どう守る「災害弱者」 お年寄りや障害者の避難 サポート役も高齢化や尻ごみで担い手不足

避難に支援が必要な西田武尚さん(中央)と自治会長の武久栄一さん(左)、民生・児童委員の筒井あけみさん=明石市魚住町西岡

 災害時に一人で避難できない高齢者や障害者ら、いわゆる「災害弱者」をどう守るか。全国の自治体は、地域と連携して事前に一人一人の避難方法を決めておく「個別避難計画」づくりに取り組むが、支援者不足などでスムーズに進んでいない。能登半島地震でも、倒壊する建物や津波からいかに逃れるかが課題となった。阪神・淡路大震災を経験した兵庫県内でも模索が続く。

 昨年10月、明石市魚住町の清水ケ丘自治会は、南海トラフ巨大地震で震度6弱の揺れに襲われた想定で避難訓練を実施した。独り暮らしで避難計画を必要とする西田武尚さん(85)が車いすに乗り、近所の人たちの支援を受けて坂の上にある公園まで移動した。

 「いつ災害が起こるか分からん。計画があれば安心できる」と、西田さんは笑顔を見せた。

 市によると、この自治会には約440世帯に独居高齢者ら「避難行動要支援者」が76人いる。要介護度の高さなどから22人の計画策定を急ぐ必要があり、西田さんら6人分を完了した。

 対象者の同意を得て、災害時にできる範囲で支える「避難サポーター」を探すなど、住民や福祉関係者らを巻き込んで計画づくりを進めている。

 市の依頼を受けて取り組む武久栄一会長(83)は「支える側も高齢化し、サポーターの引き受け手を探すのに苦労している。『普段から付き合いがない』『自分が逃げられるかも分からない』と尻込みする人が多い」と打ち明ける。

 明石市の要支援者は約1万2千人を数える。市はこのうち約3千人について、早急な計画策定が必要と判断し、沿岸部など約500人を優先、約100人分を完成させた。

 独自の訓練の実施を必須として計画の実効性を重視しており、市福祉総務課は「大規模災害時は行政による公助に限界が出てくる。計画づくりを通じ、地域で助け合う共助を進めたい」とする。

 国は2021年、市区町村による要支援者の計画策定を努力義務化した。23年10月の調査では、全国1741市区町村で全対象者の策定を終えた自治体は8.7%の151、兵庫県内は7.3%の3にとどまっている。

 兵庫県によると、県内の要支援者は約44万7千人(23年1月)で、計画策定済みは1割の約4万5千人。県防災支援課は「工夫している自治体の取り組みを事例集で共有するなど、計画づくりの動きを地道に広げたい」としている。(上田勇紀)

【京都大防災研究所の矢守克也教授(防災心理学)の話】実効性のある個別避難計画を作るには時間がかかる。自治体は策定率に一喜一憂せず、まだ把握できていない災害弱者がいないか目を凝らすべきだ。災害弱者は「日常弱者」でもある。行政は縦割りを改善し、福祉部局と防災部局が手を携える必要がある。支える側も高齢化しており、少数で支援を担うのはハードルが高い。まずは地域に避難できない人がいると知らせるだけでもいい。多くの人が関わり、緩やかに支えていくことが大切になる。

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