1982年に日本初の外国大学日本校として開校以来、成長し続けるテンプル大学ジャパンキャンパスの取り組み

東京・世田谷にキャンパスを構えるテンプル大学ジャパンキャンパス(以下、TUJ)。昨年、日本校開校40周年を迎えた。米国大学の日本校として、これまでも日本の国際化に貢献してきた。コロナ禍に入ってからも学生数は増加、現在は約2,200名の学生を抱える。少子化に伴い学生数の減少に悩む現在の日本にある大学の中で好調な大学運営を維持するその取り組みについてマシュー・ウィルソン学長にお話を伺った。

日本における外国大学日本校の先駆け

2023年、TUJは41年目に入りました。1982年に東京に開校、日本でアメリカの大学教育が受けられる高等教育機関としてTUJは注目を集めました。1980~1990年代当時、多くの外国大学が日本にキャンパスを作りましたが、アメリカの大学で現存するのは2大学に過ぎません。開校当時のTUJは、外国人学生の多くは短期留学で半年の滞在がメインでした。私は、テンプル大学ロースクールで法律を学び、国際弁護士になりました。その縁もあって2003~2009年にTUJの教授として来日し、その際に上級副学長と顧問弁護士も兼務していました。

TUJは2005年に文部科学省から「外国大学の日本校」と指定をうけたことにより、状況がかわりました。大学として、海外からの学生にビザが発行されるようになって学生数も増えていきました。いまでは、米国テンプル大学本校の学位を、日本で取得できるということで人気が集まり、約70か国からの学生が学ぶ真にグローバルなキャンパスになりました。2011年の東日本大震災の影響で学生数が落ち込んだ時期もありましたが、私が学長に着任した2020年には1,250名くらいで、現在約2,200名の学生がTUJで学んでいます。

学長主催、恒例の「Dean's Distress Day」で学生たちとコミュニケーションをとるマシュー・ウィルソンTUJ学長

日本に居ながらにして、グローバルなアメリカの大学教育を実現

テンプル大学のアメリカ本校は、1884年創立と歴史も長く、州立総合大学として評価されている大学です。2023年10月に発表されたUSニュース&ワールド・レポートの2024年全米大学総合ランキングの総合大学部門において89位となり、前年の121位から大きく上昇しました。私たちTUJの教育クオリティーは、カリキュラム、授業内容、取得学位や資格はすべてアメリカ本校から授与されます。そのため、日本に居ながらにして、正式なアメリカの大学の卒業資格が取得できるこのような場所はなかなか他にはないように思います。

現在、TUJの大学学部課程の教員の74%は外国人で、そのうち、37%はアメリカ人です。アメリカ式の大学教育がベースですが、大きな特徴として先生方がそれぞれの国で経験してきた良い所も柔軟に取り入れ授業に活かしているので、グローバル色が増しています。

私たちTUJの教育クオリティーは、カリキュラム、授業内容、資格とアメリカ本校と同じです。ただし、学費については日本環境にあわせて設定しているため、アメリカ本校と比べても割安です。そのため、それは日本の学生にとっても、海外から日本にくる学生にとっても大きなメリットとなっています。

昨年、新たに特別プログラム「Fly to Philly(フライ・トゥ・フィリー・プログラム)」を開始しました。このプログラムは、TUJの学生は最長1年間、アメリカ本校に留学する際に日本校の学費が適用されます。TUJの日米両キャンパスでの履修を希望する学部生の留学機会を拡大することで、学生の視野を広げ、人間的な成長を促し、異文化間の交流を深めるのが目的です。

また、外国人に人気の高い渋谷や、サブカルチャーの街・下北沢にも近いキャンパスに、約70カ国からの学生が集まる国際色豊かなこの環境は、学生にも魅力的に映るのではないでしょうか。私たちが、このような環境と実践的な授業を通して学生たちに様々なグローバルな経験をさせようとしていることが注目を集め、評価につながっているのだと思います。

学生も企業も注目する様々なTUJの取り組み

TUJは今年、学部課程にeスポーツ修了証書プログラムを導入しました。eスポーツというと、単にゲームに強い選手を育成したり、ゲーム自体を作ったりすると思われるかもしれませんが、このプログラムは、eスポーツを学問として、その可能性の大きな業界で活躍するための人材を育てることに主眼を置いています。私は、これまで歴任した米国の大学でもeスポーツプログラムに携わっていましたが、eスポーツがビジネス、マネジメント、放送、メディア、アート、コンピュータサイエンスから法学、心理学、さらに医学に至るまで様々な分野と関連し、幅広いキャリアの機会を提供し得ることは、まだあまり広く認知されていないように思います。TUJでは、学部課程にeスポーツをビジネス面およびマネジメント面から理解する4つのコースをつくりました。卒業に必要な単位としても認定します。また、TUJ公式eスポーツチームも発足し、企業提携も行っています。eスポーツを通してコミュニケーション、チームワーク、リーダーシップ、戦略的思考といった有用なスキルを学生たちが習得する機会を教室の内外でも提供することも目的の一つです。

さらに今年9月の秋学期より、学部課程に観光・ホスピタリティマネジメント学科も開設しました。現在の日本では、海外からの観光客の増加に、人材不足が顕著な状況です。テンプル大学アメリカ本校の観光・ホスピタリティ学科の評価は世界的にもトップクラス※です。TUJの観光・ホスピタリティ学科では、アメリカ本校での授業・カリキュラムが提供され、卒業するためには2つのインターンシップが必須です。このインターンシップは、一つ企業で180時間、二つ目の企業で600時間の実務経験を積んでいかないと、単位が取得できない厳しいものになっていますが、それだけの経験ができるからこそ、観光・ホスピタリティ業界からの期待値も高く、学生は幅広いキャリア選択ができると考えています。

TUJにはバイリンガル、トリリンガルとマルチリンガルな学生も多数います。海外から来る学生は、日本に残って仕事したいと考えている学生も多く、前述のさまざまな取り組みが企業の目にも留まるようになったことで、様々な企業から多くの声がかかるようになりました。

次世代のリーダーを育成するというプログラムにも力をいれています。一昨年から、将来の学生リーダーを育成することを目標とする特別なコース「次世代リーダーズプログラム(Emerging Leaders Program)」を立ち上げました。本プログラムは、新入学生から募集し、学期開始前に集中的かつ実践的なリーダーシップ研修を行い、将来、グローバルな環境で活躍できるようなスキルを身につけることがその目的です。その主な活動の一つとして、「スピリット・ウィーク」という米国の学校、大学では恒例の愛校心と学生同士の結束を高める目的の文化イベントを、自分たちで計画を立て実施することで、自らが率先して実行する意識を培い、未来のリーダーを育てています。

日本のグローバル化に欠かせない存在に

TUJが重視しているのは、実践における「経験」です。授業では、まず小さな「問題」から実際に取り組みます。その「問題」を解決するにはどうしたらいいのかと、実際に現場に行き、観察して、そして教室に戻る。そこで、何が良かったのか、何が足りなかったか、どこで改善ができるかを分析し、話し合い、そこで得た経験を通して、学生の視野が広がる。そのような教育を教員も日々努力して行っています。インターンシップも同様です。TUJでは、米国式のインターンシップを実践しています。平均3か月程度という期間研修生として働き、学ぶという経験に、単位認定をします。そのため、会社に行って単に働くだけではだめで、何に取り組んだか、何を習って、どのような改善があったかを大学に戻り教員とよく話し合い、また再びインターンシップ先に戻るという方法を徹底しています。その数々の経験が、TUJの学生が実社会で活躍できる基礎をつくっているのだと思います。

さらに、学部生たちは、東日本大震災での経験や影響について理解を深めるため、実際に福島に行き、行政の方とも面談し、津波・地震を経験した方にも話を聞いて、実際に原子力発電所も見学に行きました。このような様々な経験を重ねていくことが、実社会に出たときの大きな糧となるに違いありません。私自身も、ロースクール時代に最高裁判所に行って、実際に裁判官と話し合う機会を得たことは、今にして貴重な経験だったと感じます。

全国各地の都道府県からも様々なかたちでお話をいただき、2022年の12月に山梨県と包括協定書を結びました。日本の他大学からも英語を勉強するために多くの学生がTUJに通っています。

私の夢は、日本において「グローバル」という言葉を聞いたときに、多くの人がTUJやTUJの学生を思い浮かべるようになることです。今後もTUJが日本のグローバル化にとって欠かせない存在となれるように、新しい取り組みにチャレンジしながら努力を重ねていきたいと考えています。

※世界大学学術ランキング(ARWU=Academic Ranking of World Universities)はShanghai Ranking Consultancyが発行する世界の大学ランキング。通称「上海ランキング」とも呼ばれる。

テンプル大学ジャパンキャンパス

マシュー・ウィルソン学長

2020年9月、テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)の学長に就任。以来、学生の成功(目標達成)を重視する姿勢強化や革新的な経営戦略を打ち出し、TUJ学部課程の入学者数を過去最高水準に引き上げた。自身も同大学米国本校法科大学院の同窓生であり、TUJへの留学経験がある。

TUJにてロースクール・ディレクター(2003~2005年)ならびに上級副学長(2004~2009年)を歴任し、2014年、アクロン大学ロースクール(米国オハイオ州)教授、学部長を経て、2016年同大学長に就任。2019年からミズーリ・ウェスタン州立大学(米国ミズーリ州)学長を務めた。

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