「自分のスイングはほぼ見ない」U-25世代スイングセルフ解説/蝉川泰果

好調をキープする蝉川が自身のスイングについて語る(撮影/服部謙二郎)

昨年の国内ツアーで賞金王に輝いた中島啓太を筆頭に日本の男子ゴルフ界はいま、若手の台頭が著しい。お互いが刺激し合う相乗効果で、まさに“強い世代”を形成しつつあるのは間違いない。彼らはどんな経歴でゴルフをしてきたのか、そしてどんなスイングをしているのか。「U-25世代」の若者たちにスポットをあて、彼ら自身の口でスイングをセルフ解説してもらった。

24年シーズンの蝉川は好調の予感たっぷり

コーナーの8回目に取り上げるのは兵庫県出身、23歳の蝉川泰果だ。東北福祉大4年だった2022年に史上初めてアマチュアとして国内ツアーで2勝。「日本オープン」でのアマ優勝は第1回大会(1927年)の赤星六郎以来95年ぶりの快挙だった。プロ入り後23年は「関西オープン」、最終戦の「ゴルフ日本シリーズJTカップ」で優勝。今季は「ソニーオープンinハワイ」からPGAツアーにスポット参戦している。世界の選手にも引けを取らないそのダイナミックなスイングを紐解いていこう。

「キレイなスイング=真っすぐ行く」わけではない

23年VISA太平洋マスターズ時のドライバー連続写真(撮影/服部謙二郎)

―自身のスイングのココを見てほしいという部分はありますか?
正直ないんですよね。自分ではクセが強いと思っているんで、自分のスイングを自分で解説できるような感覚は正直ないんです。他人と比べることもないですし、スイングを動画を見返すことも滅多にないです。そもそも撮りもしないです。1週間のうちに1回撮るかどうかといった感じです。

―スイング中の体の動きが気になるときは、どうしていますか?
あまり気にし過ぎないようにしています。でも、例えば球が左に行きやすかったら、原因はだいたい何パターンかあるので、どのケースなのかを判断していく。それでもわからないときに、ようやく動画を撮って修正したりもします。でもだいたいは動画を撮らなくても(ミスの原因が)判断できるケースが多いです。

―左へのミスのパターン例は?

ひとつは「下半身が止まる」ということですよね。下半身が止まって、右に体重も残ってという感じですね。それで手が先行しちゃうから、左に引っかける。

シーズン中はゴムバンドで足を縛って、強制的に左に体重を乗せるような練習をしていた(撮影/服部謙二郎)

―ミスは左が多い?

右のミスも多いですね。その週によって右か左、どちらかに行きやすい傾向というのはあります。

―どこを意識して練習していますか?スイングづくりの過程でポイントになった箇所は?

フィニッシュで左に乗り切れているかどうかは気にしますかね。でも、ずっと(一貫して)意識してきたことはないです。その時の状況でスイングは変わってきているので。(クラブを)真っすぐ上げているつもりでも、だんだんインサイドから上がるようになったりする。その時々でスイングを変えてきています。ですからコレというポイントがあるわけではないんですよ。

―『この動きができている』とうまくいくという基準?

(良い)スコアが出ていたら、正直どんなスイングでもいいと思っています。ショットが真っすぐ行かないとスコアが出ないので。

―あまりスイングにこだわらない

例えばスコティ・シェフラーだったり、川村(昌弘)さんみたいなタイプだったり、僕もそうですが、スイングにはいろんな個性があると思うんですよね。それで結果を出してないかっていわれたら、結果を出している人はいっぱいいます。「スイングがキレイなら真っすぐ行くか」といったらそんなこともないと思うんで、周りから見てキレイかどうかは別に関係ないかなと。

スイングにこだわらないという蝉川だが、練習場にいる時間は誰よりも長い(撮影/服部謙二郎)

―「スイングがキレイ=スコアがいい」と直結はしない?

本当にそう思っています。自分もスイングがキレイになりたかったんですけど、キレイになれなかった人種なんです(笑)。

―でも、蝉川選手のスイングのファンは多いですよね。スピード感があって、振りちぎっているように見えます。

最近はそんなことないんですよね。アマチュアで勝ったとき(2022年)の方がエネルギーのある状態で振れていて、スイングスピードが速かったなと思っています。今はそのときの8割ぐらいですかね。

―試合が続くと振れなくなってくる?

ずっと試合をやっていると、やっぱりどんどんどん振れなくなってくるのもありますね。それはメンタル的な部分もあります。

―今までジュニア時代からゴルフをやってきた中で、今のスイングに生きている部分などは?

コレというのはないですね。あんまり固定のものはなくて…。でも幼少期からのクセはあまり変わってないかな。

23年ツアー選手権時のドライバー連続写真(撮影/和田慎太郎)

―クセは?

マン振りに見えるとか、(インパクト前後で)頭が下がるとか、よく言われたりします。自分の中ではみんなと一緒に振っているつもりでも、動画を見たらみんなと違うというのは理解はしています。

―小さい頃からスイングが変わらず、それが緊張した場面でも生きているのでは?

そうですね。(球が)バラバラになるときもあったりしますけど、その度合いは少ないかなとは思いますね。

◇◇◇◇

インタビュー後、「正直、スイングのこと聞かれるの、苦手なんですよね。クセが強いんで…」と照れ臭そうに笑った蝉川。それでも、真摯に受け答えしてくれたのには、やはり「キレイなスイングだからといって試合に勝てるわけではない」という信念のもとに、好成績を重ねてきた自負もあるのだろう。試合後の練習場では時折、バッグから取り出したゴムチューブを足に巻いて「左に乗る動き」を反復練習している。自分のクセをよく理解しているからこそ、「きょうは乗れていない」というのも判断しやすく、軌道修正にかかる時間も少ないのだと推測できる。スイング動画やデータなどにとらわれ過ぎずに、愚直に自身のスイングと向き合うその姿勢は、まさに強い選手の特徴のように思えてならない。(取材・構成/服部謙二郎)

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