これぞサラブレッド アストンマーティン「DBX707」ずば抜けた運動性能

イギリスは、近代競馬のスタイルを確立した国だ。競馬の世界でダービーステークスといえば、今日でもなお決定的な一戦として知られている。そんなイギリス産のスポーツカーは、時にサラブレッド(競走馬)に例えられ、自動車の草創期には「鉄の馬」と言われることもあった。

現在、サラブレッドと呼ぶにふさわしいイギリス車はアストンマーティンだろう。傑出した自動車職人が貴族のパトロンのために製作したレーシングカーという起源を考えれば、高貴なサラブレッドそのものといえる。

アストンマーティンはスポーツカー専業ブランドとして2ドアのスポーツモデルを作り続けてきたが、現在はラインアップが充実している。中でも代表的なモデルは2シーターの「ヴァンテージ」、2+2シーターの「DB12」、そして今回の主役であるSUVの「DBX」だ。とはいえ、同社はDBXを単なるSUVとは解釈していないようだ。荷物がたくさん積める便利な乗り物である前に、まずアストンマーティンであるということ。実際にDBXの高性能版というべき「DBX707」に試乗して、彼らの主張が理解できた。

DBXは2019年にデビューした初のSUVモデル。メルセデスAMG由来のV8ツインターボの最高出力は550psで、9速ATと組み合わされていた。その動力性能は必要にして十分なものだったが、彼らは比較的早いタイミングで次なる矢を放った。それが車名の末尾に最高出力を示す数字を加えたDBX707だ。出力が157psもアップしているのに加え、驚くべきはATの変更である。トルクコンバータータイプだった従来のクラッチは、湿式多板タイプに変更された。微かな空走時間を伴ってヌルッと変速するトルコンに対し、ガツンと瞬時にシフトを終える湿式多板。つまりアストンマーティン=スポーツカーとしての完成度がより一層高まったということになる。

DBX707のボディは小さくない。ポルシェ「カイエン」よりもひとまわり大きく、BMW「X7」よりわずかにコンパクト。波打つ筋肉の塊のようなボディには、フルサイズの貫禄がある。室内も2ドアスポーツモデルに通じる世界観でまとめられている。シートのみならず複雑な形状のダッシュボードやドアトリムまで、上質なレザーが丁寧に張り込まれている。スイッチ類をモニター内に収めてしまうトレンドには乗らず、クリスタルガラスやアルミの削り出しといった贅を尽くした素材によって構成するあたりも、“超”がつく高級車らしい手法といえる。

だがDBX707の白眉(はくび)はやはり「走り」にある。スロットルを踏むと、まるでハイパワーEVのように寸分の淀みもなく加速Gが立ち上がっていく。車重は約2.25トン(この手のSUVモデルとしては比較的軽量)と重量級でありながら、車重が半分ほどに感じられるくらい身のこなしは俊敏。ドライブフィールはまさにスポーツカーのそれに近く、「サラブレッドの手綱を握っている」という気にさせてくれる。

ダイナミックドライブモードは5つのモードで可変する。最もコンフォートな「GT」からサーキットレベルの「スポーツ+」まで的確にセッティングされており、あらゆる走りのステージでアストンマーティンらしい、引き締まったラグジュアリーな走りを体感することができる。

使い勝手も申し分ない。頭を悩ませることなくキャディバッグ3本を横方向に積めるし、それでもなおラゲッジスペースには余裕がある。リアシートのしつらえもフロントと同じように贅が尽くされている。ライバルと肩を並べる上質さの裏に、サラブレッドらしいずば抜けた運動性能をひた隠す。スポーツカーメイクスが作りあげたSUVの決定版といえる出来栄えだ。

アストンマーティンDBX707 車両本体価格: 3290万円(税込)

Text : Takuo Yoshida

© 株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン