「闘病記は命のバトン」患者の真意知る助けに 1100冊集めた私設図書館、大阪でオープン

闘病記のみを集めた私設図書館。約1100冊が病気の種類ごとに分類されている=大阪市中央区内平野1

 闘病記だけを集めた私設図書館が大阪市中央区にオープンした。館長の金井一弘さん(67)は、編集者として出版を手がける一方で、約30年にわたって絶版や大手書店に流通しない本を収集してきた本のスペシャリスト。それがなぜ闘病記に特化した図書館を? 金井さんは「闘病記は命のバトン。必要とする人が集える場に育てていきたい」と説明する。(津田和納)

 大阪メトロの天満橋駅に近い事務所の一室。天井に届くほどの本棚には約1100冊が収納され、「がん」「脳卒中」「コロナウイルス感染症」など細かく分類されている。

 「病気がちの妻のために」と闘病記に関心を持ったのは1990年代後半、まだ紙の本が主流だった。「闘病記は今より格段に少なく、それもがんについてばかりだった」と金井さん。

 出版社で書店への営業を担ってきたが、次第に本作りにひかれ、99年に出版社「星湖舎」を設立。当時は自分史や旅行記を自費出版するのがブームで、そうしたニーズに応えた。

 転機となったのは2003年、白血病を患う女性との出会いだった。女性は元気で明るく、本を通して経験を伝えたいと、出版への意欲に溢れていた。だが、1人で寝る時、乳がんと闘ったある女性の本を胸に抱いて寝ていると聞いた。

 「闘病記が不安や孤独に寄り添うことができると気づいた」

 以降、数多くの闘病記を出版。19年に闘病記と障害のある人のための出版社として再出発し、昨年12月、私設図書館を開設した。

 ▽インフォームドコンセントの定着で多様化

 金井さんによると、闘病記の種類や性質は、インフォームドコンセント(IC=十分な説明と同意)の確立とともに変化したという。

 「ICがない2000年ごろまでは、患者に病気が告知されない時代。がんと言えば不治の病のイメージで、闘病記には『看護師からこっそり病名を聞く方法』とか、今では考えにくいことが書かれたものです」

 現在も、2冊に1冊はがん患者の本というが、ICの定着で患者や家族と共に治療方法を考えるようになり、内容が多様化。近年は精神疾患や発達障害の当事者が書いた本も増え、コミックエッセーの出版も目立ってきた。「お涙ちょうだいよりも、自身の体験を面白く分かりやすく伝える傾向になった」という。

 だが、患者数の少ない難病の本は依然として少ない。「売れないことが要因だが、後世に残す価値は十分にある」と考え、採算度外視で精力的に出版している。予算や収蔵スペースの事情で、公立図書館が闘病記を積極的に蔵書に加える余裕がないとも聞く。医療従事者にも訪れてほしいといい、「患者の本音を知るために利用してほしい」と促す。

 大阪市中央区内平野町1の3の7。開館は平日午前11時~午後4時。星湖舎TEL06.6777.3410

看護に役立てようとビブリオバトルも 神戸の専門学校

 医療従事者が、患者の真意を知る助けとして、闘病記が活用されている。

 神戸看護専門学校(神戸市中央区)は2016年から全学年を対象に年1回、お薦めの闘病記を推奨し合うビブリオバトルを開いている。

 生徒からは「励まそうと思ってかけた言葉がネガティブに捉えられる場合があると分かった」「患者さんがどんなことに恥ずかしさを感じるか学べた」などの声が上がる。終末期を扱う作品の場合、身近な人の死を体験したことがない学生が想像力を養うきっかけにもなるという。

 大西安代学校長(62)は「全学生が今後の看護に役立つと答えた。読書を通じて、多様性を受け入れ、柔軟に対応していく、看護師としての根幹を身につけてほしい」と話す。

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