国内唯一「スカイレール」廃止へ トラブル越え広島で開業25年 情熱かけた神鋼技術者「寂しい」

神戸製鋼所が開発や建設に関わったスカイレール=広島市安芸区(同社提供)

 広島市東部の住宅団地に、国内で唯一の乗り物という「スカイレール」が走っている。モノレールとロープウエーの技術を組み合わせた無人運転の新交通システムだが、今年4月末で運行を終えることになった。開発や建設には神戸製鋼所(神戸市中央区)が関わった。当時担当した同社の技術者らは口々に「寂しい」と語り、四半世紀の歴史に幕を閉じる鉄路に思いをはせる。(大島光貴)

 スカイレールは1998年に開業した。同市安芸区のJR山陽線瀬野駅と丘陵地にある「スカイレールタウンみどり坂」を結び、全長1.3キロ、高低差約160メートルを5分で走る。車両はゴンドラ型で定員は25人。

 ロープウエーと同じくワイヤロープを握って動き、モノレールのように、車体の上に結合された台車のウレタンゴム製車輪が軌道桁に沿って走る。急勾配の運行に強いほか、駅ではロープを離し、リニアモーターで加減速するのも特長だ。

 新交通システムに実績があり、神戸のポートライナーや東京のゆりかもめなどを手がけた神鋼と、軌道にぶら下がる懸垂型のモノレール車両を製造していた三菱重工業が共同開発した。

 神鋼は加減速や機械ブレーキ装置、追突を防止する保安装置、軌道桁・支柱などを担当。ロープ駆動装置や車両を三菱重工が担った。実験線での試験を含め、91年から2年ほどで開発を終え、技術的な基準も整えた。

 96年に着工したが、97年に作業用ゴンドラが暴走し、2人が死亡、7人が負傷する事故が発生。開業が当初予定より4カ月遅れた。

 さらに、開業半年ほど前にも、トラブルが相次いだ。神鋼でプロジェクトの技術統括を務めた小屋和弥さん(62)は「騒音の問題に悩まされた」と振り返る。試運転中、ロープを上下左右に曲げるのに必要な桁上の滑車にロープが接する際、「ブーン」といううなり音が出たという。結局、桁の空洞部分に発泡ウレタンを詰めて桁の振動を止めることで、騒音を抑えた。

 雨天を想定した技術認定試験でも、最高速度で走る車両を止める際、わずかに指定位置で止まれないことがあった。その際は自重を利用し摩擦で止めるブレーキに加え、上から物理的に押さえつける機構を設けることで解決にこぎつけた。

 担当者だった大杉仁さん(59)は「生みの苦しみもあり、開業した際はすごく喜んだ。地元の方が親子で乗ったり、通学で使ったりしているのを見ると、達成感があった」と懐かしむ。

 その後、全国から問い合わせがあり、小屋さんも長崎や福島県、大阪府などの50を超える自治体などに説明したという。ただ、他の地域に広まることはなかった。新交通システムやモノレールの約3分の1で済む建設費が売りだが、「少人数の乗り物にしては高かった」と考察する。

 約25年間、地域の足として親しまれた広島のスカイレールも、計画時の想定ほど収入が得られなかった上、特殊な仕組みの維持費などがかさみ、赤字が続いた。2022年、運行会社のスカイレールサービスが運行終了を発表。今春には、その役割を電気自動車(EV)バスに受け継ぐ。

 運行会社に10%を出資し、開業後も保守点検の作業で関わり続けてきた神鋼。小屋さんは「残念だが、懐事情も知っており、仕方がないのかな」と語る。運行会社の取締役を務める大杉さんも「開業から25年間、安全・安定運行を継続し、努力してきたメンバーたちの方が寂しいだろう」と現場の仲間をねぎらった。

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