ライツミノルタ CL[記憶に残る名機の実像] Vol.03

「ライツミノルタCL」誕生の経緯

「ライツミノルタCL」誕生の経緯は、あらためて述べるまでもないほどカメラ史のなかでは極めてよく知られたエピソードだ。その生い立ちは1972年ミノルタとライツが生産協業を行う協定を結んだことに端を発する。当時ライツは一眼レフの開発に手間取っており、先行する日本のカメラメーカーであるミノルタ(当時はミノルタカメラ株式会社)に製造開発の協力を願い出たというのが協定の実態である。一説にはペンタックスブランドを持つ旭光学工業株式会社にも提携を打診していたとも言われているが、筆者の知るかぎりそれが真実であるか否かは定かではない。

そして、その結果のひとつとして1973年に登場したのが、なぜか一眼レフでなくレンジファインダーの"CL"であった。設計をライツが、製造をミノルタが担当した日独合作機で、ミノルタからはダブルネームの「ライツミノルタCL」、ライツからは「ライカCL」の名で発売され、前者に関しては日本国内のみのリリースとしていた。またレンズは40mmと90mmが専用レンズとして用意され、「ライツミノルタCL」では「M-ROKKOR 40mm F2」と「M-ROKKOR 90mm F4」、「ライカCL」では「ズミクロンC 40mm F2」と「エルマーC 90mm F4」の名とし、いずれもレンズ設計はライツ、製造は40mmがミノルタとライツそれぞれで、90mmが全てライツと言われている。名称の"CL"は、一説には"コンパクトライカ(Compact Lieca)"という説があるか、こちらも実際のところは不明だ。

ライツミノルタCLは1973年に発売。ボディの設計をライツが、製造をミノルタが担当した。そのためか独特の雰囲気を持つ"国産機"に仕上がる。コンパクトなボディには基線長31.5mmの連動距離計と露出計を内蔵。カメラとしての完成度の高さも魅力である

露出計の内蔵とフォーカルプレーンシャッター

「ライツミノルタCL」のコンパクトであること以外の特徴といえば、まずボディに露出計を内蔵したことだろう。基本的には1971年に発売された「ライカM5」同様、シャッター幕の前面に腕木式の受光部(CdS)があり、シャッターを切ると瞬時にボディ内に収納され、フィルムを巻き上げると元の位置に戻るユニークな方式を採用。よくもこの小さなボディに、このような機構を詰め込んだものだと感心する。今になって思えば、その後に登場する「ライカM6」や「ミノルタCLE」のようにシャッター幕に映る光を測光する方式にすればもっとシンプルで安上がりだったのではと思わせるが、反面メカ的な面白さを感じさせる。

腕木式の露出計受光部をシャッター幕の前に配置。シャッターを切ると、瞬間的に受光部は引っ込み、ほぼ同時にシャッター幕が開く。フィルムを巻き上げると、受光部が再び現れる。この受光部があるため、沈胴式のレンズは沈胴させることができず、後玉の出ているようなレンズは装着に注意が必要である。マウントはもちろんライカM

そして縦走りのフォーカルプレーンシャッターとしたところも見逃せない。ライカとして縦走りの採用はこのカメラが初めてで、ボディの大きさから採用したものと思われる。気になるのはシャッターボタンの感触やシャッター音であるが、横走りとするフィルムM型ライカとそう大きくは違わないどころか、むしろ似たようなものとしていることは驚きに値する。

レンジファインダー機として肝心の基線長は、小型のボディゆえ31.5mmと短く、ファインダー倍率も0.6倍と低い。そのため有効基線長は18.9mmとなり、90mmのレンズでは撮影距離や絞り値によっては精度的に厳しいことがありそうである。ちなみに40mmのレンズを装着したときのフレームは40mm用のほかに50mm用が現れる。90mmのレンズを装着したときは50mm用のフレームが消え、代わりに90mm用が現れる。なお、M型のようにフレーム切り替えレバーは備えていない。

軽快なシャッターダイヤルとフィルム巻き上げレバー

操作感で特記できる部分としては、シャッターダイヤルとフィルム巻き上げレバー、そして裏蓋があるだろう。

シャッターダイヤルは軍艦部でなく、前面シャッターボタン近くに備わる。ファインダーを覗いているときなど、シャッターダイヤルが右手人差し指だけで操作でき(設定したシャッター速度はファインダー内でも確認が可能)、この位置でも操作感自体は良好と言えるだろう。なお、設定したシャッター速度を指す指標が、ダイヤル真上を示す位置ではなく、ちょっと斜めとなる位置としているのは、操作する指をダイヤルの真上に置くことが構造上多く、それでは回転させる向きによっては設定したいシャッター速度が指によって隠れてしまうことを考慮したものと思われる。

シャッターダイヤルはカメラ前面部とする。トップカバーの指標はダイヤルの真上となるところではなく、わずかにズレた位置としている。真上になる位置に指標を置くと、シャッターダイヤルを動かす指で設定したいシャッター速度自体が見えなくなるためと思われる。ISO感度ダイヤルもシャッターダイヤルと同軸の位置に備わる

フィルム巻き上げレバーは、ミノルタの製造らしく軽快な操作感だ。ただし、惜しむべくは小刻み巻き上げができないこと。小型化のため機構を組み込めなかったのかもしれないが、ちょっと残念に思えてならない。裏蓋の構造は「ニコンF」に近いもので、本体と完全に分離する。蝶番で裏蓋が開く一般的なものにくらべ脱着は面倒で、フィルム交換中の裏蓋の置き場所も状況によっては困るほどだ。しかも、露出計のバッテリーは裏蓋を外さないと交換できないというオマケ付き。聞いたところによると、この裏蓋の構造についてミノルタは設計したライツと一悶着あったと言う。その証拠に1981年に発売された「ミノルタCLE」では蝶番のものとしている。しかしながら、一方で日独合作のCLらしく思える部分でもある。

裏蓋は分離タイプ。フィルムの装填自体はしやすいが、裏蓋の脱着はちょっと面倒。ライカとの協業であったことを知らしめる部分と述べてよいだろう。露出計のバッテリーは巻き上げスプール下部に収まるが、フィルムの途中でのバッテリー交換は、裏蓋を開けなければならないため、基本できない

中古市場における「ライツミノルタCL」

「ライツミノルタCL」の中古市場での価格は状態により幅があり、ボディ単体で4万円から8万円ほど。ちなみに「ライカCL」の中古価格はもう少し値が上がり6万円から15万円ほどである。値段の幅の要因のひとつが露出計の状態。もちろん動かないものは安く、動いているものは高い値付けであることは言うまでもない。CLは電池がなくても動く機械式のシャッター機構を持つので、露出計が作動しなくても撮影は楽しめる。そのため安く手に入れようと思うのであれば、「ライツミノルタCL」銘で露出計が不動のものを狙ってみるのもありだろう。もちろん露出計が動いたほうがよいという人や、「ライカCL」銘がよければ、それなりに余裕を持った予算を組む必要がある。

「ライツミノルタCL」にまつわる回顧

個人的な「ライツミノルタCL」の思い出としては、1979年に「ニコンF2」を手に入れたのだが、その直前まで「キヤノンF-1」とともに同モデルも購入の候補として検討していたことである。当時カメラ誌の後半ページには全国のカメラ店が広告を多数出稿しており、品揃えや価格を見ているだけでワクワクするものであった。そのなかに新品の「ライツミノルタCL」を販売しているお店があり、幼いなりに激しく心が揺らいでいたのである。ちなみに「ライツミノルタCL」の生産終了は1977年と言われているので(1976年という説もある)、すでに2年ほど経っていたのだが、在庫が残っていたのだろう。今思えば貴重な存在だったが、当時は通販でカメラを購入することはあまり一般的でなく、また小遣いやアルバイトで貯めたお金を見知らぬ土地の見知らぬカメラ店に送ることがとても不安で、結果購入を諦めた経緯がある。"たら・れば"の話となってしまうのだが、もし勇気を出して「ライツミノルタCL」を手に入れていたら、その後、撮る写真がちょっと変わっていたかもしれない。

大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。
一般社団法人日本自然科学写真協会(SSP)会員。

© 株式会社プロニュース