付き合っている彼氏はいるけれど、別の男性とも親密な関係を持っている。
いわゆる「二股」は、どちらの男性にも嘘をつくことが避けられず、そんな自分をどう受け止めるかでも心が不安定になりやすいものです。
二股をする自分を「間違っていない」と許してきたある女性は、ふたりともを失ってから自分の考え方のおかしさに気が付きました。
女性に何があったのか、お伝えします。
「好きだから仕方ない」葛藤の末に“二股”を正当化した女性
「だって、彼のことも好きだって思う気持ちは本当で、どうしようもなかったのです」
28歳の朱美さんは、絞り出すような声でそう言ってうなだれました。
朱美さんが指すその男性は、彼氏ではないいわゆる「浮気相手」。
交際期間が1年になる彼氏がいた朱美さんは、そのうちの3ヶ月、別の男性とも深い関係を持っていました。
やっていることが「二股」であることを朱美さんはよくわかっていて、「最初は本当に悩みました」と振り返ります。
告白して「付き合ってほしい」と言ってくれた彼氏のことは好きだけれど、友人の彼氏として偶然に知り合ったその男性に向ける関心も止められず、「片思い的な感じで」接触を持つうちに男性のほうも向き合ってくれるようになります。
朱美さんに彼氏がいることを知っていても、「彼氏に関係なく人としての付き合いは大事でしょ」と、堂々としていたそうです。
仲が近づくと否応にも「浮気」「二股」と不安になる気持ちが湧いてきて、それを言うと男性は「でも、好きなら仕方ないよね」と朱美さんを優しく抱き寄せたといいます。
「好きな気持ちは仕方ない、この人の言う通りだと思いました。
こんな自分で申し訳ないと思ったけれど、彼氏のことも本当に好きで別れるつもりはなかったし、二股でも間違っていないとそのときは本気で思ったのですよね……」
私はどちらの男性に対してもちゃんとやれる。
彼氏と浮気相手の間を行ったり来たりしながら、朱美さんは自分の状態を何とか正当化してきたそうです。
状況が違う「二股」の内容
自分が浮気相手だと自覚のある男性は、朱美さんに「彼氏より自分を優先しろ」など無茶な要求をすることはなく、空いた時間に会えればいいような気軽さに朱美さんは安心していたといいます。
「でも、いま思えば彼にとっては私のことなど遊びでしかなくて、浮気相手でむしろラッキーくらいの気持ちだったのかもしれません。本当に私のことが好きなら、彼氏と別れてほしいとか言いますよね?」
朱美さんは苦しそうな表情でそう言いますが、最初から「コブ持ち」の自分について男性からどう見られるか、想像していませんでした。
「彼氏とはラブラブでした」と振り返る中身は、常に彼氏のほうから積極的に連絡やデートの誘いが来る状態で、愛されている実感が強く別れる気は起こらなかったといいます。
朱美さんの行きたいお店を優先してくれて、週末のお泊りデートでは雰囲気のいいホテルに連れていってくれて、「私が不機嫌になったら慌てて謝ってくるところがかわいくて」と、関係の主導権を握っているのは朱美さんでした。
男性側から告白して始まった交際なら、「続けたいなら彼氏のほうががんばるべきでは」と朱美さんが思っていることは、いかに愛されているかを説明する口調で伝わりました。
そんな状態だから二股ができるのであって、何もしなくても勝手に愛情を注いでくれる彼氏と、自分への関心に物足りなさを覚える浮気相手と、自分の好きなように振る舞える刺激のある日々でした。
「浮気相手のほうは私が追いかけないと会えないけど、そういうストレスも彼氏といると甘やかしてくれるから消えるのですよね。
だから彼氏が一番だったし、浮気相手が私に本気になってくれていたらまた変わったかもしれないけど、最後まで彼氏と別れるつもりはありませんでした」
嘘がバレるとき
そんな「自分のことが大好きな彼氏」から別れを切り出されたのは、朱美さんの部屋に浮気相手の彼が残したタバコが原因でした。
「彼を泊めたのは、彼氏とのデートの後でふたりで飲みに行って『酔ったから休みたい』と彼が言い出して、仕方なく部屋に連れてきたときでした。
次の日の朝に帰った後でタバコとライターを忘れていることに気がついたのですが、『今度でいいよ』と言われてそのまま置いていたのがまずかったです……」
彼氏が朱美さんの部屋を訪れたとき、ベッド脇のサイドテーブルに置かれたタバコと男物とわかるライターを発見します。
「浮気しているのだろうなと思った」
と彼氏は最初に言ったそうで、驚く朱美さんに
「俺と会っているとき、そわそわしているし『この後誰かと会うのかな』って考えたことがある。
そう聞いたこともあったよね?
いきなりLINEの返事が来なくなったり電話をかけても出なかったり、『友達と会っていた』って言うけど場所とか言わなかったよね?
嘘をつかれているのかもってずっと思っていた」
彼氏は静かに「別れよう」と続けました。
「目を合わせないし見たこともないような顔をしているし、すがっても無理だなってすぐわかりました。
それまでは、この二股がバレてもこの人なら許してくれるだろうってどこかで思っていて。
謝ったけれど、彼氏はそのまま自分のものを持って部屋を出ていきました」
最悪の終わりとなった彼氏との交際でしたが、朱美さんにとってさらにショックだったのは、浮気相手の彼からも遠ざけられたことです。
「彼氏と別れた日に彼に会って、正直に二股がバレて終わったと言ったら『俺のことは知られた?』って、自分の身バレを心配していました。
タバコとライターを見られただけと返したら、ため息をついて安心していた姿が忘れられないです。
『大変だったね』と言ってくれたけど、私がひとりになったと知ってもじゃあ付き合おうとか言わないし、何ていうか本当に軽いのだな、とわかって……」
その後、この男性とはLINEでメッセージを送っても未読スルーになり、電話をかけても出てくれることはなく、そのままフェードアウトになったそうです。
「都合のいい愛情」はない
二股の末にふたりともを失った朱美さんは、「結局、真剣なのは私だけだったのでしょうか」と、彼氏より浮気相手の男性のほうを気にしていました。
「自分だったら、彼女がいて交際を続けながら自分とも寝ている男性を本気で好きになりますか?」
と正面から尋ねると、しばらく黙った末に
「なると思います。本当に彼女が本命なら私と会うこともないはずだし、浮気から本気になることもありますよね?」
と、またまっすぐにこちらを見つめながら朱美さんは返しました。
それは、そのまま彼女自身の状態を指すもので、彼氏がそもそも「本命」ではなかったこと、浮気相手に本気になっていたのは自分だったことが伝わりました。
朱美さんは「二股」と言いますが実態は彼氏より浮気相手を求めていて、彼女が口にする「真剣」は「ふたりの男性を平等に愛する」ではなく、「彼氏がいながら浮気相手とのつながりに本腰を入れている」状態です。
浮気相手の男性の、自分との関係に関心が薄いことや彼氏がいることにやきもちを焼かないことなど、朱美さんには不満がたくさんありました。
対して彼氏のほうは何もしなくても愛情をたくさん与えてくれる状態、朱美さんが指す「真剣」はそれに応えることであって、自分は愛する努力をしなくてもいいと思い込んでいたことが油断を生みました。
浮気がバレたときの、静かに怒りと落胆を見せる彼氏の姿は、軽んじられていた事実とこれまでの努力が無駄になった虚しさとを伝えてきます。
それを見てもまだ浮気相手の男性のほうを気にかける朱美さんの様子は、向けられる愛情を自分の都合よく置くことに疑問を持たず、正常じゃないつながりをよしとできる男性の本性も見抜けていないと感じました。
どんな関係でも、自分ではない人間、操作できないその人の意思が入るのであれば「都合のいい愛情」はありません。
二股を「間違っていない」とした時点で、朱美さんは人を好きになることの本質を見失っていたといえます。
女性が気がついたこと
その朱美さんが「気がついたのですが」と教えてくれたことがあります。
「ふたりとあのまま続けていても、いずれどちらかとは終わるというか、ひとりに絞らないといけないときが来たのですよね。
そのとき、もしかしたら私はどっちも選ばないのでは、と思いました」
驚いて理由を尋ねると、
「ひとりになってから、彼氏のことを思い出してもそこまでつらくならないというか、正直に言えば本当に好きではなかったのだと思います。
もう一人の彼も、浮気相手だから関係を持っていたのであって、この人を本命にするかって言われたら違うなって。
結局、最後も今のようにひとりになったのかもしれません」
淡々と話す口調は、「自分に見切りをつけた」男性たちを冷めた目で見ていることが伝わりました。
その実感こそ朱美さんの正解であり、二股のようなおかしな関係で複数の人とつながっていても、「人を愛する自分」の幸せは手にできません。
愛されてそれにあぐらをかいていても、その状態で別の人を好きになっても、「愛する」がそもそも能動的に人を求める在り方なら必ずどこかで行き詰まります。
最終的にどちらも選ばずひとりになる、それが異常な関係の終着であって、「おかしいのだ」ということに、朱美さんは気づいていました。
恋愛自体は複数の人が絡んでもOKとなっても、交際に関しては一対一で向き合うのがまっすぐな愛情を向けられる在り方で、どちらの男性からも「切られた」朱美さんは、自分もまたどちらの男性も愛していなかったことを、改めて知りました。
*
人を好きになりお付き合いすることは、一対一だからこそ「自分だけ」を信じて互いに愛情を向けあえることに替えのきかない喜びがあります。
二股のように愛情を「分散する」のは本来できないのが当たり前で、嘘や矛盾が避けられないためにいずれ終わりを迎えます。
「人を愛する」姿勢は、ひとりの人間にしっかりと集中できる強さがいるのだと、忘れてはいけません。
(mimot.(ミモット)/ 弘田 香)