インパクト投資って何?お金もうけと社会課題解決の両立目指す ESGとの違いは?NPO出身の上場企業も登場

雨風太陽の高橋博之社長=2023年12月、東京都渋谷区

 2024年1月から、年間投資額の上限が120万円から360万円に拡大した新たな少額投資非課税制度(NISA)が始まり、投資への関心が高まっている。そんな中、「インパクト投資」という言葉が広がり始めた。「えっ、衝撃的な投資?」と思うかもしれないが、一般的には「経済的な見返りだけでなく、社会や環境により良い影響(インパクト)をもたらす投資」という意味。「お金もうけと社会課題や環境問題の解決を両立させる」というが、具体的にどんな投資を指すのだろうか。最前線の動きを追った。(共同通信=岡本拓也)

 ▽岩手県発のスタートアップ「雨風太陽」
 昨年12月18日、インパクト投資の関係者の間で注目されるスタートアップが東京証券取引所のグロース市場に上場した。その名は「雨風太陽」。本社は岩手県花巻市に置く。農家や漁師がスマートフォンアプリで消費者に農水産物を直接販売し、商品の感想などを交換できる「ポケットマルシェ」や、地方への親子留学サービスを運営する。

 雨風太陽は2013年、民間非営利団体(NPO)法人「東北開墾」として発足した。岩手県議を務めた高橋博之氏が代表理事に就き、東日本大震災で被災した東北の農家や漁師と、都市住民をつなげる食材付き情報誌「東北食べる通信」を創刊した。その後、このスタイルで全国のご当地野菜や魚介類を届ける「日本食べる通信リーグ」を展開し、2016年にポケットマルシェのサービスを始めた。

 ▽NPOから上場、日本で初めての「インパクトIPO」
 雨風太陽によると、NPOとして生まれた組織が上場するのは日本で初めて。しかも「日本で初めてのインパクトIPOだ」と強調する。

 インパクトIPOとは、明確な定義はないが、社会的課題や環境問題の解決を事業目的とする企業の新規上場を意味する。

 上場企業は通常、投資家向けに3カ月ごとに売上高や営業利益などの業績を発表するが、「都市と地方をかきまぜる」というスローガンの下、地方活性化を経営方針に掲げる雨風太陽の発表内容はユニークだ。

 (1)ポケットマルシェなどでの流通総額(2)生産者と消費者のメッセージ交換などのコミュニケーション数(3)都市住民が生産現場を訪問して現地で過ごした日数―を「インパクト指標」、つまり社会や環境に与えた好影響として公表し、投資家に評価してもらうという。インパクト投資では企業は意図したインパクトを創出できたか測定すること(インパクト測定・マネジメント、IMM)が求められるからだ。

東京証券取引所に上場し、記念写真に納まる雨風太陽の役員ら=2023年12月、東京都中央区

 ▽「もうからないからNPO」は終わりにしないといけない
 上場した理由について、高橋社長は「全国各地に仲間を増やす最速の道だから。7年で生産者7900人を都市に住む消費者とつなげたが、これでも(ペースが)遅かった」と説明する。「事業を持続するためには利益も得ないといけない。経済性だけでは存在意義がなくなる。両方(経済性と社会性)の期待に自らをさらすことが大事だ」と話す。

 若い起業家からは「勇気をもらった」「続きたい」との連絡があった。高橋社長は「良いことはもうからないからボランティアだ、NPOだ、というのは終わりにしないといけない」と強調。「もうかるなら俺もやる、という人はいっぱいいると思う。そうなれば社会は変わるし、良くなる」。

 今回、株の売り出しで得た資金約4億円はITエンジニアの採用など事業拡大に使うという。

東京証券取引所に上場し、報道陣の取材に応じる雨風太陽の高橋博之社長(右)=2023年12月、東京都中央区

 ▽ESG投資とは何が違うのか?
 環境問題や倫理面を重視する経営や投資に関する指標はこれまでいろいろあった。最近では代表的な例として、環境・社会・企業統治を意味する「ESG」という言葉が投資の世界では知られている。欧米の投資ファンドはESG投資の一環で、気候変動対策として二酸化炭素(CO2)排出の削減や、生産現場から児童労働や強制労働を排除するよう企業に求める動きを強めた。では、インパクト投資とは一体何が違うのか。

 インパクト投資の普及を図る社会変革推進財団(SIIF)の工藤七子常務理事は「一部重なるところがあるが、ESGはリターン(投資収益)の改善の手段。インパクト投資は社会・環境課題もリターンと同様に追求する」と説明する。つまり、投資に対して収益と並んで、社会的課題や環境問題を解決しようとする意図を持ち、その効果を検証していく姿勢を打ち出すことだという。

 SIIFによると、インパクト投資は2007年に米ロックフェラー財団が提唱した。工藤さんは、その翌年にリーマン・ブラザーズの経営破綻をきっかけに起きた世界同時不況が、投資の世界に大きな影響を与えたと指摘する。巨大な投資銀行の失敗が世界経済にもたらした混乱に対して「社会にポジティブな金融をやっていこうという倫理的な揺り戻しがグローバルに大きくなった」という。

社会変革推進材団の工藤七子氏

 ▽「骨太の方針」にも記載されたが、認知度はこれから
 日本では金融庁が2020年にインパクト投資に関する勉強会を関係者と始め、岸田政権も政府の経済財政運営の指針「骨太の方針」でインパクト投資の普及に向けた基本的支援を2023年度内に策定すると盛り込んだ。

 ただ、個別の動きはこれからだ。2022年度の日本でのインパクト投資残高は5兆8千億円。世界の1兆1640億ドル(約170兆円、2022年)と比べると微々たる金額だ。一般社会の認知度も課題で、SIIFの調査ではインパクト投資の意味を知っている人は7%にとどまった。

経済財政諮問会議の会合であいさつする岸田首相(右から2人目)=2023年6月、首相官邸

 工藤さんは「一般の認知度はこれからだが、ミレニアル世代の関心は高い。ネット証券でインパクト投資をテーマにした投資信託などが出てくれば、伸びてくるのでは」と期待する。

 雨風太陽は上場初日、1044円の公募価格より26%高い1320円で初値が付いた。紋付きはかま姿で東証でのセレモニーに臨んだ高橋社長は「経済性と社会性の両立はできるという先駆けになりたい。地方から日本の閉塞を打破する会社になりたい」と力を込めた。株価は堅調に推移している。

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