。一昨年、古くなったユニットバスを交換できた。施設長の伊東鉄也さん(59)は「きれいで気持ちいいと、子どもたちがすごく喜んでいた。笑顔を見られてよかった」と感謝した。

 「ただ『歌が好き』という気持ちで走ってきた」と亀井さん。「地域のみなさんをつなぎ、少しでも幸せな気持ちになってもらえたのならうれしい」とほほ笑んだ。次回のコンサートは3月を予定している。

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