社説:米大統領選 内外の分断繕う論戦を

 11月5日投票の米大統領選に向け、候補者選びが始まった。世界が注視する長期戦の幕開けだ。

 野党共和党は6月まで、州ごとに予備選や党員集会を開き、大統領選候補を決める。指名争いの初戦となるアイオワ州党員集会では、トランプ前大統領(77)が圧勝した。事前の世論調査通りの勢いを示した形である。

 与党民主党の指名候補は有力なライバルがなく、事実上、再選を目指すバイデン大統領(81)に決まっているとみられる。

 高齢同士の再戦になる見通しが強まっており、全般的に論議は低調にとどまる。相変わらず「米国第一」を訴えるトランプ氏に引きずられ、すでに内向きの政争に陥っている面も大きい。

 民主主義と自由を掲げる大国として、国内を覆う亀裂を修復し、揺らぐ国際秩序を取り戻す論戦こそ求めたい。

 トランプ氏は前回大統領選を「不正選挙」と根拠なく主張し、敗北を認めない支持者らの議会襲撃を引き起こしたなどとして起訴されている。立候補資格があるのかを問う訴訟もあり、連邦最高裁の判断が注目される。

 今選挙への姿勢も独善性が際立つ。討論会をすべて欠席して論戦を拒み、事実を曲げて、憎悪と不安をあおる主張を続けている。フロリダ州のデサンティス知事やヘイリー元国連大使ら他候補はトランプ批判に切れを欠き、存在感を示せていない。

 民主党の危機感の薄さも気がかりだ。トランプ氏相手の方が結束しやすいとみているなら、楽観に過ぎよう。分断から融和への戦略も欠いたままではないか。

 民主、共和両党とも活発な党内議論が統治力を鍛え、米民主主義の土台になってきたはずだ。このまま本選挙に突き進むのは、危ういと言わざるを得ない。

 米国民の関心も物価高騰や生活苦、人工妊娠中絶の権利、銃暴力対策などに傾く。それは大事だが、とどまってはなるまい。

 ウクライナとパレスチナ自治区ガザでは連日、多くの市民の犠牲が続く。ロシア、イスラエル、中東の武装勢力、軍事拡大する中国や北朝鮮といった国々といかに向き合うか。地球環境保全や格差是正を含め、米大統領の見識と指導力が問われる難題が山積する。

 第2次大戦以降、国際社会の安定の恩恵を最も受け、発展してきたのが米国だろう。大統領を選ぶ歴史的な重みを、米有権者は自覚してもらいたい。

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