33年ぶり株高に水差す“NISA陰謀論” 岸田首相は有価証券保有ゼロ、小倉優子は「裏がある」発言

新型コロナウイルス拡大は「謀略」というデマが収束したと思えば、今度は能登半島地震は「人工地震」……。ところ構わずはびこる陰謀論はさらに、新NISA(少額投資非課税制度)にまで台頭した。タレントの小倉優子は「国が推しているから裏がある」と発言。トンデモ発言に違いないが、「増税」色が際立つ岸田首相肝いりの税制優遇策だけに疑心暗鬼になるのも無理はない。NISA陰謀論を検証してみる。

年明けから日経平均株価が続伸中だ。バブル期以来33年ぶりの株高は、おおむね二つに起因するだろう。一つは日米の政策金利をめぐる市場の観測だ。国内では能登半島地震の影響で、日銀による金融正常化の観測が後退。一方の米経済も減速し、米連邦準備制度理事会(FRB)の早期利下げ観測が弱まった。日米の金利差拡大が再認識されて為替市場で円安が進み、円安効果を享受する輸出関連の銘柄を中心に買い注文が集まった。

そして、もう一つが今年1月に始まった新NISAだ。個人投資家の新規マネーが市場に流入し、相場を押し上げている。米ブルームバーグ通信によると、楽天証券の年初の新規口座開設が前年同期と比べて3倍ほどに急伸しているという。

■ゆうこりん「裏がある」発言が飛び火

歴史的な株高に水を差すように、新NISAにも陰謀論が台頭した。小倉優子はテレビ番組でNISAに「手を出していない」とした上で、「国が推しているものにいいものがあるのかって。何か裏があるんじゃないか」と直言。リーマン・ショック(2008年)で「痛い目」に遭い、株式投資を警戒しているという。

この発言でSNSは《国に騙されるな》《暴落来るぞ》と活気づいた。NISAは株式や投資信託で得られた配当金や売却益に対し、本来は約20%課税されるところ、非課税になる制度。今年1月の新制度移行により、非課税の投資枠と保有期間が大幅に拡充された。そんな政府の「大盤振る舞い」(経済評論家)に「裏がある」という理屈だ。

陰謀論の根底にあるのは岸田首相に対する懐疑だろう。打ち出した防衛費「倍増」や「異次元」の少子化対策の財源として税負担の加重が懸念され、「増税メガネ」の悪評が定着した首相。NISAの税制優遇とイメージが相いれない。資産報告書(2021年12月時点)によると、そもそも「貯蓄から投資へ」の旗振り役である首相自身が有価証券を保有していないのだから、信用できないのもうなずける。ちなみに、首相の2億円余りの資産のうち1千万円は預貯金だ。

■ビギナー困惑の高値圏

金融庁によると、NISAの政策目的は「家計の安定的な資産形成の支援」と「成長資金の供給」にある。政府側にとっては、新規マネーの掘り起こしによる国内市場の活性化という思惑もあるだろう。現況の株高は狙い通りといえる。投資の大前提として、高値つかみはNG。NISAビギナーは出だしから高値圏からの積み立てとなり、ただでさえ戸惑いやすい相場だ。

ただ、資産運用の王道は「長期・積立・分散」。金融庁は基本的に、この観点でNISAの対象商品を選定している。金融庁のシミュレーションによると、1989年以降に株式と債券に積立投資を続けて20年間保有した場合、元本割れのケースは皆無だった。株価が上昇しても下落しても、一喜一憂せずに保有し続ける気構えがNISAの鉄則だ。暴落時に「すぐ怖くて売りたくなる」という小倉には不向きの投資術だったわけだ。

無論、投資に絶対はない。NISAの対象商品は比較的ローリスクとはいえ、政府も忠告する通り元本割れのリスクは生じる。そのリスクまで陰謀と疑うのなら、お手上げだ。

(文:笹川賢一)

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