「食べログ」側が逆転勝訴 「チェーン店の点数を下げる」は “消費者の利益”か

会見を行った任和彬(イム・ファビン)社長(1月19日都内/弁護士JP編集部)

2024年(令和6年)1月19日、飲食チェーン店がグルメサイト「食べログ」の運営会社を訴えた訴訟の二審判決が出された。食べログ側に賠償を命じた一審の判決を覆す、飲食店側の逆転敗訴となった。

アルゴリズムの変更は「消費者の感覚を反映」するとの判断

本訴訟は、焼き肉チェーン「KollaBo(コラボ)」の運営会社・韓流村が「チェーン店であることを理由に評価を不当に下げられた」として、グルメサイト「食べログ」の運営会社・カカクコムを訴えた訴訟。2022年(令和4年)6月の一審ではカカクコムの独占禁止法違反が認められ、3840万円の支払いが命じられたが、判決後に両社が控訴して二審に進んだ。

訴訟のきっかけは、「KollaBo」21店舗の評価点(5点満点、点数に応じて星形のマークが表示される)が平均約0.2点下落したことにある。韓流村は食べログの店舗会員(有料)であったが、点数の下落が原因で来客数が減り、損害を受けたと主張した(2019年5月)。

争点となっているのは、「飲食店の評価点の基準が変更されたことは独占禁止法違反であるか」、「評価点が下落したことで韓流村に損害が生じたか」、そして評価点を算出する「アルゴリズム」の妥当性である。

一審の地裁判決は、「チェーン店は評価を下げる」と食べログ側がアルゴリズムに変更を加えていたことが「Kollabo」の点数が下がった原因と認定し、事前の通知なく変更によって不当に不利益を与えたとして独禁法が禁じる「優越的地位の濫用」にあたると判断。実際に減少した営業利益の一部を損害と認定し、食べログに賠償を命じた。

しかし、二審の高裁判決はアルゴリズムの変更が韓流村にとって「不利な扱い」だったと認めつつも、一般消費者の感覚を反映するものとして変更には「合理性がある」と認定。また、食べログ側が優越的地位を利用したことは認めつつも、「濫用」にはあたらないとし、独禁法違反の構成要件を満たさないと判断。賠償支払い命令も取り消された。

「チェーン店の点数を下げる」は「消費者の利益」なのか

韓流村の代表取締役である任和彬(イム・ファビン)社長は判決後の記者会見で食べログに点数を下げられたことが原因で2019年以降売り上げが大幅に下がり、当時に運営していた店舗数の約7割にあたる19店舗が赤字により倒産したことを強調。「言葉にできないほどの衝撃」「判決結果は大変遺憾であり、強い憤りを感じる」と、涙をにじませながら訴えた。

今回の審理では、2019年5月に食べログが「新ロジック」の導入やチェーン店の点数を下げる「チェーン店ディスカウント」等のアルゴリズム変更を行ったことが争点となった。

食べログ側は、変更は一般消費者の利益に資するものであると主張。

任社長は、一審では存在が言及されなかった「新ロジック」が二審になって急に持ち出されたと批判。また、「同一屋号かつ同一運営主体の店舗が最低2店舗以上運営されていればチェーン店とする」という食べログ側の提示している基準が実際には守られておらず、「Kollabo」と同様の焼き肉チェーン店(11店舗運営)にはディスカウントが適用されず点数が下げられていないなど、アルゴリズム運用は恣意的なものであると主張した。

会見で任社長がとくに強調したのは、食べログの評価点はアルゴリズムのみによって判断されているのではなく、担当者の裁量という人為的な要素が介入しているという点。高裁判決は飲食店にとどまらず、その他の分野のポータルサイトやショッピングサイトの評価アルゴリズムが恣意的に運用されることを許すものだとして、社会的な悪影響をもたらすとの懸念を示した。

2020年5月に韓流村は「食べログ被害者の会」を立ち上げ、2022年6月には「食べログ独占禁止法違反行為に対する集団訴訟」も呼びかけている。しかし、損益分岐点が90%を超えるのが当たり前で利益率の低い飲食店にとって食べログの評価点は死活問題であり、0.1点でも下がると経営に甚大な影響が生じる。大半の企業は食べログ側と争いを起こすことを避けているのが現状だ。

飲食店側は最高裁に上告する意向

判決と同日、カカクコムはプレスリリースを発表。

「当社は、一連の本件訴訟を通じて、当社事業の正当性・適法性を一貫して主張してまいりました」

「本日の控訴審判決では、食べログにおけるアルゴリズム変更に違法性がない旨が確認され、当社の主張が正当なものであったことが東京高等裁判所によって認められたものと考えております」(株式会社カカクコム)

多くの飲食店ポータルサイトでは、ユーザーによって投稿された評価とアルゴリズムを組み合わせることで、掲載店舗の評価点を導き出している。この評価点はユーザーが飲食店を利用する際にどの店舗を選ぶかという判断に、直接的かつ大きな影響を与えるものだ。

また、アルゴリズムは飲食店以外のジャンルの評価サイトやポータルサイト、検索エンジンなどでも用いられている。現代社会においては、アルゴリズムは人々の生活や経済活動と切っても切り離せない。

サイト運営側としてはアルゴリズムの基準は「社外秘」として秘匿することを希望する一方で、サイトの影響を受ける各企業やサイトの利用者としてはアルゴリズムを公開することで評価の透明性や公平性を担保してほしいと希望する「せめぎあい」が存在する。

会見にて、任社長は最高裁に上告する意向を示した。食べログ側も「相手方当事者が上告を行った場合、引き続き当社の主張が認められるよう、適切に対応してまいります」と発表している。

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