進撃の巨人やえんとつ町のプペルはなぜコンテンツを無料で公開したのか? 「フリーミアム」ビジネスモデルとともに解説!

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2019年9月上旬、マンガ『進撃の巨人』の最新刊を除く既刊28巻が無料公開されるというキャンペーンが展開され、話題を呼びました(※2019年10月15日現在キャンペーンは終了)。コンテンツの大部分もしくはすべてを無料で公開・配布するキャンペーンは、ビジネス書、小説、絵本などジャンルを問わず出版界で広がっています。

対価なしに商品を提供するというこの戦略、得をするのは誰なのでしょうか? 無料公開キャンペーンの効果と手法についてご紹介します!

書籍の無料公開、その効果は?

上記はすべてインターネット上で全文無料公開されている、もしくはされたことのある書籍です。共通しているのが多くの話題を集め売上を伸ばしたということ。『えんとつ町のプぺル』は累計40万部突破、『ルビンの壺が割れた』は刊行1カ月半で4万部に到達、『ビジネスモデル2.0図鑑』は発売2日で重版が決まったといいます。

無料公開が売上に貢献するカラクリにはどのようなものがあるのか、メリットとともに見ていきましょう。

メリット1:宣伝効果が大きい


商品を対価なしに提供するという販売戦略のインパクトは大きく、各メディアやSNSで取り上げられ“勝手に”宣伝してもらえることが期待されます。実際、その手法について取り上げたこの記事も書籍の宣伝に一役買っているわけです。

『進撃の巨人』のようにすでに知名度のあるシリーズ作品の場合、既存のファンが作品が無料になったことで人に「タダだから一度読んでみて!」と進めやすくなるのもポイントです。

メリット2:読者が安心して購入に踏み切れる


インターネット環境が当たり前になった現代は情報が供給過多となっています。それと反比例して時間の価値が高まっており、多くの人が“つまらない”コンテンツに自分の時間を使いたくないと考えています。

そこで書籍の内容を全文公開し、“これは自分の役に立つ”という安心を提供することでかえって購入につながりやすくなるのです。

メリット3:シリーズ・関連商品からの売上も見込まれる


© タイトル:ブラックジャックによろしく 著作者名: 佐藤秀峰 URL:

シリーズ作品や映画やグッズなど多媒体での商品展開がされている書籍の場合、無料公開キャンペーンによる宣伝効果でそれら関連商品の売上も大きく高まることが期待されます。

例えば、2012年に全巻無料公開・二次利用フリー化を行ったマンガ『ブラックジャックによろしく』の場合、続編や原画の売上が伸び、施策開始から4カ月半で電子書籍関連売上が1億円を突破したことが報告されています。

無料公開キャンペーンの背景にあるビジネスモデル「フリーミアム」

書籍の無料公開は「フリーミアム」の一環といえます。

フリーミアムとは基本的な商品やサービスを無償化し一部を有料で提供するビジネスモデルのこと。インターネットの発達によりWebサービスやコンテンツを顧客に届けるコストがほとんどゼロになったことで誕生しました。

フリーミアムは「フリー(無料)」と「プレミアム(割増料金)」を掛け合わせた造語で、ベンチャー投資家のフレッド・ウィルソン氏により提唱され、米Wired誌編集長を務めていたクリス・アンダーソン氏により広められました。クリス・アンダーソン氏は2009年にフリーミアムについてまとめた著書『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』を出版しその考えを体現するように2週間限定で無料で公開、ベストセラーにランクインさせた実績を持ちます。

ドキュメント管理システムEvernote、音楽ストリーミングサービスSpotify、レシピ共有サービスクックパッドなど私たちが普段利用するWebサービスにもフリーミアムに当てはまるものが多く存在します。

無料公開キャンペーン実践編、3つのポイント

「無料公開キャンペーンを実践してみたい!」と考えるようになった方もいるかもしれません。フリーミアムを実践する前に押さえておくべき3つのポイントをご紹介します。

1.商品が無料公開に適しているかを考える


基本的にフリーミアムはインターネットを経由して提供できる形のないものが適しています。食料品や電化製品、工業製品など“形のあるもの”は複製や輸送にコストがかかるためフリーミアム向きではありません。

フリーミアムの波はいずれ製造業にも波及するとの予測もありますが、現在はまだ“無形”かつ“複製が容易である”ものだけがフリーミアムに適しているといえるでしょう。

2.有料ユーザーを増やす戦略を立てる


フリーミアムのビジネスは5%の有料ユーザーが存在すれば成立するといわれています。これは逆にいえば5%は有料ユーザーを獲得する必要があるということです。そのために重要なのが“有料ユーザーと無料ユーザーの差別化”。

「機能や容量に差をつける、有料ユーザーに特別感を与える、無料ユーザーに制限をかけるなど差別化の手法はさまざまです。書籍の場合は“もの”としての所有感や購入者としての特別感が購入の大きな引き金となるでしょう。また期間限定公開や一部だけの公開で制限をかける手法も一般的です。

NY TIMES誌は自社のWeb記事を読める本数の制限で有料ユーザーと無料ユーザーを差別化していました。有料ユーザーは無制限、無料ユーザーは20本までです。しかし売上が伸び悩んだことで、20本から10本に無料ユーザーの制限を強化。結果、成果を得られるようになったといいます。このように有料ユーザーと無料ユーザーの差異の設定には繊細な調整が求められます。

3.無料公開する媒体を吟味する


書籍の場合は、無料公開する媒体も重要になるでしょう。一般的な無料公開向けの媒体としては以下のような例が挙げられます。

  • 特設サイト
  • 個人ブログやホームページ、note
  • cakes・Kindle Unlimitedなどの登録制読み放題サービス
  • 出版社や企業の運営するメディアサイト

有名シリーズや人気著者の書籍の場合は特設サイトや個人ブログ、ホームページで公開することでファンに早く伝わるとともにブランド力が高まり結果につながりやすくなるかもしれません。しかし、知名度の低い書籍の場合は一定数の読者が確保されている読み放題サービスやメディアとコラボして読んでもらえる確率を高めたほうが良いでしょう。

このように、書籍・著者の知名度一つとっても取るべき戦略は異なります

終わりに

『進撃の巨人』の無料公開が話題を呼んだというトピックを皮切りに、無料公開キャンペーンのカラクリとその背景にあるフリーミアム戦略についてご紹介しました。

今後さらなる普及が予想されるフリーミアムの考え方。出版業界の方もそうでない方も自社にも生かすことができないか、ぜひ考えてみてください。

【参考URL】

筑紫 祐二「発売前「ネット全文公開」した本が売れたワケ」┃東洋経済ONLINE
『ルビンの壺が割れた』 宿野かほる著 全文無料公開、奇策が奏功┃日本経済新聞
【メガヒット】『えんとつ町のプペル』が40万部突破!┃西野亮廣ブログ
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宮田文机

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