乱暴された体、首にはタイツ… 同僚女性を殺害した男 当初は「記憶がなかった」一転“わいせつ目的の有無”を問われ「記憶が戻った」

「5年間、裁判での『嘘』に苦しんだ」
「障害があれば何をやっても許されるのか」

娘を奪われた母親とその親族は、2度目となる松山地裁の法廷で、やり切れない思いを訴えた。地裁での審理を経て控訴審、更に上告、そして棄却、再び控訴。事件の発生から既に長い年月が経ち、裁判に翻ろうされていた。

判決で認定された事実を元に、事件と裁判を振り返る。

事件発生は2018年2月

今から6年前、2018年2月に事件は起きた。

2月13日、愛媛県今治市の会社敷地内から、運送会社に勤めていた当時30歳の女性の遺体が見つかった。乱暴された痕跡が残る体には、首を手で絞められた跡、さらに被害者が着用していたタイツが首に巻き付けられていた。

翌14日、同僚の男が殺人容疑で逮捕された。西原崇被告、当時34歳。犯行当日の夜、西原被告と被害者の女性は2人きりで仕事をしていた。被害者とは10日前に知り合ったばかりだったが、西原被告は一方的に好意を寄せていた。

職場での様子を知る関係者は、西原被告が被害者の女性と2人きりで仕事することに「異様に興奮していた」と振り返る。

「犯行当時の精神年齢は9歳」無罪主張

2018年3月7日、松山地検は殺人と強制わいせつ致死の罪で西原被告を起訴。10月16日に松山地裁で始まった裁判員裁判の初公判で、西原被告は起訴内容を否認した。

弁護側は、殺意を否定した上で「西原被告には軽度の知的障害があり、犯行当時の精神年齢は9歳程度だった」「ストレスなどで行動をコントロールできず、犯行当時の記憶も失っていた」「精神障害の影響で心身喪失状態だった」として、無罪を主張。仕事上での作業の進め方をめぐり女性に怒りを覚えた末の、無自覚な犯行だったと述べた。

ドラレコのSDカード抜き取り「責任能力ある」

一方の検察側は、犯行現場に止められていたトラックのドライブレコーダーからSDカードを抜き取るなど、西原被告が証拠隠滅を図っていたことなどを挙げ、知的障害の程度は軽く、刑事責任能力はあると述べ、無期懲役を求刑した。

「強制わいせつ致死」退け懲役19年

2018年11月13日に行われた判決公判で、松山地裁の末弘陽一裁判長(当時)は、突発的な殺意による犯行とした上で「殺人罪」と「強制わいせつ罪」を認定。しかし「強制わいせつ致死」の成立については「合理的な疑いが残る」として退け、西原被告に懲役19年の判決を言い渡した。

11月27日までに、弁護側と検察側の双方が控訴。審理の場は高裁へと移った。

高裁が「裁判のやり直し」命じる

2019年12月24日、高松高裁は「明らかな事実誤認がある」として一審判決を破棄、審理の「やり直し」を松山地裁に命じた。差し戻しの理由の中で、高松高裁の杉山慎治裁判長は「殺人罪と強制わいせつ致死罪の成立を前提にするのが相当」と述べた。

差し戻しを命じる高裁判断を受け、西原被告の弁護側は最高裁に上告したが、棄却された。

4年越し、2度目の地裁での審理

2022年12月5日、再び松山地裁で始まった「やり直し」の裁判員裁判。最初の裁判から既に4年が経過していた。

争点を「わいせつ行為の有無」「最初に首を絞めた時点での性的目的の有無」に絞り込んで開かれた差し戻し審の初公判で、弁護側は「わいせつの意図はなかった」として起訴内容を一部否認した。

2023年3月3日。新型コロナの感染拡大などを受け、審理はさらにずれ込んでいた。この日の裁判では、朝から証人尋問が行われ、被害者参加制度により参加した被害者の母親や親族も被告人に対して意見陳述を行った。

松山地裁41号法廷には、証言者のプライバシーを保護する目的で、目隠しのパーティションやアコーディオンカーテンがすき間なく並べられていて、傍聴席の最前列に座った記者の目の前に、大きな壁のように立ちはだかる。そのすき間をぬうようにして、慌ただしく裁判所職員が動き回る。ほどなくして、静まりを取り戻した法廷内に、すすり泣いているのだろうか、パーティションに取り囲まれた証言台に立つ女性の存在に気付く。西原被告の母親だ。

西原被告の母親が語った言葉

母親は、事件当時に西原被告が両親と3人で暮らしていたこと、元来、人と話すことが苦手でコミュニケーションがうまくいかないことが多かったこと、仲の良い友人はいなかったことなど、西原被告の人間関係を問う弁護士に答えた。

性格について聞かれると、注意をした際に急に興奮することがあり、特に女性のかん高い声や怒った声に反応することが多く、自身も尻を「けつられた(=けられた)」ことがあったと証言。10年ほど前には、西原被告から受けた暴力が原因で病院を受診したことがあったと振り返る。

被害者への弁償について問われる。少し落ち着きを取り戻していた西原被告の母親のおえつが、再び高まる。用意した弁償金は300万円という。「はした金かもしれないが、遺族に対して精一杯かき集めた」と声を絞り出す。その上で「被害者の家族に申し訳ない、したことを一生償って欲しい」と西原被告への思いを述べた。

続いて検察官から、なぜこれまでの裁判の傍聴をしなかったのか問われると「申し訳なくて、見ていられなかった」と回答。夫は過去に傍聴をしていたものの、辛さに耐えられなくなり、裁判の途中で退席したことなどを挙げた。

西原被告は、3人の刑務官に取り囲まれて座り、うつむき気味の姿勢で、自身の母親の証言を聞いていた。

「中学のころから友人はいない」

自閉症傾向など、軽度の障害がある西原被告。14歳になると、障害者の自立支援などを行う福祉施設に入所した。共働きの両親は、1日中面倒を見ることができなかったと、その理由を説明する。

差し戻し前の審理内容を把握するため、過去の裁判で行われた被告人質問の録音が再生される。スピーカーから、証言する西原被告の声が流れ出す。

「小学生のころの記憶はない」
「中学生のころ、学校に友人はおらず、弟とは週に2、3回遊んでいた」

人と話すことが得意ではなく、また人に話したいと思うこともなかったと証言する西原被告。中学時代には、テレビゲームやサイクリングに興味を示したと話す。一方で、この頃、線路への置石などの問題行為もあったという。

その後の5年間にわたる障害者福祉施設での生活の中でも、話すことのできる友人はできなかったと振り返る。この施設からは、脱走して退所した。

社会人になってからは、職を転々としてきたと話す。「怒るとセーブが効かなくなる性格」が災いして、人間関係のトラブルが絶えなかった。友人ができることはなく、女性との交際経験もない。

審理は進み、事件に直接関連する質問が始まった。西原被告は、被害者の女性の首を絞めたきっかけについて問われると「覚えていない、大変申し訳ないことをしたと思っている」と答えた。

「なぜ人を殺してはいけないと思う?」

「なぜ人を殺してはいけないと思う?」
裁判官の問い掛けに、長い沈黙を経て「法律で決まっているから」と西原被告。

「では、人が亡くなったらどうなると思う?」
再び沈黙ののち「分かりやすくお願いします」と回答。やり取りは続く。

「(被害者が)将来しようと思っていたことはどうなる?周りの人はどう思う?」
「出来なくなる、悲しい気持ちになると思う」

西原被告が持つ「自覚」や「罪の意識」を推し量るかのような質問が重ねられていく。

「家族が用意した弁償金の300万円についてどう思う?」
「申し訳ないと思う」

「見捨てずに出所を待つと話す母親をどう思う?」
「(沈黙)」

「被害者の母親が『もう娘と旅行できない』『写真を撮ることができない』と証言したことについてどう思う?」
「大変悪いことをしてしまった」

「被害者の母親が、被害者の写真を見ていると、楽しい思い出の写真なのに涙が出てくるというのはなぜだと思う?」
「(沈黙)」

「反省するというのはどういう意味だろう?」
「――難しい」

やり場のない悲痛な思い

午後、被害者参加制度により参加している被害者の母親が意見を述べた。

「(差し戻し前の裁判の)一審判決、懲役19年に絶望した。たったの19年なのかと、地獄に突き落とされた気分になった。強い怒りと不信感がつのった」

娘を奪われた悲しみに打ちひしがれた母親の悲痛な声が法廷に響く。西原被告に対する、そして裁判所の判断に対する、やり場のない思いがあふれ出した。

「娘の幸せが私の幸せだった。一緒に旅行に行き、一緒に写真を撮りたかった」

被害者の母親の意見陳述は、事件当日の詳細な状況に迫る。

「当日の朝、娘に『お仕事頑張ってね』とLINEをしたところ、仕事が嫌だという気持ちを表現するかのような、不機嫌そうな表情のウサギのスタンプが返ってきた」
「今となって思うと、仕事に嫌なことがあるという意思表示だったのだろう」
「西原被告には、これまでに何度も女性の首を絞めるなどトラブルがあった」
「免許停止の時期が間近に迫っていたトラック運転手の西原被告は、娘と2人きりになれるチャンスをうかがっていた」

深い悲しみの中にあってなお、淀みのない声で意見を読み上げていく。

「娘は酷い殺され方をした。今治署に安置されていた、最後の姿が目に焼き付いている」

意見は、裁判に臨む西原被告の態度にも向けられる。

「控訴審に一度も出廷しなかったのはなぜか。理由が分からない、本当に無責任だ」
「今年1月になって、初めて反省文を受け取った」
「事件からの5年間、裁判での『嘘』に苦しんだ。奈落の底にいると感じた」

一転「戻った記憶」

被害者の母親が非難した、裁判での「嘘」。それは、差し戻し裁判で変遷した、犯行の動機に関する西原被告の供述への指摘だった。5年前に行われた最初の裁判で「犯行当時の記憶が無い」と証言していた西原被告は、差し戻し裁判で一転「記憶が戻った」とした上で「被害女性との仕事上のトラブルに腹を立てたことが犯行に及んだ理由」と述べ、性的な目的については否定していた。

「娘との間に生まれた仕事上のイライラが原因だったと証言している。トラブルがあったとすることで、わいせつ目的だったことを隠している」
「西原被告を殺して刑務所に入っても構わない。包丁で刺して殺してやる。娘を返せ」
「命の償いは命で、死刑にして欲しい」

やり切れない思いが込められた被害者の母親の意見陳述を、西原被告は、身じろぎすることなく、視線を足元に落として聞き入っていた。

「明るく、自慢の妻だった」

続いて、被害者の女性の夫が意見を述べた。

「西原被告はこれまでに、複数の女性に対して脅迫文を送ったり、首を絞めるなどの暴行を行っていた。段々とエスカレートして、今回の犯行に繋がった」
「正しい量刑を望んでいるが、事件に向き合うことが辛い」

夫もまた、控訴審に出席しなかった西原被告の態度に触れた。

「絶対に更生しないと思った」
「突然に記憶がよみがえったなどと話した。殺意がわく。今すぐにでも殺してやりたい」

静かな口調で、しかし収めようのない怒りの感情を表した。

「西原被告が示した障害年金で被害弁償について、ふざけるなと思った。人の命を何だと思っているのか。罪を認めて欲しい」
「たった懲役19年というのは受け入れられない。わいせつ目的が無かったというのは信じられない」

その上で、夫もまた、被害者の母親と同様に極刑を望む意見を述べた。

「死刑以外にはあり得ないと思う」

続いて、被害者のきょうだいも意見を述べた。

「軽度の知的障害を理由にしている」
「障害があるから、その特徴を逆手にとって悪用している。障害があっても社会生活をしている人は大勢いる。障害があれば何をやっても許されるのか」

収めようのない心痛が、痛烈な非難の言葉となって法廷内に響いた。

殺人と強制わいせつ致死「成立する」

続いて行われる、検察官による論告求刑。この裁判では、西原被告が被害者に対して、首をタイツで強く締め付ける暴行行為を行ったか▽わいせつな行為を行ったか▽強制わいせつの故意があったか――の3点が争点となると説明。

検察官は、被害者の遺体を調べた医師の証言を元に「被害者が死んだと思い、運搬する目的で首にタイツを巻いて引っ張った」とする西原被告の証言は「全く信用できない」と一蹴。さらに、検出されたDNA型などから、わいせつな行為があったと主張。「心臓マッサージをした際に、指をなめた」とする西原被告の証言も否定した。

また「被害者とのやり取りからイライラを募らせて暴行に及んだ」とする動機についても「好意を抱いていた被害者に対して、死亡させる危険性のある暴行に及ぶというのは飛躍であり不自然で信用できない」と指摘。「当初からわいせつ目的があり、被害者の抵抗を排除するために、両手で首を絞め付ける暴行を加えた」と主張した。

タイツで首を絞め付けたのは、面識のある被害者へのわいせつな行為を隠すための「口封じ」だったとして、被告には殺人と強制わいせつ致死が成立すると締めくくった。その上で、西原被告に無期懲役を求刑した。

弁護側は「懲役15~16年程度の判決が相応」

一方の弁護側。最終弁論で、犯行について「仕事上の不満が募ったことによる突発的なもので、計画性が無かった」とあらためて主張。暴行の内容が酷く、被害者が死亡してもおかしくない内容だったとして、殺人についての争いは無いとした上で「わいせつの意図は無かった」と述べ、強制わいせつ致死の成立については否定した。

その上で、記憶を取り戻したと証言する西原被告が「思い出したことを反省している」ことや「軽度の知的障害を抱え、自閉症傾向があり、感情の制御が難しい」といった事情、さらには西原被告が障害基礎年金から弁償金を支払おうとしていることなど、酌むべき事情を挙げ「懲役15~16年程度の判決が相応」と述べた。

「楽しい日々をできなくした」

結審を前に、迎えた最終陳述。西原被告は、言いたいことをまとめたという紙を手に証言台に立ち、その内容を読み上げた。

「ひどい暴行をしてしまった、大変申し訳ないことをした」
「楽しい日々をできなくした、大変申し訳ない」
「弁償や服役など、罪を償いたい」
「しかしかえって来ることはない、申し訳ない」
「逆の立場なら絶対に許せない」
「真剣に向き合って罪を償う」
「短気な性格と向き合って直していきたい」

事件から5年目の判決

2023年3月10日に開かれた判決公判。松山地裁の高杉昌希裁判長は、起訴内容を全面的に認め、被告に求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。

最初の裁判で懲役19年の判決が言い渡されてから、約4年半が経過していた。

判決の中で高杉裁判長は、一連の犯行について「強い殺意に基づいた、被害者の尊厳を踏みにじる極めて悪質で残忍な行為」「ドライブレコーダーの消去など罪証隠滅行為は卑劣」と非難した。

判決の理由が読み上げられる。

「被害者は30歳という若さで突如生涯を閉じることを余儀なくされた」
「新居を構え、ゆくゆくは子どもを授かり夫とともに温かい家庭を築くことを思い描いていたのに、被告の手によってその未来を奪われた」
「わいせつな行為により尊厳は大きく踏みにじられた」

被害者参加制度で意見を述べた、被害者の母親と夫の心情にも及んだ。

「女手ひとつで大切に育ててきた愛娘を失い、大きな喪失感と、被告に対する深い憎しみ、怒りから心身に不調をきたした」
「心の支えとなっていた最愛の妻を失ったことが受け入れられず、思い出の場所に行って被害者の面影を探し、抱えきれない悲しみや怒りで苦しんでいる」

そして西原被告の「障害」について触れる。

「被告には自閉傾向を含む軽度知的障害があり、一般的に衝動を抑制しにくい側面があった」と認定した上で、運転手として働くなど通常の社会生活を送っていたことや、犯行時には証拠隠滅行為を取っていたことなどを挙げ「障害が犯行に与えた影響は限定的で、被告のために大きく考慮することができない」と指摘。

その上で「被害者に落ち度があるような弁解を繰り返し、自らの犯した罪に真摯に向き合うことができているとは言い難い」「謝罪の言葉は表面的」「事件から5年近くが経過してようやく書き上げた謝罪文に弁解を記載するなど、遺族らの感情を逆なでした」と言及。反省は不十分と言わざるを得ないと結論付けた。

そして39歳になっていた西原被告に対して、判決が言い渡された。前回の一審判決より重い、求刑通りとなる無期懲役だった。

2度目の判決、無期懲役 不服として控訴

松山地裁の法廷で、2度目となる判決。弁護士などによると、西原被告は無期懲役の判決を不服として、本人の意思で、控訴期限だった3月24日付けで控訴した。

事件から5年11か月 2度目の高裁判決

2024年1月18日、高松高裁で開かれた控訴審の判決公判。佐藤正信裁判長は「松山地裁の判決に不合理なところはない」として、無期懲役の一審判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。

18日時点で、西原被告の弁護人は「上告するかどうかは本人の判断に任せる」とコメントしている。

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