現場所長「工期を優先し強行」 八郎山トンネル施工不良で淺川組が謝罪会見、和歌山

八郎山トンネルの施工不良について謝罪する淺川組の西口伸社長(右から2人目)ら=17日、和歌山市で

 和歌山県道長井古座線の八郎山トンネル(串本町―那智勝浦町、711メートル)で、ずさんな工事がされていた問題を巡り、工事を請け負った淺川組(和歌山市)が17日、記者会見を開いて謝罪した。現場所長が施工不良を認識しながら工期優先、赤字回避のために会社に相談せず強行し、数値を偽造したなどと経緯を説明した。

 トンネル工事は、淺川組と「堀組」(田辺市)の共同企業体(JV)が県から約20億4千万円で請け負った。完成後、照明灯を設置しようとした別業者の指摘で県が調べ、覆工コンクリート(内壁)のほとんどで薄かったり空洞があったりしたことが発覚。県は両社を、昨年7月下旬から6カ月の入札資格停止処分とした。

 県の調査ではトンネルを支える鋼材約700本のほとんどがずれて設置されていたことなども分かり、県は昨年12月、ほぼ全面的に工事をやり直す方針を決めた。全国的に見ても異例。工費は約20億円になるとみられ、JV代表の淺川組が全額を負担する形ですでに着工しているが、開通時期は当初予定の昨年12月から2年ほど遅れる見込みだ。同社は8月、会長や社長らの報酬を減額し、現場所長を降格させるなど8人を処分した。

 会社側が行った事情聴取に対し、現場所長は強行した動機について「手直しすれば工期に間に合わなくなる。赤字にしたくない。強度は保たれており安全性に問題はない」と説明。県発注工事の工期を延長する場合、県議会の承認が必要になることに精神的な圧力を感じていたという。

 さらに現場所長は経験豊富で「自分はトンネル工事の専門家で、本社に相談してもどうなるものでもない」と判断。他の社員は相談や内部通報しなかった理由を「作業所長の判断は絶対」「作業所長を越えて通報できない」「相談すれば、お前が何とかしろと叱責(しっせき)される」などと答えたという。

■組織風土に問題 会社側、改善誓う

 同社は、直接的には現場所長に責任がある一方、会社にも問題があるとし、法令順守意識や風通しの良い組織風土の醸成、現場に任せきりにせず「お山の大将」をつくらない取り組みなどを進めるとした。また新たに、施工中に品質が確保されているか第三者的にチェックする「品質検査員」を配置することも示した。

 西口伸社長は「多大なご迷惑とご心配をおかけしていることを、おわび申し上げる」と謝罪。池内茂雄会長は「一瞬のうちに信頼を喪失してしまった。全社一丸となって、一から各工事を丁寧に、誠意を持って施工していきたい」とした。

 同社が過去に手がけた県発注のトンネル工事については、現場所長は聞き取りに不正は一切ないと話しているというが、県と協議の上、早急に点検を進めたいとしている。

八郎山トンネルの覆工コンクリート取り壊し(2023年12月)=和歌山県提供

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