機械卸の業績、過去5年で最高 ~ 価格転嫁に強み ~

日進月歩で技術革新が進み、顧客ニーズも多様さを増すなかで「機械卸」に注目が集まっている。2016年の世界経済フォーラムで、IoT(モノのインターネット)による「第四次産業革命」が謳われたが、物価高と人手不足の時代でも機械卸の価格転嫁は進んでいる。
東京商工リサーチ(TSR)は、コロナ禍でも成長をたどった機械卸の動向を探った。


求められる役割

機械卸を巡っては、これまで幾度となく「商社不要論」が持ち上がった。だが、工場などで生産設備の新設を導入する際、直接メーカーから購入すれば済む訳ではない。導入する機械設備だけでなく、多岐にわたる周辺分野の製品に関するノウハウが必要になる。そうした際、多くの仕入先にチャネルを持つ機械卸がユーザーとメーカーの間に入り、ユーザーの様々な要望に応える。
また、メーカーの製品を購入して安定生産に寄与し、信用が低い小規模なユーザーには間に入り取引を成立させるなど金融の役割を果たしている。そういう意味では機械卸は、“商社”でもある。

業界の業績推移

TSRの企業データベースから、機械器具卸売業(自動車卸売業を除く)の2018年度~2022年度まで5年間の業績を分析した。
コロナ禍前の2018年度は売上高約42兆9,522億円だったが、2020年度はコロナ禍の影響を受けたものの、売上高は41兆958億円と微減にとどまった。そして2022年度は46兆2,395億円と大きく回復した。
最終利益は2018年度の7,324億円からコロナ禍でも上昇を続け、2022年度は1兆3,173億円と大きく進展。コロナ禍で機械卸の強みが発揮された格好となった。

機械卸の倒産

2023年の機械卸の倒産で印象的だったのは、7月に破産開始決定を受けた大手ベアリングメーカーの代理店だった堀正工業(株) (TSR企業コード:291038832、品川区)だ。
誰もが堅実経営と信じて疑わなかった堀正工業は、長い間、粉飾決算で信用を糊塗していた。その手口は緻密で、金融機関ごとに決算書を作成し、都内に支店を構える地方銀行を中心に約50行から資金を調達していた。
また、業歴150年以上を誇っていた医療機器商社で、9月に民事再生法の適用を申請した白井松器械(株) (TSR企業コード:570090164、大阪市)は、逆に大胆な粉飾決算を20年以上続けていた。倒産前の6月、決算書に疑念をもった複数の金融機関が借入金の一括返済を求めたが、ほとんどの金融機関は粉飾を見破れなかった。白井松器械が保有する不動産の登記簿に担保権はみられなかった。
粉飾以外では、らくらくスマートフォン販売のFCNT(株)(TSR企業コード:027062554、大和市)は、円安や世界的な半導体不足などでコストが上昇し、自力での再建を断念。5月に民事再生を申請した。

倒産件数の推移

機械卸の倒産(負債1,000万円以上)は、これまで右肩下がりで推移していた。2014年度(4-3月)の261件をピークに減少をたどり、2019年度は225件と前年度から微増したが、コロナ禍の2020年度以降はコロナ関連の支援策効果もあって減少。2020年度は181件、2021年度は176件、2022年度は155件と減少が続いた。ただ、2023年度は4-12月で157件ですでに前年度を超えた。後継者難やゼロゼロ融資返済の本格化などが重しとなり、このペースで推移すると2019年度以来、4年ぶりに前年度を上回る可能性が出てきた。
さらに、負債総額にも注目する必要がある。2023年度は1,581億円と前年度の379億円から4倍に急増した。これはFCNTや堀正工業、白井松器械などの大型倒産が押し上げたことが大きい。
倒産件数と負債の増勢は、機械卸の立ち位置が変わった兆候なのか、目が離せない。

機械卸の強みは価格転嫁

昨今の物価高騰で、様々な業界で価格転嫁に苦慮している。だが、全国の機械工具販売業者の組合である全日本機械工具商連合会によると、機械卸は価格転嫁を図りやすい業界と認識しているという。同連合会が2023年1月に発表した価格転嫁に関するアンケート調査では、174社のうち、約4割(39.1%)にあたる68社が「仕入コスト上昇分を販売価格に80%以上転嫁できた」と回答した。
また、58社(33.3%)が「仕入コスト上昇分を販売価格に50%以上80%未満転嫁できた」と回答した。全体では72.4%の企業が価格転嫁できている。
業界大手の決算報告書では、「急速に物価高騰が進むなか、価格改定前に仕入れた在庫商品を改定価格で販売し、利益が想定より伸長した」と物価高が業績を押し上げたことを記載している。
同じメーカー品を扱う同業との競合はあるが、モノづくりに関わる業界全体では物価高を乗り越えていることがわかる。


昨今の厳しい市況でも、機械卸は他の業界にない強さをみせつける。これはビジネスの特性だけでは説明できない。だが、2023年度に入り、潮目が変わってきた。経済活動がより活発になることが期待される2024年の環境は、どう変化するのか注目される。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年1月19日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

© 株式会社東京商工リサーチ