能登半島地震で見えてきた課題、「あの日」の教訓は生きたのか 阪神・淡路大震災、17日で発生から丸29年

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 6434人が亡くなり、3人が行方不明となった阪神・淡路大震災は17日、発生から丸29年になる。今月1日に起きた能登半島地震では耐震性の低い建物の倒壊で死者数が増え続け、大規模火災が発生、長引く避難生活による災害関連死も出ている。阪神・淡路の教訓は生きたのか。住民の高齢化が進む能登地方で見えた課題は、南海トラフ巨大地震が懸念される兵庫の課題でもある。

 「震災の教訓が能登に伝わっていない」

 14日、オンラインで開かれたフォーラム。神戸大名誉教授で、防災学者の室崎益輝さん(79)が悔しさをかみしめた。

 不明者の増加に、救出部隊の投下が追いつかない。断水が続き、プライバシー確保もままならないまま過酷な避難所暮らしを強いられる。体力がなく持病などを抱えた高齢者らの命が奪われる-。29年前の神戸を再現したような現状に、その後の防災研究をリードしてきた室崎さんは「同じ失敗をしないように伝えてこられたか。私たち兵庫の被災地責任だ」と断じた。

 特に今回、浮き彫りになったのは避難所の限界だ。インフラ復旧が見通せず、石川県や政府は県内の宿泊施設や北陸各県への広域避難を推し進める。「高齢者や障害者だけでなく、コミュニティー単位で動くことが大切。地域に残る人のため、集落ごとの小規模な仮設住宅の建設も重要」と室崎さんは言う。

 阪神・淡路では、抽選で高齢世帯などを優先して仮設住宅への入居を進めた結果、コミュニティーの分断を生んだ。南海トラフ巨大地震で最大17万人が避難所生活を送ると想定される兵庫でも、多様な支援策を用意し、その実効性を高めておく必要がある。

 住宅の耐震化が進んでいないことも課題だ。被害が集中した石川県珠洲市は昨年5月にも震度6強の地震に見舞われ、耐震補強を予定していた民家もあった。だが、現地では職人が足らず、8カ月後に起きた今回の地震に間に合わず倒壊した。人手不足は復旧・復興の長期化にもつながる。

 兵庫県の耐震化率は2018年で90.1%と全国平均(87.0%)より高いが、まだ22万9千戸が耐震不足。県内で高齢化率が高い但馬や西播磨などは80%前後にとどまる。地震後に大規模火災の恐れがある国指定の「危険密集市街地」も神戸市内に190ヘクタールあり、震災時の同市長田区や能登半島地震の輪島市「朝市通り」と同様の大火災が起こる可能性がある。

 室崎さんは「兵庫でできていなければ震災の教訓は伝わらない」と指摘。「当時より社会の少子高齢化が大きく進んだことを踏まえ、教訓を新たに捉え直す作業も必要だ」と強調する。(上田勇紀、高田康夫)

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