九段理江が芥川賞、河﨑秋子と万城目学が直木賞を受賞! NEWS・加藤シゲアキは次作に期待

第170回芥川龍之介賞・直木三十五賞の選考会が開催され、芥川賞に九段理江氏の「東京都同情塔」(新潮社)、直木賞に河﨑秋子氏の「ともぐい」(新潮社)と万城目学氏の「八月の御所グラウンド」(文藝春秋)の2作品が選ばれた。

1990年、埼玉県生まれの九段氏は、2021年に「悪い音楽」で第126回文學界新人賞を受賞し、デビューした。受賞会見に登場すると「書き続けることは難しいので、いつも応援してくれる出版社の方や家族、友人、読んでくださる皆さまに『ありがとうございます』と伝えたいです」と感謝を述べた。

日本人の欺瞞(ぎまん)をユーモラスに描いた受賞作「東京都同情塔」は、生成AIを駆使して書いた小説ということで、記者から“これからのAI時代に小説を書くということ”について問われると、「今回は生成AIを駆使して書いたもので、これからもAIを利用しながら自分の創造性を発揮できるように、うまく付き合っていきたい」とコメント。さらに、「私生活では、誰にも言えない悩みをAIに相談することもあり、自分が使用する中で感じたことを主人公のセリフに反映している部分もあります」と自身の生活にAIを取り入れていることを明かした。

そして、「この作品は、言葉で何かを解決しようとか、言葉で対話をすることを諦めたくない方のために書いた作品です。言葉で解決できないことは、何によっても解決できないと考えています。そういった気持ちがこの小説を書かせてくれましたし、そう感じていらっしゃる方にも届いたらいいなと思っておりますので、 今回の受賞をとてもうれしく思っております。本当にありがとうございました」と締めくくった。

直木賞を受賞した河﨑氏の「ともぐい」は、明治後期の道東を舞台に、クマとの死闘を繰り広げる猟師の生きざまを描いた作品。河﨑氏は、ニュージーランドで綿羊飼育を学び、帰国後に酪農を営む実家で従業員と羊飼いをしながら小説執筆を開始した経歴をもつ。

「非常にレベルが高い選考会となり、時間がかかった」という選考委員・林真理子氏による講評では、「河﨑さんの作品は、すごい迫力と文章力に圧倒されたという意見で一致しました」と明かした。さらに、委員の中には、主人公がクマであるという解釈をする者もいるなど、多様な解釈ができる作品であることを評価した。

一方、「鴨川ホルモー」「鹿男あをによし」などで知られる万城目氏は、京都大学出身で今回が6度目の直木賞候補入りだった。「八月の御所グラウンド」は、じんわり優しく少し切ない、青春のいとしくほろ苦い味わいをつづる感動作2編を収録している。作品に対して「奇をてらっていない文章で、日常の中に非日常が入り込んでくる絶妙さが素晴らしい」とコメントされた。

会見に登壇した河﨑氏は「喜びの渦に巻き込まれて、まだちょっと地に足がついていないような状態です」と喜びをあらわにしつつ、「北海道の端で育ったので、子どもの頃から本を読むことで世の中を知るという経験してきました。自分が子どもの頃に感銘を受けたように、何かを届けられたら」と今後への意欲を見せた。

北海道・十勝在住ということで「今日は、手を動かしていないと落ち着かず、朝一番にスコーンを焼いてから昼の飛行機で東京入りした」という河﨑氏は、記者から上京への思いを問われると「今後も居を移す予定はなく、まだまだ北海道で描きたいものがたくさんある」と語った。

最後に、万城目氏は「緊張せず、他人事のように暮らしていたので連絡が来て、本当にびっくりしました」と率直な心境を伝え、初の候補入りから16年半たってようやく賞を取れたことに関して、「直木賞は、めったに隣に来ないし、来ても目を合わせてくれない存在だったが、やっと袖が触れ合ったなという感じです」と表現した。

会見をニコニコ動画での中継で見ている視聴者からの質問として「万城目さんは霊感が強い方ですか? 本作のように、もし異空間が発生したらどうしますか。主人公のように気付かないふりをしますか?」と聞かれると、「びっくりして、言えないと思います」と回答し、笑いを誘った。

さらに、発表までの待ち時間の過ごしかたを尋ねられると「『どうせ駄目です』といじけていたら、森見登美彦さんと劇作家の上田誠さんに待ち会をしようと押し切られ、綿谷りささんも誘って昼間から2時間ぐらいかけて脱出ゲームをして、さらに喫茶店で(カードゲームの)UNOをしてぐったりと疲れてしまいました。一緒に待ってくださった3人には本当に感謝です」と、京都にゆかりのあるメンバーと過ごしていたことを明かした。

なお、候補作に入っていたNEWS・加藤シゲアキの「なれのはて」に関して、林氏からは「前作から非常に成長見られた一方、登場人物が多く、詰め込み過ぎだったのではないかという意見が出た。次作を楽しみにしたい」と期待の言葉が寄せられた。

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