「人権を無視した取り調べで“自供”を得た」58年前の音声を法廷で流す 弁護団「袴田さんの犯行はあり得ない」【袴田事件再審公判ドキュメント⑦】

1966年、静岡県旧清水市(現静岡市清水区)で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」で死刑が確定している袴田巖さん(87)の再審=やり直し裁判が1月16日、17日の2日間連続で開かれました。
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17日は、弁護団が58年前の袴田さんの取り調べの音声を法廷で流し「警察は自供がなければ袴田さんを犯人にできなかった」と指摘しました。

<滝澤悠希アナウンサー>(静岡地方裁判所・17日午前10時半)
「きのうに続いて開かれる袴田事件の再審公判。きょうも弁護側が終日主張を展開する予定です」

7回目に突入した袴田事件の再審公判。17日、弁護団が最初に主張したのは「複数犯説」です。法廷では、傍聴席には見えない形で約40枚の遺体の写真を示し、首や腕にひもで縛られた跡が見受けられると指摘。刺し傷以外にも、歯が折れた跡や指に切断の跡があり、4人のうち3人が時計をつけていて、被害者は起きていたとみられるとしました。この状況などから犯人は「複数犯」で、動機は怨恨。袴田さんの犯行はあり得ないと主張しました。

<滝澤悠希アナウンサー>
「ひもで縛られた跡は、弁護団がきのうの再審公判で初めて言及しましたが、検察側は、きのうの会見で『恣意的な主張』と真っ向から反論しています」

また、弁護側は58年前、袴田さんが逮捕された直後の取り調べの音声を法廷内で流しました。

<取り調べの様子>
袴田さん「すいません。小便行きたいですけどね」
取調官A「小便は行きゃええがさ、その間にイエスかノーか、話ししてみなさいって言うんじゃないか」

弁護団はトイレにも行かせず、人権を無視した取り調べの結果、袴田さんの一時的な“自供”を得たと指摘しました。

さらに、勾留期限が迫る中、袴田さんを犯人だと決めつけ、謝罪を求め続ける取り調べが46分間に及んだと主張。弁護側は、この録音テープを流す前には「この音声は46分間ありますが、一部しか流せません。これが永遠に続くと想定して聞いてください」と訴え、その上で「どうしてあんなことをしなきゃならなかったか、おまえ金が欲しかったのか」「袴田、なぜ黙っているんだ。言ってみればいいじゃないかよ、言ってみれば」という音声が法廷に流れました。

警察がのちに「自供がなければ真相把握は難しかった」と捜査報告をしていることにも言及しました。

<滝澤悠希アナウンサー>
「午後の審理で、検察が袴田さんの犯行着衣と主張する「5点の衣類」の血液の色についての議論に入りました」

事件から1年2か月後に現場のみそタンクから発見された「5点の衣類」。弁護団は付着した血痕に赤みが残ることは不自然で、捜査機関が発見直前にタンク内にいれた「捏造証拠だからだ」と反論しました。

<滝澤悠希アナウンサー>
「1年以上みそに漬かっても、こちらの写真のように、本当に赤いままなのか?弁護団は、黒くなるメカニズムをきょう改めて主張しました」

弁護団が長期間みそに漬かれば血痕が黒くなる根拠として、やり直し裁判で提出しているのは、2023年3月の東京高裁の決定でも評価された旭川医科大学による実験結果です。

血痕に残された赤みが数日で失われるメカニズムのほか、タンクの中で血液中のたんぱく質とみその中の糖が触れることによって生じる化学反応「メイラード反応」で、時間をかけてさらに黒くなることを説明しました。

審理を終え、記者会見に臨んだ姉・ひで子さんは、法廷では胸をはって弁護団の主張を聞いていたと言います。

<袴田巖さんの姉・ひで子さん(90)>
「一山も二山も、三山も越した。勝利は目に見えている」

<小川秀世弁護士>
「弁護団の立証が一日続いたが、特に録音について非常に難しい議論をわかりやすく膨大なデータからコンパクトに時間通りまとめられた。最後に色の問題を論じたが、難しい問題を簡潔に分かりやすくまとめて、裁判官にもうなづいていただいた」

次の審理は、2月14日、15日と連日で予定されていて、審理は5月22日までに終わる見通しです。

再審の最大の山場の議論に入りましたが、一方の検察側は「長期間味噌につけられても赤みが残る可能性はある」という主張を7人の専門家らによる鑑定書を軸に2月の公判で主張する見込みです。判決は、早ければ夏の終わりごろに言い渡される見通しです。

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