スーパーは30キロ先の地域で、唯一食料品が手に入る商店 閉店の危機打開策は

鶴ケ岡のお年寄りの暮らしに欠かせない存在となっているたなせん(南丹市美山町鶴ケ岡)

 高齢化率約50%、スーパーマーケットは約30キロメートル先―。京都府南丹市美山町に、お年寄りの暮らしを守るため住民出資で営む二つの商店がある。今年で開店から25年が経(た)つ。買い物はもちろん、コミュニティーの拠点として欠かせない存在となった。人口減に伴って売り上げ減に悩むが、きめ細かな工夫を凝らし、住民らが地域のともしびを守り続けている。

 福井県境に近い山あいの同町鶴ケ岡。「たなせん」は地域で唯一食料品が手に入る店だ。店内では1人暮らしの女性(85)が食パンを買っていた。「遠くへの運転は不安なので買い物はいつもここ。顔なじみの店員さんとは、ついおしゃべりしてしまう」と笑う。

 1999年10月に開店。JAの合併に伴い、購買部のあった鶴ケ岡支所の閉鎖が決まり、住民らが会社をつくって引き継いだ。店名は地域を代表する行事「棚野の千両祭」にあやかった。

 菓子や調味料、洗剤など日用品がそろう。野菜は買い手に人気な上、売る農家の生産意欲にもつながる。配達や送迎も無料。最大出資者の鶴ケ岡振興会と両輪で、安心して暮らせる仕組みを築く。

 だが、開店時に約1100人あった鶴ケ岡の人口は現在約600人。年間売り上げもほぼ半減の2千万円強となり、赤字に。「傷が広がる前の閉店も検討された」と下田敏晴社長(73)は明かす。

 それでも「閉まれば本当に寂れる」と、多くの住民が危機感を共有。2022年に大型機械を貸す農事部を廃止し、高齢者宅の雪かきを担った福祉部の事業を振興会に移して存続させた。不便もあるが「せめて購買だけは残したい。地域の明かりが消えてしまう」との決断だった。

 経営改善のため、利用促進策を次々と始めた。配達や商品取り寄せのサービスを知らない人も多かったことから、B4判の月刊紙を創刊。季節のお薦め商品も載せ、区長に全戸配布してもらっている。店舗主任の菊地由紀さん(42)は「反響は大きい。鶴ケ岡の今が分かる読み物にもなれば」と意気込む。

 観光客にも期待を寄せる。23年7月に同振興会などが出資した会社が空き家だった古民家を改装し、一棟貸しの宿を開いた。フロントはたなせんの店内にあり、宿泊者は自炊用の食材や飲料を買うだけでなく、住民との出会いも楽しんでいる。

 現在の高齢化率は49.8%。先行きは厳しいが、下田社長は「皆で自分ごとの課題として考え、知恵を出し合いたい」と前を向く。

 同町大野の「大野屋」も、同様の経緯で営業する店だ。農業が盛んな地域だけに、充実の直売コーナーが市外からも人気。12月中旬は冬野菜やユズ、キウイなど約20種類が並んでいた。大野ダムへの観光客も来店するのが強みで、人口や高齢化率は鶴ケ岡と同程度ながら年商4千万円以上で、黒字を保つ。

 それでも人口減は進む。「自分の店」として支える意識が広がることを願い、店内は高齢者サロンで作られたクリスマスリースで飾った。併設のキッチンは借りられ、弁当やパンを調理して売る住民もいる。山口恒一社長(71)は「地域と関わる地道な取り組みが大事。いつでも人がいる交流の場になりたい」と願う。年を重ねても地域に住み続けられる仕組みの模索は続く。

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