『パラサイト』アカデミー賞受賞に沸く韓国映画界 興行収入や観客動員数でわかるその勢いとは?

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第92回アカデミー賞において作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門を韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が受賞し大きな話題となりました。特に作品賞を外国語映画で初めて受賞したことは歴史的な快挙です。

しかし、数字としてはどれだけの結果を出しているのでしょうか? また、『パラサイト』を生んだ韓国映画界はどれだけ盛り上がっているのでしょうか?

本記事では興行収入や観客動員数、予算などのデータをもとに『パラサイト』と韓国映画界の秘密を解き明かします!

日本映画界の比較では興味深くも悔しい事実が浮かび上がりました。

『パラサイト 半地下の家族』とは?

まずは『パラサイト 半地下の家族』とはどんな作品なのか基本情報をネタバレなしでご紹介します。公式サイトに掲載されている「Introduction」は以下の通り。

全員失業中。

日の光も、電波も弱い“半地下住宅”で暮らす貧しいキム一家。大学受験に失敗し続けている長男ギウは、ある理由からエリート大学生の友達に家庭教師の仕事を紹介される。身分を偽り訪れた先は、IT企業を経営するパク社長一家が暮らす“高台の大豪邸”。思いもよらぬ高給の“就職先”を見つけたギウは、続けて美術家庭教師として妹ギジョンを紹介する。徐々に“パラサイト”していくキム一家。しかし、彼らが辿り着く先には、誰にも想像し得ない衝撃の光景が待ち構えていた―。

引用元:『パラサイト 半地下の家族』公式サイト>Introduction

監督・脚本はポン・ジュノ。2000年『ほえる犬は噛まない』でデビューし、実際の事件を題材にした2作目『殺人の追憶』(03)で韓国動員520万人を超える大ヒットを達成しました。その後、1,300万人以上を動員した社会派モンスター映画『グエムル‒漢江の怪物‒』(06)やハリウッド進出を果たした『スノーピアサー』(13)など話題作を連発。

格差や実在の事件のような社会的なテーマを映画に上手く反映しながら、ユーモアやサスペンスなどのエンタメ性が盛り込まれた巧みな作品作りに定評のある映画監督です。『パラサイト』も「貧困・格差」という重たいテーマを扱いながら、国籍を問わず楽しめる“面白さ”にあふれていることが、高い評価につながりました。

『パラサイト』の観客動員数や興行収入は? 歴代観客動員数ランキングは〇位!

それでは早速『パラサイト 半地下の家族』にまつわるデータを見ていきましょう。

IMDb(インターネットムービーデータベース)によると『パラサイト』の制作費は約1,100万ドル、全世界興行収入は2億5,411万8,279ドルでした。実に制作費の20倍以上の収益を稼いだことになります。

ポン・ジュノ監督がこれまでに監督した長編作品7本の制作費と興行収入の推移は以下のグラフの通り。

※数値はInternet Movie Databaseより引用、千ドル以下四捨五入

『パラサイト』がとびぬけて多くの全世界興行収入をたたき出していることがよくわかりますね。制作費自体はNetflix配信作品として制作されたSF映画『オクジャ』(17)が最も高額ですが、限定的にしか劇場公開されなかったため、興行収入は約205万ドルです。Netflixの視聴者から得られる収益がメインのため、こちらは別枠と考えるべきでしょう。

韓国で同年の興行収入1位を記録したサスペンス映画『殺人の追憶』(03)ですが、データでは制作費が興行収入を上回っています。この点についてはさらなるリサーチの余地があるかもしれません。

つづいて、ポン・ジュノ作品の韓国国内における観客動員数をみてみましょう。

※引用元:映画館入場券統合電算網(KOBIS)

『パラサイト 半地下の家族』の観客動員数は1,028万3,765人。2019年末時点の韓国の住民登録人口は5,184万9,861人ですから、単純計算で人口の20%近くに当たる人が『パラサイト』のために映画館に足を運んだことになります。何度も見に行った人を考慮しても、韓国内で『パラサイト』旋風が巻き起こったことは確実です。

しかし、観客動員数一位はパラサイトではないことにお気づきでしょうか?

そう、ポン・ジュノ監督作品で最も韓国内でヒットを飛ばしたのは『グエムル‒漢江の怪物‒』(06)なのです。その観客動員数は1,301万9,740人。

それでは、『グエムル』は韓国の観客動員数で1位を記録した映画なのでしょうか?

──実は、そうではありません。『グエムル』は韓国国内における韓国映画の歴代観客動員数で、2020年3月25日時点で6位に過ぎないのです。

韓国映画の歴代観客動員数ランキングは以下の表の通り。

韓国映画観客動員数ランキング(韓国国内)

※引用元:映画館入場券統合電算網(KOBIS)

1位の『バトル・オーシャン 海上決戦』(14)は慶長の役における鳴梁海戦(日本水軍と朝鮮水軍の海戦)を描いた歴史アクション映画。その動員数は1,761万3,682人です。14年の韓国の住民登録人口は約5,133万人のため、前述のロジックでいえば人口の33%近く(=3人に1人程度)が見に行った大ヒット作となります。

2位の『エクストリームジョブ』(19)は捜査のためフライドチキン店を経営することになった麻薬捜査班を描く19年一のヒットコメディで、韓国の歴代興行収入では1位を記録しました。

韓国映画界には『パラサイト』を超えるヒット作が多数存在することがわかりますね。

花開く韓国映画界 日本の観客動員数を追い越したのはいつ?

活況を呈する韓国映画界。

『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー作品賞を受賞できた一因には、韓国内の映画熱の高さとコンテンツマーケティング戦略があるといわれています。

映画界の後押しを受けて当選した金大中大統領(在任:98-03)は韓国映画界へ日本円で年間約150億円もの助成金を拠出することを決定。ポン・ジュノ監督もその後押しを受け、映画のエリートを育てるための学校、韓国映画アカデミーで才能を育成されたひとりです。

韓国映画界の隆興の歴史をデータで見てみましょう。

※引用元:映画館入場券統合電算網(KOBIS)、日本映画産業統計┃一般社団法人日本映画製作者連盟

韓国の映画観客動員数は2004年から驚異的な伸びをみせ、2011年には日本映画の観客動員数を追い越します。その後も衰退の兆しは見られず、2019年の年間動員数は約2万2,668人。2019年の日本の年間動員数は1万9,491人でした。

韓国の人口が日本の半分以下であることも考慮すれば、いかに韓国の映画熱が高まったかがわかるのではないでしょうか?

映画の公開本数も驚異的な伸びを見せており、2004年には280本と日本(649本)の半分以下に過ぎなかった年間の映画公開本数が、2019年には1,944本と7倍近く増加しました。日本の本数が追い抜かされたのは2015年のことです。

※引用元:映画館入場券統合電算網(KOBIS)、日本映画産業統計┃一般社団法人日本映画製作者連盟

このようにデータをみると、映画産業において日本は韓国に大きな逆転を許したことがわかります。その結果が、『パラサイト 半地下の家族』による外国語映画初のアカデミー作品賞受賞なのでしょう。

もちろん日本にも素晴らしい映画は数多く存在します。しかし、SNSで話題になったポスター問題(シンプルな韓国版ポスターに対し、日本版はごてごてと情報が盛り込まれがち)など両国の“映画産業”への向き合い方の違いが、評価の差を生んだ面はありそうです。

終わりに

『パラサイト 半地下の家族』のアカデミー賞受賞を受けてその周辺データを調査し、韓国映画界の勢いを目の当たりにしました。現在新型コロナによる打撃を受け、映画産業は大きなダメージを受けているはずです。

しかし、幸い映画は配信やDVDで見ることもできます。ぜひ、映画界を応援するためにも自宅待機中、韓国・日本の映画をご覧になってみてはいかがでしょうか?

【参考資料】

『パラサイト 半地下の家族』公式サイト
Internet Movie Database
映画館入場券統合電算網(KOBIS)
日本映画産業統計┃一般社団法人日本映画製作者連盟
『パラサイト』後の韓国映画界を待つのは「繁栄」か「衰退」か┃FRIDAY ORIGINAL
李 鳳宇「韓国映画界における外部資金の導入について-映画ファンドの役割と資金提供方法-」┃文化庁主催 第3回コンテンツ流通促進シンポジウム 日本映画界は、ハリウッド映画並みの大作を作れるのか? -外部資金の活用を考える-
此花 わか「『パラサイト』が世界を制したメディア戦略と、日本映画界にないもの 韓国映画の方を日本映画より売りたい理由」┃FRaU
韓国の人口増加率 過去最低0.05%=高齢化加速┃聯合ニュース
「パラサイト」のポスターが日本版ではあんな感じに改変されたけど、逆に日本映画が韓国に行くとどんなポスターになる?┃togetter

宮田文机

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