誇り高い戦士たちは戦後、国造りを怠り目の前の大金に手を付けた 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(2)

アフガニスタン南部カンダハルでタリバンと戦う国軍兵士ら=2021年7月16日(共同)

 アフガニスタンの民主化が失敗した大きな要因は汚職だ。巨額の国際支援が闇に消え、政治不信を招いた。アメリカのアフガン復興担当特別監察官事務所は2001~19年の支援総額のうち、調査対象の30%が「無駄遣いと不正」で失われたと指摘している。長い内戦を戦い抜きイスラム主義組織タリバンを追放したアフガン人は、私欲追求に専念し国造りを怠った。そしてタリバン復権を許した。民主化失敗は国際社会だけの責任ではない。アフガンの誇り高い戦士たちは、なぜ汚職に走ったのか。(敬称略、共同通信=新里環、木村一浩)

誰もアフガンのことを考えず、アメリカ製の民主主義を押しつけた 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(1)

 ▽予算の半分以上は汚職で消えた

 「未来は明るい。日本メーカーの工場と高層ビルが立ち並び繁栄した国になる」。民主化プロセスが本格化した2003年にそう確信していた北部同盟の元兵士シャヒド(53)=仮名=は、民主政府の国防省で調達と監査部門の幹部を長く務めた。国際社会から流れ込んでくる物資と巨額の支援金で国防予算は潤沢だった。

アフガニスタンの首都カブールで取材に応じるシャヒド(仮名)=2023年11月16日(共同)

 だが、国造りが本格化するのに合わせて汚職が目立ち始めた。軍では兵器から食材まで、高級品の購入予算を請求して安物を仕入れ差額を流用する手口が横行した。2000年代後半、南部の軍有地でホテルや豪邸の不正開発が進んでいると知り現地調査に入ると「金ならやる。調べから手を引け」と、大統領カルザイの親族に脅された。国会議員の不正開発を調査したときも「文句を言うな。おまえも金を受け取れ」と迫られた。北部の空港建設現場を確認に行くと、予算はすべて消費された後なのに半分も完成していなかった。
 部隊によっては、給与支払い対象として登録されている兵士の半分近くが、実際には存在しない「幽霊隊員」というケースもあった。受け取る者のいない給与は部隊の幹部らが着服していた。
 「大統領から末端の兵士まで汚職まみれだ」とシャヒド。「予算の半分以上が汚職で消えた」

 ▽民主主義は国を破壊するのか

 日本の支援機関で15年以上働き、現在は関東地方で難民として暮らすハシム(48)=仮名=は「タリバン追放後の5年ほどは、治安改善と民主主義への希望が大きかった」と振り返る。タリバンが去り、4人の娘たちは好きな学校を選び、自由に街を歩けるようになった。だが2006年ごろから治安が悪化して犯罪も増え、汚職が深刻化した。「母の年金を受給するために年金額の6割を賄賂に使った。賄賂を払わなければ何も動かないからだ」という。
 公務員の給料は低いままで失業率も高止まり。治安機関の能力は向上せず、タリバン復権前年の2020年には、強盗や誘拐が怖くて夜間に外出できなくなった。

アフガニスタンの首都カブール郊外の訓練施設で行われた国軍第6大隊卒業式=2003年1月2日撮影(共同)

 ハシムは日本が支援する識字教育プロジェクトを進めるために保守的な農村地帯を回った。事業の目的や住民への恩恵を説明しても、地元の当局が機能せず事業が進展しないため、地域の支持を得られなかった。
 「政府は汚職まみれで成果を上げられない。これは本当の民主主義ではない。国を破壊する何かだ」。ハシムはそう感じるようになった。「私も家族も友人たちも民主主義を歓迎した。だがそれはアフガンでは結果を出せなかった」
 難民となったハシムは日本で生きていくために仕事を探している。将来への展望はなかなか開けない。それでも「私はアフガンに絶望した。帰国するつもりはない」と断言する。

2003年7月、国際NGOの事業としてカブールの道路舗装をする女性ら。この時期から支援金の着服疑惑が指摘されていた

 ▽アフガニスタンは誰の国か

 汚職に手を染めたのは「家族のため、民族のためにタリバンと戦った」人たちだ。元国防省幹部のシャヒドは「私たちは優秀な戦士だったが、戦後『国家のために』という使命感と愛国心を持てなかった」。そして汚職が横行した。多くの元戦士たちが「戦った自分たちの正当な取り分だ」と考えて目の前を流れる多額の公金を着服した。

アフガニスタン・カンダハルで、タリバンと戦って死亡した警察官のひつぎ=2021年7月17日(共同)

 シャヒドとハシムは異口同音に、不正が横行した理由をこう説明する。「アフガンを運営したのはアメリカと、アメリカが連れてきた名前も知らない政治家たち。私たちとは断絶しており、自分たちの代表とは思えなかった。ここが自分の国だとは思えなくなった」。パシュトゥン人、タジク人、ウズベク人など民族の枠を超えた「アフガニスタン人」という国民意識は育たなかった。

アフガニスタンの首都カブールで取材に応じるシャヒド(仮名)=2023年11月16日(共同)

 シャヒドは、今のアフガンに必要なのは民主主義ではなく「多民族をまとめ上げる強い指導者、責任ある独裁者」だと考えている。「息子の世代で実現すれば良い。私は疲れた。外国に逃げる」
 インタビュー後、一緒に食事をしているとシャヒドに質問された。「あなた(木村)が遠いアフガニスタンまで来て取材をしているのは、それが日本のためになるからですか? 国家のために頑張っているのですか?」
 答えに詰まった。私には日本という国家のために取材をしている意識はない。少し考えて「日本の税金を注ぎ込んだアフガン民主化が失敗した理由を伝えることは、公共の利益になると思います」と答えた。シャヒドにはうまく伝わらなかったかもしれない。私にとって「公共」とは「みんな」のことだ。この場合「日本」ともほぼ同義だろう。だがシャヒドにとって「公共」とは「タジク人」や「反タリバンの北部同盟」であり、必ずしも「アフガニスタン」とは同義ではないのだ。

2023年11月20日、アフガニスタン南部カンダハルでインタビューに応じるタリバン副報道官サマンガニ(共同)

 シャヒドと別れた後に、南部カンダハルに向かいタリバン暫定政権の副報道官サマンガニに会った。サマンガニは「アメリカがもたらした『民主主義』はショーだった。多額の国際支援金が入ってきたが、実際に受け取ったのは特定の人物たちだけだ」と指摘した。「民主主義は言葉だけで実際にはアメリカが国を支配していた。アフガン人はそれを嫌い、私たちを支持した」。だからタリバンは復権した。サマンガニはそう主張した。(続く)

アメリカはタリバン復権を後押しし、アフガニスタンの民意もそれを支えた 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(3)

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