バーチャル旅行のいま――米国・ニュージーランドの旅行会社に聞く

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コロナ禍で一躍脚光を浴びたバーチャル旅行。旅行産業がパンデミック前の水準に戻り、人々が行き交う物理的な旅行が再開されるなか、オーバーツーリズムの解消や環境負荷の低減にもなるバーチャル旅行の現状と今後について、米カリフォルニア州とニュージーランドの企業に話を聞いた。(翻訳・編集=小松はるか)

山を登ると、そこには一面の銀世界が広がり、別世界のような大自然と出合う。左を見渡し、右に目を向けると、アイスランド・クヴェルフィヤットル火山の巨大な噴火口に目を奪われる。

噴火口は、他の時期には人気のハイキングスポットだが、冬に行くのは難しい場所だ。しかし、遠隔ドローンを使ったバーチャルツアーを提供するネイチャーアイ(NatureEye)のおかげで、この自然の素晴らしさを真上から生中継で見ることができる。

Welcome to NatureEye. Where will you fly today? from NatureEye on Vimeo.

ネイチャーアイで最高マーケティング責任者(CMO)を務めるミッシェル・ウェール氏は、「アイスランドのクヴェルフィヤットル火山は私のお気に入りの場所です。当社のガイドのヨハンは、この地域の地質や歴史に関する知識が豊富です。冬の火山の上空を飛ぶのは、これまで見たなかで最も素晴らしい光景の一つです」と話す。

クヴェルフィヤットル火山からカンボジアのメコン川、ペルーのマチュピチュ遺跡にいたるまで、ネイチャーアイの30分にわたる没入型のドローン飛行は、多くの人にまだ見ぬ景色を見せてくれる。経験を積んだガイドと共同操縦する同社の空中アドベンチャーは、最先端のテクノロジーを使ってスムーズな旅行体験を提供する。

2020年3月、新型コロナウイルスが世界の動きを止めたとき、多くの旅行業者が、家から出なくても旅行者を呼び込めるクリエーティブな方法を手に入れた。マラケシュ・メディナ(モロッコ)でのバーチャルショッピング旅行や国立公園でのトレッキング、世界の有名美術館の360度ツアーなど、人々は実際に旅行するよりも家にいながらの方がより多くの場所を訪れることができるようになった。

しかし、旅行需要が回復するにつれ、こうしたバーチャル旅行の多くはオフラインへと変わり、対面型の旅行へと回帰するなかで廃れていった。そんななか、自社の長期戦略として、コロナ禍がバーチャル旅行を採用するきっかけや促進材料になった企業もある。

持続可能な旅行としてのバーチャル旅行

ニュージーランドに本拠を置くバーチャル・ジャーニーズ・ニュージーランド(Virtual Journeys New Zealand)ではVR(バーチャル・リアリティ)ヘッドセットやメディアプレーヤーを使ったバーチャルツアーを提供する。創業者のマイケル・ニース氏は、「私はいつも未来を見ています。バーチャルツアーはその環境に没入する感覚が得られます。周囲を見渡せ、実際にその場にいるような感覚になります」と話す。

ニース氏は長年、ニュージーランドやオーストラリア、南太平洋の島々など行くまでに長い時間や多くのお金がかかり、大量のCO2を排出する場所のツアーガイドや旅行デザイナーとして働いてきた。コロナ禍で発展を遂げたテクノロジーに学び、「観光旅行にもこうしたテクノロジーやストーリーテリングを利用できると考えました」という。

旅行という概念はこれまで、人が物理的にある地点へ移動したり、経由することを指してきた。しかし、旅行には早急に取り組まなければならない課題がある。飛行機のCO2排出量の多さは代替の交通手段を選ぼうとする動きに拍車をかけ、その一方で、陸路の交通手段がほとんどない島・地域は観光旅行の減少という課題を抱えている。異常気象や脆弱(ぜいじゃく)な生態系へのツーリズムの影響は、旅行業界の未来に疑問を投げかける。さらに、旅行へのアクセスにも課題がある。休暇の短さ、増加する生活費、そのほかの制限によって、多くの人は旅行ができなくなってきている。

バーチャル旅行は、簡単には行けない場所、行くことができない場所を訪ねる手段を提供し、オーバーツーリズムに加担することも悪い影響をもたらすこともなく、経験や学びを得られ、旅先に貢献できるものだ。例えば、ネイチャーアイでは売上高の最大50%を地元のパートナー企業と分かち合い、経費をまかない、ガイドに報酬を払い、保全活動に投資している。

ウェール氏は、「私たちは、世界中の保護地域を訪れる方法、またその過程で地域に還元する新たな方法を生み出しています。ネイチャーアイの飛行によって各地の壮大な景色を見ることで、人々は、未来を見据えて環境保全に取り組む当社のパートナー組織に、より貢献できるようになるでしょう」と話す。

ネイチャーアイやバーチャル・ジャーニーズ・ニュージーランドが提供する体験は、旅行産業が直面する数えきれないほどの課題への解決策を示している。しかしながら、ニース氏は「旅行業界は非常に消極的です。バーチャル旅行を重要なものと認識していません」と話す。

旅行業界はパンデミックとその影響にがく然とさせられた。今は、旅行需要が2019年のコロナ禍前の水準まで回復し、世界旅行ツーリズム協会(WTTC)などの組織は活気づき、将来的にも物理的な移動に依存し続けようとしているが、バーチャル旅行に力を入れる企業は別の未来を見据えている。

「私たちは、AからBに旅行するために、飛行機で20時間かけて移動したり、飛行機に乗り、目的地を巡り、また飛行機に乗って戻る必要がある、と認識しています。ですが、それは少し変ではないでしょうか。将来、私たちの孫たちは『どうしてはるばる旅行するのか?』と尋ねると思います。バーチャル旅行は、旅行業界の一部になる必要があると本気で考えています。次世代のためにもそうする必要があります」

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