山形新幹線E8系、東海道新幹線60周年、北陸新幹線敦賀延伸 サクっとご紹介します 今年のJR本州3社【コラム】

E8系のビジュアル。宇都宮ー福島間の最高速度引き上げで、所要時間を短縮します(画像:JR東日本)

元日夕に「令和6年能登半島地震」が発生、翌2日夕には羽田空港で日本航空(JAL)機と海上保安庁機が衝突と、予期せぬ災害や事故で幕を開けた2024年。鉄道の世界では、3月16日ダイヤ改正で北陸新幹線金沢ー福井・敦賀間が延伸開業する一方で、各地の地方ローカル線で持続可能な交通体系の確立に向けた法定協議会の設置が進むなど、目を離せない一年になりそうです。

本サイトでは、今年デビュー予定の新型車両が紹介されていますが、ここではもう少し視野を広げてJR本州3社の2024年を展望したいと思います。JR東日本、JR東海、JR西日本各社トップの年頭の思いに共通するものは……。

ヒト起点でバリューアップする年

JR東日本の深澤祐二社長は、「JR東日本グループの可能性を最大限に引き出し、ヒト起点で商品やサービスをバリューアップ(価値向上)する年にしていく」と宣言します。キーワードは「ヒト」。社員・従業員、利用客、沿線住民などを含めた「すべての人」は、広義の社会を指すと考えてよさそうです。

鉄道事業は、北陸新幹線の敦賀延伸開業(金沢ー敦賀間はJR西日本管内ですが)と、山形新幹線のE8系デビューが2大トピックス。いずれも3月16日ダイヤ改正です。

E8系のポイントは既報の通りで、首都圏の皆さまが一足早く新型車両に乗車できるチャンスが新ダイヤ直前の3月9、10日に開催される試乗会です。

運転区間は上野―郡山間で、上野、郡山発各4回ずつ。募集各回300人で、全体で2400人。乗車はいずれも片道。応募は専用サイトからで、受付期間は1月15~28日。応募者多数の場合は抽選になります。

Suicaは山形へ

鉄道と社会をつなぐ、生活ソリューション事業(生活サービス事業)も話題華やか。ICカード乗車券のSuicaは2023年5月、東北の盛岡、秋田、青森が利用エリアに加わりましたが、2024年は3月16日から山形県の奥羽線、左沢線主要21駅に拡大されます。

グループの新規事業では、カード会社のビューカードが手掛けるデジタル金融サービス「JRE BANK(ジェイアールイーバンク)」が始動。ネット銀行の楽天銀行と連携して、JR東日本グループブランドの銀行口座が開設できます。特典はグループ共通ポイント「JRE POINT」など。

東海道新幹線は今秋60周年

東海道新幹線の主役になるN700S。同形車はJR西日本、JR九州にも採用されます(写真:JR東海)

続くJR東海。丹羽俊介社長はコロナ禍を教訓に経営体力を強化、「進化・変革する社会にあって、グループ会社を含めた社員が一丸になって、果敢にチャレンジする年にしたい」と意気込みます。

ファンの注目点はここかも。1964年10月1日に開業した東海道新幹線は、今秋60周年を迎えます。日本の高速鉄道時代の扉を開けた東海道新幹線もついに〝還暦〟です。

イベントのスタートは年度替わりの4月1日。記念商品などの企画・発売などを通じて、国鉄時代を含め60年間の利用に感謝しつつ、中央新幹線を含む未来の高速鉄道に対する期待感を高めます(JR東海はリニア中央新幹線を「中央新幹線」と表記します)。

そのリニア、一部は未着工なものの全体として工事は順調。2023年は大深度地下をシールドマシンで掘削する、第一首都圏トンネルで調査掘進に着手したほか、神奈川県駅(仮称)は駅部構築(建設)に着工。山梨県の第一南巨摩トンネルは、山梨リニア実験線区間を除き、初の本線トンネルが貫通しました。

2024年も「工事の安全確保」、「環境保全の徹底」、「地域との連携強化」を3本柱に各種工事を進めます。

新幹線にN700S、在来線に315系増備

東海道新幹線やJR在来線も、サービス充実の手は休めません。新幹線の新鋭・N700Sも追加投入します。

在来線は、名古屋地区の次世代通勤形エース車両・315系電車を集中投入。名古屋―中津川間の快速・普通列車を新型車両に統一し、最高時速を110キロから130キロに引き上げます。引き続き、名古屋地区の東海道線の一部区間と武豊線、さらに静岡地区の東海道線への投入がアナウンスされます。

鉄道事業以外では、グループ共通ポイントサービス「TOKAI STATION POINT」の特典を充実させます。

北陸新幹線は福井・敦賀へ

快走する北陸新幹線。東京ー福井・敦賀間を直通する「かがやき」と「はくたか」のほか、富山・金沢ー敦賀間には「つるぎ」も運転されます(写真:ヒロキ / PIXTA)

ラストはJR西日本。長谷川一明社長は、2024年の経営目標をストレート・シンプルに「ポストコロナへの挑戦」とします。

ポストコロナの期待を託すのは、もちろん北陸新幹線の敦賀延伸開業。金沢―敦賀間には、金沢方から小松(石川県小松市)、加賀温泉(同加賀市)、芦原温泉(福井県あわら市)、福井(同福井市)、越前たけふ(同越前市)、敦賀(同敦賀市)の6駅が誕生します。越前たけふだけが新幹線の単独駅で、他の5駅は在来線駅に併設されます。

敦賀延伸ダイヤは、おおむね次の通り。最速列車の「かがやき」は東京ー福井間を2時間51分(現在より36分短縮)、東京ー敦賀間を3時間8分(同50分短縮)で結びます。2024・3ダイヤ改正を機に、「東京から福井への移動は北陸新幹線」が定着するはずです。

延伸開業から一拍おいた、2024年10~12月に展開するのが「北陸デスティネーションキャンペーン」(北陸DC)。JRグループ旅客6社と福井、石川、富山の北陸3県、北陸経済連合会などが共同展開する全国規模の大型観光キャンペーンで、地元が観光メニューを用意。JRグループが送客を受け持ち、相互に恩恵をもたらすWINWINの関係を構築します。

ここで書くのは少々早計かもしれませんが、北陸DCには震災復興の願いが託されるはず。北陸新幹線は能登に元気を届けます。

関西圏では、2025年4~10月に大阪市此花区の夢洲(ゆめしま)で開かれる「大阪・関西万博」への準備を加速させます。会場へのメーンアクセスの一つが「JRゆめ咲線ルート」。大阪環状線西九条と、終点の桜島駅を結ぶゆめ咲線で、輸送力増強や安全性・利便性向上に乗り出します。

今、求められる改めての地域密着

若干駆け足になりましたが、JR東日本、JR東海、JR西日本の2024年の針路展望は以上。各社に共通するのは、コロナを乗り越えての、さらなる地域や社会密着でしょうか。

能登半島地震のニュースに接して思い起こしたのは、2022年10月に11年ぶりで全線運転再開した只見線の列車を迎えて手を振った地域の人たちの思い。鉄道会社の役目は〝輸送〟だけじゃない。「2024年も地域の心や文化を乗せて走る鉄道であってほしい」。そんなことを考えました。

記事:上里夏生

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